第49話 あぁ……なんてことだ

 結局あの後、散々喘がされ三回もイかされる羽目になった。お陰でオレは腰が立たず、歩くこともできなかった。そんなオレを恭一郎さんは、抱き上げてバスルームまで運び、甲斐甲斐しく身体まで洗われてしまった。


 ──そして現在。


 オレはベッドに横たわり、彼の腕の中で「初夜なのにスキルを上げすぎだ」「反則じゃないのか」と文句を言っていた。


「理央が妖艶ようえんなのがいけない。とはいえ、歯止めが利かなくなった私が、一番悪かった」


 よしよしと、子どもあやすように頭を撫でられる。


 軽くあしらわれたようで、拗ねて口を尖らせると、「寝ないとサンタクロースが来ないよ」なんて言う。


 そんな掛け合いの中、体力の限界がきたのか瞼が重くなってくる。


「愛しているよ、理央。おやすみ」


 意識が途切れる間際、恭一郎さんが囁く。

 そして額に、唇を触れさせた。


 ★★★


 思いのほか早く目覚めた私は、隣ですやすやと寝息を立てる愛おしい人を、飽きることなく見つめていた。


 まだ起きそうにないな。まあ、それも当然か。


 受け身である理央の負担を考えれば、一度で止めるべきだった。わかっていながら、昨夜は理央の痴態に煽られ、本能のまま彼を求め疲弊させてしまった。


 はぁ……なんという有様だ──


 知ってしまった快楽。

 愛する人と迎える絶頂。


 もう知らなかったころには戻れない。毎日でも理央を抱きたいと思ってしまう自分がいる。


 私はそっと、隣で眠る彼の頬に手を伸ばす。


「今まで私は、どうやって理性で押さえていたんだ……はぁーー」


 人間の欲とは恐ろしい。一度解禁してしまうと、再び戒めることがこんなにも難しいとは思いも寄らなかった。


 私は長い自嘲のため息をつくのだった。


 ★★★


 何かが頬を優しく撫でている。

 まだぼんやりする頭を覚醒さようと、オレは重い瞼を持ち上げた。


「おはよう、理央」

 恭一郞さんの甘い声にはっとする。


 そうだ、昨夜……彼に抱かれたんだ。


 自分のあられもない痴態を思い出し、恥ずかしさのあまりベッドに潜り込む。


「おはよう、恭一郞さん」

 掠れた声で挨拶を返す。


「どうして顔を隠すのかな?」

「────」

「理央、出ておいで。顔を見せてほしい。りーお」


 彼にシーツごと抱き込まれる。


「だって、恥ずかしいよ。あんな……声が枯れるほど喘がされたんだからっ」

「それについて、弁解はしないが、もうしないとも言えないな」


 あぁ……なんてことだ。あの真面目で恋愛に興味のなかった彼が、こんなセリフを口にする日が来ようとは。


 少しBL小説を読ませすぎたかも……


 となると、閨ごとを仕込んだのはオレ自身ということになる。その事実に脱力すると、隙を見逃すことなくシーツを捲られる。


「起きて朝食にしよう。といっても、もうブランチだな。ケーキもあるよ」


 シャワーに入るよう促され、オレはバスローブを羽織りベッドを出た。

 そして身支度を終え出てきたときには、すべての準備が整っていた。


「いい匂い。急にお腹が空いてきた」

「では、いただこうか」


 彼もシャワーを済ませ、着替えていた。


「いただきます。うわー、このオムレツふわふわだね」


 クロワッサンも、ふっくらとバターを含んで香ばしく、最高に美味しかった。


 一通り食べ終わると、次は苺がたっぷり乗ったケーキが運ばれてくる。


「豪華なケーキだね」


 恭一郎さんが切り分けて、オレの前に置いてくれる。


 いいのかな、恭一郎さんに給仕させるなんて。でも、まるでお姫様になった気分ではあるけど。


「いただきます! ──ん~、美味しい! 何個でもいけそうだよ」


 スポンジの間にも苺が挟んであって、酸味と生クリームの甘さのバランスがいい。


「あれ、恭一郞さんは食べないの?」

「私は甘いものは苦手なんだ」

「そうなんだ……。でも、一人だけで食べるのは寂しいよ」


 目でもそう訴えると、少しだけならと付き合ってくれた。


 楽しくて、幸せな一時。でも──


 今日は何時まで一緒にいられるのかな。


 日常に戻れば、学生の自分と社会人の彼とでは、生活のリズムが違う。


「理央、おいで。──ここに座って待っていてくれ」

 ソファーに移動しようと手を引かれる。


 言われた通り待っていると、クリスマスカラーの小ぶりな紙袋を手に彼が戻って来る。


 もしかして、クリスマスプレゼント!

 あ、どうしよう。オレからのプレゼントは、まだリュックの中だ。


 このタイミングで、オレも取ってくるべきだろう。


 恭一郞さんはどんなプレゼント、用意してくれたのかな。


 それ次第で、自分のものは気後れして渡せないかもしれない。できればオレが先に渡したい。


「あの、オレも……ちょっと待ってて」


 ソファーから立ち上がり、急いでプレゼントを取りに行った。


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