【第4話】
「次は肉まんがいいかねぇ」
「あ、ではパンダまんというのがありますね」
ショウが見つけたのは、交差点の一角にある肉まんの店である。そこはパンダの形をした肉まんを提供する店で、何人かの客が並んでいた。
種類は中身の味によって違うようで、パンダの形をした肉まんは変わらないようである。甘いこしあんからカレー、挽肉など多岐に渡る。どれにしようかと目移りしてしまうほど種類が多い。
エドワードは「いいねぇ」と頷き、
「じゃあ俺ちゃんが買ってくるから待っててぇ」
「はい」
肉まんの店から伸びる行列に並ぶエドワードの背中を見送り、ショウは邪魔にならない場所で待機する。すぐ近くにあるのは何度か見かけたオーダー式ビュッフェスタイルの中華料理を提供するレストランのようだ。入り口付近に建てられた龍の巻き付いた柱が客を出迎えており、中華風の外観と内装が目を引く。
食べ歩きのおかげで空腹も促進され、レストラン前に掲げられたメニュー表を眺めているだけでもお腹が空いてきてしまう。炒飯、餃子、ラーメンなど見覚えのあるものから八宝菜、回鍋肉、エビチリなど中華料理の定番メニューまで並ぶ。さらに高級とされている北京ダックまでレパートリーの中にあった。エドワードは喜びそうである。
肉まんを食べ終えたら、本格的にレストランで中華料理を満喫するのも手かもしれない。特にエドワードは底なしの胃袋を持つ大食漢だ、時間無制限ともなればお腹いっぱいになりそうである。
「満席の場合は2時間保証だし、それでも十分に食べられるな」
ショウは「よし」と頷き、次はこのようなオーダー式ビュッフェのレストランを探そうと決める。
すると、唐突に「お姉さん」と声がかけられる。
ふとメニュー表から顔を上げると、何やら下心のありそうな2人組の男たちがショウの前に立っていた。清潔感のある服装はお洒落だろうが、心に最愛の旦那様であるユフィーリアがいるショウにとっては目の前の男など格好良さの欠片など微塵も感じられない。
明らかに下心の見え見え男たちは、
「1人? 可愛いね」
「よかったら飯でもいかない? 奢るよ」
「…………」
ショウを完全に女性だと勘違いしている彼らは、いわゆるナンパ野郎である。何というか、ベタな相手に捕まってしまったものだ。
どうするべきか、とショウは対応に悩む。もちろん断るつもりではあるのだが、腹が立つので手足でも追ってやるべきだろうか。それとも冥砲ルナ・フェルノで燃やしてやるべきだろうか。裸にひん剥く方法などいくらでも思いつく。
その時である。
「ウチの連れに何か用か」
「ぎゃあッ!!」
背後から男の頭が、大きな手のひらによって掴まれる。
見れば無事に肉まんを購入することが出来たらしいエドワードが、ナンパ野郎の片割れを締め上げていた。頭にめり込んでいく5本の指が万力のように相手の脳味噌を締め上げており、痛さのあまりナンパ野郎が情けない悲鳴を上げる。
エドワードは無事な方の男へ視線をやり、
「その子ねぇ、俺ちゃんの彼女なのぉ。どっか行っててくれるぅ?」
「おい離せよ暴力野郎、警察呼ぶぞ!!」
まだ無事なナンパ野郎が懐からスマートフォンを取り出して警察に通報しようとするが、その前にエドワードが動く。
締め上げていた男を解放して地面に落とし、今まさに警察へ通報しようと企むナンパ野郎の手からスマートフォンを強奪する。「返せ!!」と叫ぶ男はエドワードの手からスマートフォンを取り返そうとするも、そもそも身長差のせいで取り返すことが出来ない。
エドワードは男から取り上げたスマートフォンを咥え、
「あぐッ」
バギィ!! と噛みちぎった。
まるで干し肉でも食い千切るような勢いでスマートフォンを真っ二つにする。半分になったスマートフォンから紫電が飛び散り、液晶画面は明かりが消えてうんともすんとも言わなくなってしまう。あれはもう修理など出来やしない。
固まる男に、エドワードはさらに見せつけるようにしてスマートフォンを口の中に放り込んだ。明らかに食べ物ではないスマートフォンをバキバキと歯で押し潰し、噛み砕き、飲み込む。スマートフォンを食ってもなおエドワードの身体に不調は起こらず、腹痛を訴えて倒れることもない。
エドワードは銀灰色の双眸で男を見下ろし、
「テメェの肉は不味そうだな、調味料で美味しく食えるか」
捕食の気配を感じ取った男は、慌てた様子で気絶した仲間を引きずってその場を後にした。可哀想に、個人情報の塊を食われてしまうとは彼の生活に支障でももたらしそうである。
「ショウちゃんごめんねぇ、怖かったでしょぉ」
「いえ、平気です。助けてくれてありがとうございます」
ショウはエドワードから肉まんの袋を受け取る。袋の表面には『あんこ』とあり、エドワードの袋には『肉まん』と書かれていた。
「スマホなんて食べて大丈夫なんですか?」
「俺ちゃんの胃袋は丈夫だよぉ。何でも食べれちゃうんだからぁ」
エドワードはそう言って、パンダの形をした肉まんに齧り付く。中から溢れ出てくる肉の塊に「んー、こっちの方が美味しいねぇ」とまで言っていた。
ショウもパンダの耳の部分に齧り付く。ほんのりと甘い皮から熱々のこしあんが顔を覗かせ、あんこの上品な甘さがとても美味しい。
ちまちまと肉まんならぬあんまんを消費していくショウは、
「エドさん、次はオーダー式のビュッフェレストランに行きましょう。本格的にお腹が空きました」
「いいねぇ」
ショウの提案をエドワードは笑顔で受け入れる。今度こそ、この男から支払いのチャンスを逃す訳にはいかないのだ。
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