第14話 召喚士、説明を受ける
「元々いた三人には繰り返しになりますが、アレクさんとクリスタさんのため、改めて説明します」
フランツ先生の隣で、ウィンディさんが説明を引き継いだ。
「昨今、王国内で魔獣や召喚獣に関する不可解な事件が発生しています。突発的な魔獣の
僕らの反応を見ながら、ウィンディさんは続ける。
説明を譲ったフランツ先生は、車椅子に身を沈めてリラックスしている。
「王国軍の上層部は、帝国の動きとの関連性を懸念し、この問題について調査を命じました。しかし、その調査にも問題がありました」
クリスタは緊張した表情をしながらも、しっかりウィンディさんを見つめて説明を聞いている。
「調査に充てられる人員、特に召喚士の不足です。我が国は召喚士の国であり、戦力の主体は召喚士。しかし、召喚術の才能を持つ者は限られます。その中で戦力となる兵は魔獣、召喚獣への対処をしなければならない。対処が必要な事件も増えている。必然的に、調査に充てられる人員が少なくなり、調査が必要な事案に手が回らない状態となりました」
召喚士の不足。
これは我が国が抱える慢性的な問題だ。
召喚士を集めるべく、平民に対して召喚術の才能有無を判定したり、貴族の子供はその判定を義務化する規定などがある。
しかし、必要な人数の確保に至っていないのが現状だ。
「また、調査に非協力的な貴族がいることも、調査を滞らせる要因でした。軍人を目下に見るものがおり、調査が必要な場所への立ち入りを拒否されることが散見されました。自分の領地での問題を調査しに来ているのに、その調査をさせないのは愚かとしか言いようがありませんが」
「こら、ウィンディ」
フランツ先生が口元に指を立てている。苦笑しながら。
フランツ先生も元々軍属だ。
二人とも、軍人への扱いには思うところがあるんだろう。
「……失礼しました。ただ、そういった調査を拒否するような貴族こそ、調査が必要でした。より上位の権限……それこそ王権を発動していただければ調査はできるでしょうが、いちいちそんなことを陛下に対応いただいていたらキリがありません」
ウィンディさんは暗に、我が国の貴族が事件に関わっている可能性を示唆している。
それはすなわち、帝国と繋がっている可能性と言い換えられる。
「軍人であることを秘匿して調査することも可能ではあります。が、秘密は暴かれるもの。どう上手くやろうと、いつかはバレる。ですから、バレることを前提として対処できるような、強大なバックボーンが軍以外にある。そんな者が調査することが望ましいというのが、陛下からのお言葉です」
軍人には、平民から召喚士として登用された者も多い。
現場調査のような、ある種の雑務はそういった者たちが行かされる。
その者たちには、バックボーンはほぼ無い。
軍属であることこそが数少ないバックボーンだが、軍も絶対ではない。
上位貴族から責任を追及されれば軍の権威に関わる。
責任逃れのために、〝しっぽ〟を切るようなこともするだろう。
貴重な召喚士をそんなことで失わないように。
下手な貴族では安易に手出しできないようなバックボーンを持つ者が必要だった。
「ここまでに述べた問題を解決するために目をつけられたのが、ここ。アカデミーであり、あなた方です」
教壇に立つウィンディさんが、僕らの顔を見渡す。
「アカデミーは王国最高学府。将来を有望視される学生が在籍する機関です。当然、召喚士として有望な者も多い。学生であるという点を除けば、戦力としてはうってつけでした」
学生である、という言葉に、座っているフランツ先生が一瞬顔を顰めるのが見えた。
気づいてはいるんだろうが、ウィンディさんは続ける。
「……アカデミーの学生はフィールドワークや研究のため、所定の手続きさえ踏めば王国のどこを訪ねるのも自由です。領主である貴族の許可は必要ですが、たかが学生の調査を拒むような者はいないはず。仮にそれを拒むようであれば、それこそ〝黒〟であるとを自供しているも同然です」
名目さえあればどこでも調査できるというのが、アカデミーの学生であることの最大の利点。
間接的に、それを拒否するような貴族のあぶり出しも可能だ。
「そして、アカデミー自体も強大なバックボーンですが、それ以上に。あなた方に対して好き勝手できる貴族はほとんどいません。皆さんのご実家は王国有数の貴族家。あなた方の家を敵に回したい者なんていませんから」
そこまで述べてウィンディさんは、フランツ先生の隣に戻っていく。
