【第3話】

「ショウちゃん、あれやってみたい!!」


「シューティングゲームか?」



 ハルアが興味を示したのは、玩具の拳銃が紐で括り付けられたゲームである。少し距離を置いて液晶画面が設置されており、そこではおどろおどろしいフォントで『デッドマンズゾンビ・サーガ3』とある。

 ゲームのデモ画面では拳銃でゾンビを撃ち殺す内容のもので、そのあとにランキングが発表される。どうやら最終局面まで到達するとスコアで順位が発表されるらしい。


 ちょうど玩具の拳銃は2丁あるので、2人で遊べば余裕だろう。



「ハルさん、液晶画面に拳銃を投げたらダメだぞ?」


「うん!!」



 元気よく返事をし、ショウとハルアでお金を出し合ってゲームを開始する。


 玩具のような見た目をしているがずっしりと重たく、引き金をカチカチと引くことで液晶画面に銃弾として反映された。リアルすぎる銃声がスピーカーから爆音で流れ、ショウとハルアの鼓膜に突き刺さる。

 銃口を液晶画面に合わせると、液晶画面に狙いを定めるような円が浮かぶ。ショウが赤い円、ハルアが青い円のようだ。動作を確認するような的が出現し、何発か銃弾を撃ち込んでみる。液晶画面で見事に拳銃は作動し、的を正確に射抜く。


 ハルアも準備が整ったようで、玩具の拳銃の重さを確かめていた。「重たいなぁ」と何やら呟き、



「殴った方が早そう」


「ハルさん」


「冗談だよ!!」



 暴力思考になりかけたハルアを諌め、ショウは不安を覚えながらもゲームを開始する。


 薄暗い建物の中に画面が切り替わり、次々とゾンビが出現する。緑色の皮膚に溶け落ちた頬、抜け落ちた頭髪など見た目が非常に気味が悪い。ホラーが苦手なユフィーリアだったら悲鳴を上げていそうである。

 ショウは出現したゾンビに狙いを定め、カチカチと引き金を引く。赤い円で狙った先に銃弾が突き刺さり、ゾンビが次々と倒れていった。


 順調にショウがゾンビを撃ち殺していく横で、シューティングゲームに慣れていないハルアは「わ、わ」と声を漏らしながら何とか対応していく。



「ゾンビ、ゾンビが多い、ゾンビ」


「ハルさん、頑張れ。倒れたら終わりだぞ」


「うん頑張る、頑張るね」



 ハルアもショウを見習って、つたない照準でゾンビを撃ち殺していく。さすが身体能力が高いだけあるのか、動体視力も優れている先輩はゾンビの攻撃すら物ともせずに回避をして着実にスコアを重ねていく。

 舞台が変わるたびにゾンビの強さも量も増していき、なかなか苦戦する場面が出てきてしまう。ただ銃弾を撃ち込んだところで足りない。何か決定的なものでもあれば、大量のゾンビを一気に捌けるはずだ。


 ひたすらに銃弾をゾンビに撃ち込んで捌いていくショウは、



「ん?」



 画面の隅に木箱を発見した。


 赤い円をかざすと情報を読み取ることが出来るので、ショウは赤い円を画面の隅に置かれた木箱に重ね合わせた。すぐに半透明のポップアップが表示され、木箱の中身を告げる。

 ポップアップに表示されていた中身の内容は、地雷という無惨な2文字だけがあった。この木箱に入っているのは地雷なのだ。


 ショウは隣のハルアを一瞥し、



「ハルさん、地雷が取れるぞ」


「ほんと!?」



 ハルアは「オレが取っていい!?」とお伺いを立てる。遠慮なく取ればいいのに、律儀な先輩だ。



「ああ、ぜひ地雷を決めてくれ」


「ありがとう!!」



 ハルアは満面の笑みでお礼を述べ、画面の隅に現れた木箱を玩具の拳銃で撃ち抜く。中から飛び出してきた地雷が、ハルアの青色の円に爆弾の見た目をしたいかにも地雷っぽいアイテムが収納されていった。

 アイテムを獲得すると円の中に吸い込まれ、逆にアイテムを使う時が来たら画面の隅に表示されているアイコンに触れればいいだけである。余計な魔力を使う心配もなくなる。


 さて、強力な武器を手に入れたところで戦いを再開させる。



「あ」


「え?」


「どうしよ、ショウちゃん」



 ハルアがショウに引き攣った笑みを見せ、



「地雷、自爆させるようにしちゃった」


「嘘だろう?」



 ショウが驚いた次の瞬間、盛大な爆発音がして玩具の拳銃越しに振動が伝わってくる。ハルアが持っていた地雷のアイテムを、間違えて足元に落とした挙句にショウを巻き込んで自爆してしまったのだ。ゲーム初心者だから仕方がない。

 爆発に巻き込まれたことで、ショウとハルアのゲームは終了である。『コンティニュー?』の表示と共に10秒間のカウントダウンが始まった。このカウントダウンが終わる前に追加で100円玉を投入すれば続けられる。


 ショウは玩具の拳銃を台座に置き、



「ハルさん、どうする?」


「止めよう、ショウちゃん」



 ハルアは真剣な表情で首を横に振った。玩具の拳銃からも早々に手を離していたので、止める気満々のようである。



「オレ、これ以上やったら暴れる自信があると思う」


「賢明な判断だな」



 さすがに暴れられるのは困るので、ショウはシューティングゲームを続けないことを選んだ。ゲームでも壊そうものなら弁償である。今回ばかりは最愛の旦那様であり世界で最も優しい魔女であるユフィーリアがいないので、壊してしまったら逃げるか弁償するぐらいだ。

 そうこうしているうちに、ゲームのコンティニュー画面が終わりになってしまった。『ゲームオーバー』の文字まで暗闇から浮かぶ。これで本当に終わりである。


 ハルアは足元に置いた兎のぬいぐるみを抱き、



「行こう、ショウちゃん。お菓子があったからそれ取ってみたいな」


「ああ、分かった」



 シューティングゲームを止めたショウとハルアは、再びUFOキャッチャーのコーナーに戻るのだった。

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