【第4話】

 てぃろりん、という聞き慣れた景品獲得のファンファーレが鳴り響く。



「ショウちゃん凄い!!」


「上手く取れてよかった」



 景品の取り出し口からお菓子の箱を取り出し、ショウはハルアが広げていた大きめのビニール袋に詰め込んでいく。


 お菓子の景品を乱獲していたら、もう15個ぐらい集まってしまった。どれも1000円以上は使わずに取れてしまったものばかりである。異世界のお土産として用務員室に持ち帰るには十分すぎる量だ。

 ホクホク顔のハルアは「次はあれがいいな!!」とチョコレート菓子が大量に積み重ねられたUFOキャッチャーを示す。壁のように積まれたチョコレート菓子には丸い輪っかのようなものがついており、アームを輪っかに引っ掛けて景品を引っ張り落とす仕組みになっているようだ。


 ショウは頷くと、



「じゃあ次はハルさんが挑戦してみてくれ」


「任せて!! いけそうな気がする!!」



 ハルアは親指を立てて、目当ての景品が提示されたUFOキャッチャーに突撃する。どの景品を狙おうかと右に左に筐体の前を移動して、ようやく狙いが定まったところで100円玉を取り出した。

 いざ筐体に100円玉を投入しようとしたハルアだが、何かに気づいたように顔を上げる。バッと周囲を見渡し始めたので、悪い方面に第六感が働いてしまったのだろうかと勘繰ってしまう。


 ショウが「ハルさん……?」と呼びかけ、



「どうしたんだ、いきなり」


「ショウちゃん、あそこ」



 ハルアが示した先にいたのは、幼い子供たちと柄の悪そうな少年2人組の対立構造である。特に幼い子供たちのうち、三つ編み髪が特徴の女の子は声を上げて泣きじゃくっていた。その女の子を守るように2人の男の子が立ち塞がる。

 一方で少年たちは、ショウやハルアと同い年ぐらいだろうか。制服を着崩したその姿は簡単に近寄ってはいけないような危ない雰囲気がある。子供たちを見下ろして不機嫌そうな表情を見せていた。


 女の子を守っていた男の子2人は、自分たちよりも遥かに年上である柄の悪い不良たちに怒鳴る。



「そこはぼくたちがあそんでたんだぞ!!」


「ゆずってよ!!」


「うるせえガキどもだな」



 不良の少年たちは舌打ちをすると、



「ガキがぎゃーぎゃー喚いたところで何になるってんだ?」


「とっとと消えろ!!」



 不良たちの1人が子供たちを蹴飛ばそうとするが、汚い運動靴の先端は子供たちに掠りもしなかった。


 横から飛び込んだハルアが、不良の蹴りを受け止めていたのだ。持ち上げられた足を脇で締め上げ、簡単に外れないように固定する。

 驚く不良を真っ直ぐに睨みつけたハルアは、動かないように固定した不良の膝に拳を叩きつけた。ボギィ!! という音がすると共にその不良の少年は痛々しげな悲鳴を上げる。膝を折られてしまえば立っていられまい。


 リノリウムの床に尻餅をついた少年の顔面を踏みつけ、ハルアは次の狙いを定める。目に優しくないゲームのけばけばしい明かりが、彼の恐ろしい無表情を照らしていた。



「子供相手に何すんの」


「お、おまえッ、お前こそ何してんだよ!?」


「いけないことだって言いたい?」



 ハルアは大股でもう1人の少年に歩み寄り、その胸倉を掴む。



「オレね、殺すのは得意だよ。だってそれだけしかしてこなったから、オマエがどこをどうすれば痛がって死ぬかなんてよく分かる」


「ひッ」



 上擦った悲鳴を漏らす少年に、ハルアは床に倒れた彼の仲間を指差した。



「同じようになりたい?」


「ひ、ひいッ、うわあああッ!!」



 少年は怯えたように悲鳴を上げ、仲間を捨てて逃げ出してしまった。所詮はそんな薄っぺらな関係性である。


 ハルアは次いで、幼い子供たちに視線をやる。

 相対する子供たちは怯えていた。それもそのはず、膝を折って気絶までさせたハルアならば子供など軽く小突いただけでも死に至らしめる。怯えられるのもやむなしだ。


 子供たちと視線を合わせる為にしゃがんだハルアは、



「怖がらせてごめんね、大丈夫だった?」


「ぇあ」


「あの」


「オレ、キミたちには何もしないよ。勇敢に女の子を守ろうとしたんだね、偉い子だ」



 ハルアは2人の男の子の頭を撫で、



「でも、怖かったでしょ。こういう時は大人を呼ぼうね。キミたちが怪我をしちゃったら、女の子をもっと泣かせちゃうことになるから」



 それまで少年たちをぶちのめしていた乱暴さはどこへやら、ハルアは明るい笑顔を子供たちに向ける。年上らしさ、そして元来のお兄ちゃん気質がなせる技である。

 ハルアに頭を撫でられた子供たちは、恐怖を思い出したのかじわじわと瞳に涙を溜めるとハルアに抱きついてわんわんと泣いた。女の子も遅れてハルアに抱きつくと、火がついたように泣いて鼻水をハルアの服に擦り付ける。


 服が汚れようと、ハルアは怒らずに「よしよし」と幼い子供たちの頭を撫で続けていた。鼻水がついてもお構いなしである。



「ハルさん、大丈夫か?」


「平気だよ」



 ハルアは子供たちを撫でてやりながら、ショウに「ごめんね」と謝る。



「この倒れたお兄さん、どうしようか」


「……ハルさんが誰かを怪我させた時の為にとユフィーリアから傷薬を預かっているんだ。それを飲ませて外に放り出しておこう」


「そんなの持たされてたの!?」


「今持ってて凄くよかったと思っている」



 ショウはやれやれと肩を竦め、倒れた少年に最愛の旦那様から預かった傷薬を強制的に飲ませてやるのだった。

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