「以上の事から、王家を含めた王国上層部は、軍と独立した特殊調査部隊としてこの〝特別クラス〟を一年前に設立。表向きには高位召喚士の養成を目的とし、実体としては王国内で発生した魔獣や召喚獣による不可解な事象の調査、及び対処をするため、イスラさん、ケヴィンさん、オリビアさんをスカウトしました」
初期メンバーである三人は何度も聞いた話なのだろうが、真面目に聞いている。
これがただの学生であれば欠伸の一つも出ているところだ。
「フランツを司令官として、イスラさんはリーダー、ケヴィンさんは有事の主戦闘員、オリビアさんは魔道具などによる支援を担当してもらっています。そして今回、追加人員として召喚術に長けるアレクさんと、強大な召喚獣を従えられる可能性があるクリスタさんをスカウトし、編入してもらいました」
自分たちの名が出ると、自然と姿勢が正される。
クリスタなんて、これ以上無いほど背筋がピンとしている。
「皆さんのお家は特別クラスの目的に賛同され、あなた方を送り出しています。相応に危険な調査もあるかと思いますが……当然、見返りもあります。〝各々の願いを、例外無く、アカデミーの総力を以って支援する〟というものです。仮にですが……国家転覆が願いであれば、アカデミーはそれすらも支援し、必ずや成し遂げさせるでしょう」
「あくまで例えばの話だよぉ」というフランツ先生のフォローが入る。
フォローにあまり本気が感じられないのは置いておくとして。
逆に言えばこのクラスにいる者たちは、アカデミーの支援が必要な、何かしらの願いや目的を持っているということになる。
当然、僕にもある。
真にバーンを従えるという目的が。
「任期は二年。編入生のお二人は本日から一年半ほど。無事に勤め上げてくれることを期待します。以上が我がクラスについての説明は以上となります。質問は?」
イスラが手を上げた。
「クリスタはまだ召喚術が使えないのですよね?今後戦力となり得るのは先ほどの話から理解できますが……このクラスでなくてもいいのでは?」
「っ……」
「っと、ごめんクリスタ。君を非難するつもりは無くて」
「いえ、心配してくれているのですよね?お気遣いありがとうございます」
もっともな質問だ。クリスタには悪いけど、僕も同じ意見だ。
将来性はあるかもしれないが、即戦力になり得ない者を、今迎えた意図が分からない。
足手まといになるならまだいい。
単純に、クリスタが危険だ。
「確かに、クリスタさんを戦力として数えるには無理があるのかもしれませんね」
そう述べるウィンディさんは、優しい表情でクリスタを見ている。
「イスラさん。最近、近隣の領地でスタンピードの兆候が何回かありましたね?」
「……?はい。私たちも対処に参加しましたから。どれも大事にならず良かったと思いますよ」
「その兆候を誰よりも早く察知し、私たちに教えてくれていたのが彼女です」
「!?」
「偶然!偶然なんです!魔獣たちが普段と違う動きをしているなって思って、もしかしたらって……」
「謙遜する必要はありませんよ、クリスタさん。事実として、それで防げている被害がある。それは素晴らしいことなのですよ」
ウィンディさんの賛辞にクリスタは照れている。
「アカデミーの研究者たちも兆候は把握できましたが、彼女の連絡の方が早かった。これは、彼女の魔獣の知識によるものです。まさに、私たちに不足しているものだと思いませんか?」
「……そうですね。彼女がここに必要な理由が理解できました。ありがとうございます」
質問を終えて「君のおかげだったんだね。助かったよ」と褒めるイスラ。
オリビアが「そのこと、他の誰かに言っちゃダメですわ。研究区の奴らに知れたら、血相変えてあなたを勧誘しに来るに決まってるんだから」と注意している。
照れすぎてクリスタは「はいぃ……」しか言えなくなっている。
足手まといなんて、とんでもない。
魔獣マニアであるクリスタの知識は、個人でアカデミー研究員たちに匹敵する。
知識量で言ったら、むしろ僕らが足を引っ張る可能性がある。
久しぶりに魔獣図鑑を引っ張り出そうかな。
「質問は以上ですか?では、次に……」
「いいだろうか?」
そこで手を上げたのはケヴィンだった。
「どこか空き時間で構わない。だから……」
ふとケヴィンが僕に目を向ける。
その目は、寡黙そうな印象から考えられないほどギラギラとしている。
それはまるで、獲物を見据える魔獣のようで──
「アレクシオ・バーンレイと、模擬戦をさせてほしい」
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