【第8話】
たまたま通りかかった屋台に、綺麗なものが売っていた。
「これは造花ですの?」
「食べられるのかしラ♪」
「はい、食べられますよ!!」
その屋台の前に佇んでいたのは、ルージュとアイゼルネの2人組である。珍しい組み合わせでショウも思わず足を止めてしまった。
屋台で販売されていたのは、花の形をした飴細工である。透き通る真っ赤な花弁、緑色の茎につけられた棘まで完璧に再現されている。屋台を切り盛りしている若い女性は、ルージュとアイゼルネを接客しながらも薔薇の形をした飴細工を作っている最中だった。
他にも向日葵や百合の花など様々な花が飾られている。どれもこれも飴で出来ているようで、精緻な飴細工は通行人の視線を奪った。一緒に行動しているハルアやリリアンティアもまた興味津々と言ったような雰囲気で並んだ飴細工を観察している。
アイゼルネは「あラ♪」と弾んだ声で言い、
「ショウちゃん、ここの屋台は知っているかしラ♪」
「飴細工ですね。我らが日本が誇る伝統芸ですよ」
そう言うものの、ショウはここまで綺麗な飴細工は見たことがない。
飴細工といえば白鳥や鶴などの鳥類が多いような印象だが、こちらの屋台の店主はかなり手先が器用なようである。綺麗な花弁がずらりと取り付けられており、花や葉っぱの模様まで完全再現されている。ここまで綺麗に花の形を整えた飴細工はそうそうないだろう。
ルージュは驚いたような表情で、
「あら、じゃあこちらはちゃんと食べられるんですの?」
「はい、飴なので食べられますよ」
店主のお姉さんは「どうですか?」と商品たちを指差してくる。
どれも綺麗な飴細工で目移りしてしまう。1輪の赤い薔薇も綺麗だが、彼岸花のように細い花弁の花も向日葵、
ショウたちも一緒に悩んで飴細工を選んでいると、店員のお姉さんが小さく笑った。よほど真剣に悩むショウたちが面白く映ったらしい。
「外国の方に人気なので、興味を持ってもらえて嬉しいです。日本語がお上手ですよね?」
「この日の為に練習しておりましたのよ」
「おねーさんは、後輩がここ出身なのよネ♪ 色々と教えてもらっていたワ♪」
「あ、そうなんですね」
店員のお姉さんは「そうだ」と言い、
「じゃあ、こちらの飴細工はどうですか? 一緒に売ってるんですけども」
「あら素敵♪」
「まあ、素敵な小包ですの」
店員のお姉さんが屋台に飾ってある花の形をした飴細工とは別に取り出したものは、可愛らしい桃色の箱に詰め込まれた色とりどりの飴である。その飴玉は全てがお弁当のおかずの形に寄せられていた。
白い米の部分は金平糖が敷かれており、中央には梅干しを装った真っ赤な球体の飴玉が乗せられている。おそらく日の丸弁当を模しているのだろう。手のひらに乗せられる程度の可愛いお弁当だ。
店員のお姉さんが掲げる箱の中身を覗き込んだハルアとリリアンティアも、可愛いお弁当を模した飴の群れを前に瞳を輝かせた。
「可愛い!!」
「お弁当ですか? 素敵です!!」
「こちらも喜ばれるんですよ」
店員のお姉さんは「どうですか?」と勧めてくる。
こちらの飴玉は甘いだけで終わるだろうが、それでも見た目で楽しいので、たとえ甘くても食べられてしまうのが不思議だ。どれを食べようか悩んでしまうこともある。
ハルアとリリアンティアはほしそうにしているが、大人であるルージュとアイゼルネの興味を唆るものは棚に飾られた花の飴細工のようだ。すでに視線は店員のお姉さんの手のひらに載せられた弁当箱から外れており、飴細工の花を吟味している。
ルージュは「決めましたの」と言いながら、真っ赤な薔薇を模した飴細工を手に取る。
「こちらをいただけますの? あとその弁当箱の飴も2つくださいですの」
「あ、ありがとうございます!!」
店主のお姉さんは、嬉しそうな声でお礼を言う。
店主のお姉さんからすれば、売りにしているのは花を模した飴細工なのだろう。そちらが売れる方が嬉しいようだ。ルージュとアイゼルネは、彼女がどちらの売れ行きを望んでいるのか理解していたようである。
丁寧に飴細工を透明な袋で包み込んで、握力で折らないようにと店主のお姉さんは気を遣いながらルージュに薔薇の花の飴細工を渡してくる。服装が赤色で統一されているから、赤い薔薇の花の飴細工がよく似合っていた。
ルージュは店主のお姉さんにお金を渡し、
「ほらハルアさん、リリアンティアさんも。こちらがほしかったのでしょう? 大事に食べるんですの」
「ルージュ先生ありがとう!!」
「あとでお金を返しますね」
「リリアンティア先生、そういう考えは止すんですの。大人が奢ったんですの、素直に奢られておきなさいですの」
普段こそ殺人的な料理の腕前を披露する阿呆だが、年下には優しい一面のある魔女だ。そう言った部分は素直に大人として尊敬できる。
生真面目なリリアンティアも、さすがに大人であるルージュからそう言われてしまうと何も返せなくなってしまっていた。せっかくの好意を無駄にする訳にはいかないので、嬉しそうに笑って「ありがとうございます!!」とお礼を告げていた。
そしてショウにもまた、横から花が差し出される。真っ青で綺麗な薔薇である。
「ショウちゃんにはこっちヨ♪」
「え、でも」
「こんな素敵な場所に連れてきてくれたんだもノ♪ お礼ぐらいはさせてちょうだいナ♪」
青い薔薇を差し出してきたアイゼルネは、それはそれは美しく笑った。男であれば誰もが惚れてしまいそうな笑顔である。
先輩の好意を無駄にする訳にはいかない。ショウもまた「ありがとうございます」とお礼を告げて、アイゼルネから青い薔薇を受け取った。
――ちなみに、店主のお姉さんがその様子を写真に撮影してSNSに載せたところ大バズりしたのだが、そもそもSNSのアカウントを持っていないショウたちには知らないことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます