なんでもない

はるむら さき

何でもない日の休みの日。

誰かにとっては大事な記念日。

誰かにとっては愛が終わる日。

僕にとっては?


「一日中晴れ。絶好のおでかけ日和」とテレビの中の人が言う。

にこにこ笑顔は嘘の仮面。

笑っているのは口元だけで、目元にうっすら隈ができてる。

おつかれさまです。あなたも相当疲れてますね。


テレビの前で僕はひとり。

いつものように、座り心地の悪い古びたソファに腰かけて、ビールのフタをかしゅっと開けて、喉を潤す風呂あがり。

濡れた髪もそのままに、ただぼんやりとテレビを見てる。

見てるというほど積極的な気持ちもなくて、目に映るから、その映像を脳にぐたぐだ流している。

そんな感じ。

「今日からまちにまった三連休が始まります」

テレビの向こうの誰かが言って「ああ、そうか」と口が勝手に返事する。

無意識のうちに飲み干していたビールの缶を片手でぷらぷらさせながら、僕は重たい身体を引きずって、そのままベランダに出て空を見上げる。

真っ赤な夕日とピンク色の雲が世界を彩る。

夕日に向かってゆるく手を振る。

「いってらっしゃい。おばあちゃん」


僕の祖母が死んだ。

今朝、田舎の母から電話がきて、動揺した声がいった。

「ずっと入院していたの。今朝、容態が急変してね…あんたに会いたがっていた」

うん。知ってるよ。

分かっていたよ。

でも、僕だって自分の命を生きるだけで精一杯だったんだ。


「おばあちゃん。ありがとう。そのうち僕もそっちに行くから。天国に行ってたら、僕もそっちによんでね」

地獄だったら、よばないで。

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なんでもない はるむら さき @haru61a39

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