第47話 アプローチが半端ないよ(性描写あり)

 ずっと一緒に──

 そのために頑張ると誓いを立てるオレに、鷹峰さんはふわりと微笑んだ。


 そして──


恭一郞きょういちろうだ。そろそろ名前で呼んでくれないか、


 甘い声音が、脳内でこだまする。


 な、名前呼び──オレのことも君なしだった!


「どうした? 呼んでくれないのか」

 固まるオレに、鷹峰さんは小首を傾げ、再度要求してくる。


 ぎゃーー! イケメンにそんな仕草されたら、胸キュンどころじゃ収まらないよ!


「きょ……きょ──今日……は……」


 緊張しすぎて、声が裏返ってしまった。目は右往左往するし、はっきり言って挙動不審だ。

 今日……なんて、思わず誤魔化してみたものの、鷹峰さんはオロオロするオレを愉快げに見ている。


 名前呼びって、こんなにハードルが高かったのか──


 できることなら、またの機会にと逃げたいところだけど……そんなに期待の籠もった眼差しを向けられたら、応えないわけにはいかないよね。


 オレは一度、大きく深呼吸をした。


「きょ、恭一郎……さん」

 よかった、今度は言えたぞ。


「っ……照れるものだな、名前で呼ばれるのは」

 要求しておきながら、彼は目元を赤らめ恥じらいを見せる。


 おやおや~


 彼の乙女のような反応に、またもや悪戯心が刺激される。

 オレは練習だと言って、彼の名前を連呼した。すると彼は、ますます顔を赤くする。


 気をよくしたオレだったけど──


 とうとう耐えきれなくなったのか、恭一郎さんが突然立ち上がり歩み寄って来た。


「えっ、なに? ちょっと……えっ、うわー」


 腕を引かれ椅子からオレの腰を浮かせると、膝裏に腕を回され抱き上げられる。


 これって、お姫様抱っこ! 


 慌てて彼の首に手を回し、しがみつく。

 歩き出した恭一郞さんが向かったその先は──ベッドルームではなかった。


「そっちは確か……」

「バスルームだ。湯も張ってある。ゆっくり入っておいで」


 脱衣所で降ろされ、一瞬強い眼差しで射貫かれる。そして、頬にキスを落とし出て行った。


 な、なんだよ、今のは──


 熾火おきびを置かれたかのように、彼の唇が触れた頬が熱い。オレは指先で、そっとその熱に触れる。


「アプローチが半端ないよ……」


 君を抱くよ、そう意図を感じさせるキスだった。

 恋愛初心者だったはずなのに、よもやこんなアプローチをしてこようとは。


 オレも、負けてはいられない!


 一気に服を脱ぎ捨て、オレは念入りに身体中を洗う。それからバラの香りのするバスタブに肩までつかると、少し緊張が和らいだ。


「よし、いざ出陣だ!」


 オレは覚悟を決めてバスルームを出た。


 ★★★


 理央がバスルームにいる間に、私は別室のシャワールームで身体を清めた。それからベッドルームへ行き、抜けがないかの最終確認をする。


 予定では、クリスマスケーキを食べてからのつもりだったんだがな。


 しかし、我慢が利かなかった。それもすべては、理央の愛らしさが原因だ。


すさまじい破壊力だったな」


 恥ずかしそうに、『恭一郞さん』と口にする姿は、幾重いくえにも重ねた理性の壁を一撃で消し去ってしまった。


 そんな逡巡をしていると、ドアをノックする音がした。彼が来たようだ。私は「入っておいで」と声をかけ、ベッドに腰掛け待つ。

 しかし躊躇っているのか、理央はなかなか入ってこない。


「そろそろ入ってきてもいいころなんだが……」

 私は動かないドアノブを見つめる。


 迎えに行くべきだろうか。いや、しかし──

 

 こういうのを、『がっつく』と表現するようだ。何度かBL小説で目にした単語。今なら、その心情が理解できる。


「大丈夫、きっと理央に満足してもらえるはずだ」


 私の頭の中には、借りた本からはもちろん、あらゆる知識が詰め込まれていた。


 ★★★


 入っておいでと、ドアの向こうから声をかけられた。だけどオレは、すぐにドアを開けることができなかった。


 だって……自らの意志で、抱かれに行くってことだよ?


 落ち着け、落ち着け。自分からクリスマスイブにって誘っておきながら、今さら怖じ気づくなんて男らしくないぞ。


 自分を叱咤し、大きく深呼吸をする。


 よし、行くぞ。


 ドアノブを握り、一気に開く──と。


「──きれい」


 部屋の照明は落とされていて、壁に掛けられたカーテンに、優しいホワイトのイルミネーションライトが灯されていた。サイドテーブルには、花瓶に生けられたバラを照らすピンクとホワイトのストリングライトがあった。


 クリスマスの演出に目を奪われ立ち尽くすオレに、恭一郞さんが歩み寄って来る。


「そろそろ、私のほうを見てくれないか?」


 抱き上げられ、ベッドまで運ばれる。そっと降ろしながら、彼もベッドに上がると覆い被さるように、身体を倒してくる。


 二人の重さで、ベッドが沈む──


「ん……んっ」


 最初こそ、穏やかな優しいキスだったけど……角度を変えながら次第に激しくなっていく。上手く息ができなくて、オレが口を開くと、待っていたとばかりに濡れた熱いものが差し込まれた。舌を絡め取られ、上顎をなめられる。その感触にぞくぞくした。


 キスって……気持ちいい──


 オレも応えようと、懸命に彼の舌を追いかけ絡ませた。


「ふっ……ん……」


 キスをしながら、恭一郞さんがオレのバスローブの前を開く。大きな手を胸に這わせ、小さな尖りを探し当てるとそっと撫でられた。


「あっ……!」


 びくりと身体を震わせた拍子に、濃厚なキスが解かれ、恭一郎さんは首筋に唇を移動させていく。そして尖りにたどり着く──


「ひゃっ……あ……」


 本当に男でも感じるんだ──


 物語では大袈裟なんだろうと思っていた。でも違った。


 オレは初めての快感に戸惑うものの……

 

 今のところは、あの本のとおりみたい。


 オレがそんな比較をする余裕があったのは、ここまでだった──

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