第16話 召喚士、模擬戦を終える
ストイルがゴーレムを斬りつけるが、ゴーレムの金属装甲により弾き返されてしまう。
「なかなか硬いですね……ならば!」
「……!」
装甲の間、関節にあたる部分に狙いを絞る。
ゴーレムも、腕部に魔力の刃を形成して応戦する。
数合打ち合った後、ストイルが飛び退いて、ゴーレムがそれを追っていった。
「なるほど。召喚獣との分断が目的か」
ケヴィンが剣を構える。
さすが大将家だ。
先ほどよりもずっと、威圧感が凄まじい。
「ゴーレムを相手にするとか、僕には無理だからね」
「俺なら相手にできると?お前と、そのスライムで?」
「どうかな?案外いけちゃうかもよ?」
「……舐めるなァ!」
その体格からは想像できない速度で間合いを詰められる。
上段からの振り下ろしをなんとか避けるが、そのまま横薙ぎが迫る。
これは避けきれない。
けど、問題ない。
「どおりゃあ!」
「っ!このっ……!」
そこに割って入ってくる黒い影。
バーンの体当たりを捌かざるを得ず、ケヴィンの剣は半端に振られて、僕に当たることは無かった。
「邪魔だ!」
今度はバーンに仕掛けるものの、すばしっこく避けられて捉えられない。
「ちょこまかと!」
「ふんっ!文句を垂れる暇があったらその棒切れ、一振りでも当ててみたらどうだ!」
「……この、スライム風情がぁ!」
バーンに突っ込もうとするケヴィンに、今度は僕が割り込む。
「バーンばっかり見ているとケガしちゃうよ」
ダガーで胴を狙うが、これも止められる。
「ぬん!」
力任せに振られた剣を後ろに跳躍して躱す。
着地の隙を狙ってくるケヴィンに、またもバーンが体当たりを放つ。
「連携のつもりか!小賢しい真似を!」
「お褒めの言葉として受け取っておくよ!」
バーンと僕で交代しながら、ケヴィンに仕掛ける。
これが、僕とバーンの基本戦術。
僕の隙となるタイミングでバーンが割って入り、
バーンが耐え切れなくなるタイミングで僕が攻める。
お互いをカバーするようしての一撃離脱。
その繰り返しだ。
僕は多少の体術を仕込まれてはいるが、決して強くはない。
一般兵に毛が生えた程度だ。
バーンも、この姿ではただの態度がデカいスライムだ。
召喚獣としては最弱の部類。
盟約条件を満たしていなければ、バハムートとしての召喚もできない。
それでも、少しでも戦えるようにと考えたのが、この戦術。
そもそも、僕は召喚士だ。
基本的に、僕自身が積極的に攻める必要は無い。
ストイルがカバーに入ってくれるまでの時間稼ぎができればいい。
そういう意味ではこの戦術は有効だ。
だけど。
「口だけは達者だな!次は何をしてくる!?そんな中途半端な攻め方で、俺に勝てると思うな!」
やっぱり、バレてるよね。
彼の言う通り、僕らだけでは、ケヴィンのように白兵戦を得意とする武人にはまず勝てない。
先ほどから仕掛けてはいるものの、ケヴィンも慣れてきたのか、徐々に連携に対応され始めている。
ストイルがカバーに入ってくれることが前提だけど、要となるストイルは今、ゴーレムを相手にしている。
横目で見れば、ゴーレムは腕部から圧縮された魔力を弾丸として撃ち出しており、ストイルはそれを剣で切り払っていた。
近距離も中距離も対応できるゴーレムなんて、白兵戦においては脅威でしかないなと感心してしまう。
あちらの戦いは当然、こちらより激しい。
ゴーレムとの分断を図った結果として、ストイルとの距離も離れている。
カバーに来る余裕はない。
「いつまで時間を稼いでいるつもりだ!?頼みの騎士はゴーレムに掛かりっきり!簡単に相手を逃がすほど、ゴーレムは甘くはない!このままお前と戦い続けていれば、勝つのは俺だ!」
振り下ろされる剣をどうにか躱す。
その背後を狙ってバーンが突進してくる。
「馬鹿の一つ覚えが!」
「ぐあっ!」
ケヴィンの後ろ蹴りが決まり、バーンは大きく飛ばされてしまった。
そのままケヴィンは、こちらを攻め立ててくる。
「バーンレイの名を継ぐ召喚士がどんなものかと期待していれば!召喚獣が強いわけでもなく、召喚獣がいなければ自らの身も満足に守れない!これが次代の王国の盾とは!はっきり言ってがっかりだ!!」
繰り出される斬撃を数回捌くが、熟練の剣士相手にはそれも長く続きしない。
甲高い音とともに、ダガーが弾き飛ばされてしまった。
バックステップで大きく距離を取るが、それもすぐに詰められてしまう。
「こんなものか……」
ケヴィンの剣が、僕を捉えようと振られる。
「こんなものかァ!!アレクシオ・バーンレイィ!!」
「止め!」
フランツ先生の声が聞こえた。
模擬戦終了の合図だ。
「勝手に期待して、勝手に失望して──」
剣が、突き付けられている。
「ただただ我が主を侮辱した挙句、負けていれば世話はありませんね。貴殿こそ、身の程を弁えるべきかと」
「なっ……なぜ?どうやって……お前が、こっちに……?」
ストイルの剣が、ケヴィンの喉に。
「言ったはずだよ?『バーンばっかり見ているとケガしちゃうよ』ってね」
対してケヴィンの剣は、ストイルの盾に防がれて僕には届いていない。
というわけで、この模擬戦は──
「……勝者、アレク!」
僕の、勝ちだ。
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