【第5話】
「お、いいの食ってるな」
「あ、ユフィーリア」
りんご飴へ齧り付くショウ、ハルア、リリアンティアに合流を果たしたのは竹串に突き刺さった肉をガジガジと噛むユフィーリアだった。
ちょうど牛串の屋台にでも立ち寄っていたらしい、甘辛そうなタレを絡めた牛串を美味しそうに噛みちぎっていた。「酒がほしいな」という要望も小声で聞こえてくる。
ユフィーリアは食べかけの牛串を掲げると、
「お前らも食う? 今、エドが屋台を占領してる」
「占領してるとは」
「注文数が多すぎて屋台の兄ちゃんたちがてんやわんやしてる。まあ、焼けた分の金額は払ってるから屋台の兄ちゃんたちにとっては嬉しい悲鳴なんじゃねえか?」
ほら、とユフィーリアが指差した先にあったのは、牛串を売る屋台である。屋台の見本として脂身の多い肉や色鮮やかな赤い肉が置かれており、掲げられた木札には肉の部位が書き込まれている。どの肉にしようか目移りしてしまいそうだ。
そして忙しそうに網で牛串を焼く屋台のお兄さんたちの前で、エドワードが焼けたばかりの牛串を片っ端から食っていた。表情もとても幸せそうである。肉好きだからこそ、夢のような注文で「片っ端から全部」と言ったのだろうか。
牛串を食べ終えたユフィーリアは、屋台の前で注文品が焼き上がるのを待つエドワードの背中を叩いた。
「よう、どんな感じ?」
「美味しいよぉ、これぇ」
エドワードは順調に牛串を消費していき、
「出来れば酒がほしいねぇ」
「だよな。どこかで買えねえかな」
「お酒の屋台とかないかねぇ」
エドワードとユフィーリアは周囲を見渡す。これほど美味しい牛串と一緒に酒が飲めたら、お酒が飲める彼らにとってはこれ以上ないほど嬉しいことだろう。
ショウも思い出せる限りでお酒を売っている場所を探すが、やはりコンビニぐらいしか思いつかない。小売店になると年齢制限が厳しくなるし、不幸なことにユフィーリアたちは自分の身分を証明できるものがない。免許証も異世界に由来したものではないので、年齢確認をされてしまうと困るのだ。
すると、
「お兄さん、ビールならウチにあるよ」
「本当にぃ? このお姉さんも含めて2杯ちょうだい」
「はいよ」
牛串を焼いている最中だった屋台のお兄さんは、屋台の裏側で肉の仕込みをしている最中だった別のお兄さんに「ビール2杯」と告げる。
肉の仕込みをしていたお兄さんは作業を中断すると、ビールサーバーから透明なカップに小麦色の酒を注いでいった。よく見たら屋台の奥側に「ビール1杯300円」の記載がある。
エドワードとユフィーリアにビールのカップを渡した屋台のお兄さんは、
「はい、600円」
「ユーリごめん、立て替えてぇ」
「仕方ねえな、もう1本牛串寄越せよ」
牛串の追加で手を打ったユフィーリアは、代わりにお兄さんへ金銭を払ってビールが並々と注がれたカップを受け取る。それからグビグビと喉を鳴らしてビールをあっという間に飲み干してしまった。
「え、ビールと合うわこれ」
「無限に飲めるじゃんねぇ」
「お兄さん悪い、ビールもう2杯ちょうだい。牛串に合う」
とうとう飲兵衛どもが酒飲みの体勢に入ってしまった。これはもう止めることは出来ない。
ショウはハルア、リリアンティアと顔を見合わせる。
これほどユフィーリアとエドワードが絶賛するのであれば、その牛串を食べてみたいものである。さすがに未成年なのでビールは飲めないが、先程から肉の焼ける美味しそうな匂いが鼻孔を掠めるので空腹を助長させている。
ショウはエドワードの服の袖を引き、
「エドさん、俺にも牛串ください。食べてみたいです」
「オレもほしい!!」
「身共もお願いします。あとでお金は返しますので」
「何でもいいならいいよぉ」
エドワードは左手を差し出してくる。彼の左手には大量の牛串が握られており、どれでも選び放題であった。
ショウ、ハルア、リリアンティアはそれぞれエドワードの手から牛串を1本ずつ抜き取る。どの部位の肉なのか分からないが、どれを選んでも美味しそうだ。
抜き取った牛串に齧り付くと、甘辛いタレに絡められた肉の旨みが舌いっぱいに広がっていく。ちゃんと炭を使って焼いているおかげで炭の香ばしさも伝わってきて、何本でも食べることが出来そうだ。
牛串の美味しさに瞳を輝かせるショウ、ハルア、リリアンティアの3人は口々に叫ぶ。
「美味しい!!」
「これ美味しいです、炭の香ばしさも最高です」
「お肉の脂身が美味しいです……!!」
「よかったな、お前ら」
ユフィーリアは2杯目のビールを空っぽにすると、
「肉はエドの奢りだからありがたく食えよ」
「え、俺ちゃんのぉ?」
「年上なんだからそれぐらい出してやれよ。年下からたかるな」
「まあいいけどぉ」
エドワードは「いいよぉ、奢ったげるぅ」と太っ腹なことを言う。さすが大人である、今回ばかりはショウも甘えてしまおう。
「見てショウちゃん、射的あるよ!!」
「あ、本当だ」
牛串を食べている最中に、ハルアが人混みの向こうにある屋台を指差した。
射的と看板を掲げた屋台は、様々な景品が台座に置かれていた。玩具の狙撃銃で子供が景品を狙い、ねじり鉢巻が特徴の屋台の店主が声援を投げかける。これは楽しそうである。
ショウとハルアはちょっと悪い笑みを見せ、
「乱獲に行こう、ハルさん」
「だね!!」
「あ、お待ちください身共もついて行きますので!!」
リリアンティアとハルアを連れて、ショウは射的の屋台に向かう。目標は全落とし達成だ。
「あーあ、射的の鬼が行ったぞあれ」
「どれほど景品を取ってくるかねぇ」
人混みに消えていく未成年組の背中を見送ったユフィーリアとエドワードは、牛串とビールを手にしたまま射的の店主へ合掌するのだった。
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