【第5話】
閉園間際となってしまった。
「お土産買ったなぁ」
「用務員のみんなは喜んでくれるだろうか」
「喜ぶだろ。だって異世界の商品だぜ? 何だって珍しいんだから喜ぶに決まってるよ」
両手いっぱいのお土産袋を持ち、ユフィーリアは笑う。
園内では美味しいものも食べたし、お土産もたくさん購入した。人気の高いパレードも最前列で見ることが出来たし、もう大満足の1日である。
閉園間際となったからか、園内からは夢と魔法の世界から現実に戻る利用客が多かった。誰も彼もが笑顔になっていて、同行者と「楽しかったね」「また来ようね」などと語り合っていた。
ショウはユフィーリアに笑いかけ、
「ユフィーリア、今日は楽しかったか?」
「もう最高の1日だった」
ユフィーリアは満足げな表情で、
「この世界には魔法がないはずなのに、本当に夢と魔法の世界を体験しているようだった。子供から大人まで楽しめる場所なんだな」
「ああ、そうだな」
東京ディスティニーランドは子供から大人まで楽しむことが出来る夢と魔法の世界だ。たとえこの場所に魔法そのものがなかったとしても、誰もが現実世界を忘れて楽しむことが出来る。
それは、実際に魔法が使える魔女でも思う存分に楽しめたのだ。やはりこの夢と魔法の世界『東京ディスティニーランド』は魅力的な場所である。
ショウは今日の出来事を振り返り、
「アトラクションもたくさん乗れたし、大好きな貴女と一緒に巡ることが出来た。これ以上なく幸せだ」
「アタシもお前の可愛い表情がたくさん見れて楽しかった」
ユフィーリアはショウの頬を指先でくすぐる。
「いつかお前の世界とエリシアを繋ぐ魔法を作り出す。そうしたら、またここに来ような」
「ああ、絶対だぞ」
「アタシは出来ねえ約束はしない主義なんだよ」
その時だ。
ドン、という音が遠くから聞こえてきた。視界の端で明るい何かが弾ける。
暗い空を見上げると、灰被りの城を明るく照らすように花火がいくつも打ち上がっていた。大輪の花火が夜空を飾り、園内を思う存分に満喫した利用客を見送っているようだ。
通行人はみんな足を止めて、駅に向かう橋から花火を見つめている。子供の甲高い声に混じって、大人の歓声も聞こえてくる。誰もが花火に夢中だ。
ショウも思わず花火に見惚れてしまう。ユフィーリアの手を引き、
「ユフィーリア、花火だ花火」
「おお、凄えなぁ」
ユフィーリアも夜空を彩る大輪の花火に目を奪われていた。
キラキラと飛び散る火花がまるで星のようであり、灰被りの城の外観と合わさってとても綺麗だ。幻想的な光景に、誰もが見惚れているからこそその動きに気づくことが出来なかった。
ショウの横合いから手が伸びてくると、
「ショウ坊」
「ユフィーリア?」
振り返った矢先、不意に唇を塞がれる。
柔らかな唇がショウの唇と重なり合い、瞳を閉じたユフィーリアの表情が間近に迫った。冷たくも柔らかい唇が一瞬だけ触れると、名残惜しそうに彼女の赤い舌がショウの唇を舐めた。
驚きのあまり固まるショウ。ユフィーリアは悪戯が成功したかのように舌を出して笑っていた。
「今日のデートのお礼だ、ショウ坊。エスコートしてくれてありがとう」
「い、いきなりちゅーをされると驚くのだが……」
ショウは恥ずかしさのあまり、顔を隠してしまう。
神様から異世界デートの話題を出された時、真っ先に思いついたのがユフィーリアのことである。かねてから異世界の知識を楽しんでくれている最愛の旦那様と、ショウが生まれ育った世界を楽しんでもらいたいからこの異世界デートの件を引き受けたのだ。
この異世界デートを楽しんでもらえてよかった。ショウもずっとこの東京ディスティニーランドに来たかったので、最愛の旦那様と一緒に夢と魔法の世界を訪れることが出来て嬉しい。
ユフィーリアの頬に手を這わせたショウは、
「俺も、付き合ってくれてありがとうユフィーリア」
そう言って、ショウもまたユフィーリアの桜色の唇に自分の唇を重ねる。
冷たくも柔らかな唇が触れ、そして離れていく。一瞬だけユフィーリアの驚いた顔が見えるが、すぐに嬉しそうに笑うと「お前もやるようになったな」と抱きついてきた。
ひんやりと冷えている彼女の身体だが、優しく抱きしめてくれる力加減は心地よく鼻孔を掠める甘やかな香りが胸を高鳴らせる。肌で触れる彼女の銀髪は絹糸のように柔らかく、石鹸の匂いが一瞬だけ香る。
ショウもユフィーリアを抱きしめ返すと、
「大好きだ、ユフィーリア。これからもずっと一緒にいてくれ」
「当たり前だ、ショウ坊。こんなに可愛い嫁さんを離す訳がないだろ」
ショウとユフィーリアは互いに笑い合うと、
「帰るか、アイツらも待ってるだろうしな」
「ああ、きっと期待しているだろう」
指先を絡め合わせて手を取り、ショウとユフィーリアは大量のお土産の袋を手にして駅に戻っていく。その先に行けば、元のヴァラール魔法学院だ。
こうして、ショウの最初の異世界デートは幕を閉じる。頭の片隅では、次はどこに行こうかと考えているのだった。
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