4.太陽に打ち克ちますわ!

 

 Q.吸血鬼は太陽に弱いのか?




「太陽に打ち克ちますわー!」

「究極生命体にでもなるの?」


 市内、河原沿いの散歩道にて。

 ランニングでもはじめそうなスポーティーな格好をしたオリヴィアは、ジャージも羽織らず軽装。男子高校生にとって目の毒である。


「もぅ……吸血鬼といえば太陽、太陽といえば吸血鬼! 憎き大敵、お日様とは切っても切れない縁ですわ!」

「いまの下にいるじゃん……」

「まだ4時半ですもの。本調子ではないのなら余裕ですわ!」


 早朝に呼び出されたワタクシは絶不調ですが?

 まさか教えてもいない携帯番号を知られているとは思わないっス。


「日中普通に授業受けてるだろ」

「我が校は遮光性の高いカーテンを採用していますの。そ・れ・に! 授業中の日光は周りのお優しい方々に遮ってもらっていますので!」

「日除けかよ……」


 お嬢様の親衛隊も忙しそうだな。

 因縁の相手を前に、オリヴィアは両頬をペタペタと触った。


「UVクリームは毎日全身にならなければなりませんし、とっても大変ですのよ?」

「全身」

「いま、エッチな想像しました?」

「…………ノーコメント」


 しました。

 主導権を握らせてはいけない……一度も握ってなかったような気もするけど。まぁそれはそれとして。


「では、お散歩前に準備運動をしましょう」

「柔軟しっかりしろよ」

「あら、お手伝いしてくださいませんの?」

「お嬢に触ると社会的に死にます」

「つれないですわねぇ」


 つれなくて結構。血流が色々と危なくなりそうなので距離を取る。

 入念な体操の後にようやく歩き始めた。朝の空気で鼻を冷やしながら、吸血鬼の少女は並ぶ。


「朝のこの静けさ、いいですわねぇ」

「へぇ、てっきり夜の方が好きかと」

「それは偏見。私、明るい方が好きです……これからヒトの営みが始まるって感じません?」


 わかる気がする。

 朝靄の中、新聞配達の原付のエンジン音。ほとんど車の通らない橋。喧騒の少ない中で聞こえる雀のさえずり。


 道ゆくなかですれ違う散歩の人間、走り込む若人、ちょっと(?)早めの出勤で自転車をかっ飛ばすサラリーマンなど。老若男女問わず振り向いてしまう少女は、わずかに視界へ入る人たちに微笑む。


 横から見るだけなら、本当にただ綺麗な女の子なんだが。

 会話はそこそこに、歩き続けること30分。身体も温まり、川の水面に映る光が次第に大きくなっていた。


「おひさまですわ〜!」

「輝いてんねぇ」


 日の出だ。初日の出でもないけど、新しい朝を直に見るのはいい気分。ここから新しい朝ってわけで…………


「はぁ〜、浄化されるようですわ〜!」

「んな大袈裟な……っておいおいおい! リヴィ、肌肌肌っ!」


 全身を大きく伸ばすオリヴィアの身体は、チリチリと陽光に焼かれていた。もうすでに日焼けみたいになってる⁉︎


「灰になるぞ⁉︎」

「大丈夫、そこまでやわではありませんわー!」


 朝のテンションでおかしくなっているらしい。言うことを聞かなそうなのでジャージを脱いで頭から被せた。


「あら⁉︎」

「とにかく日陰だ!」


 日焼けした右手を取り、急いで走る。

 川沿いの公園、遊具の影に隠れてようやく一息。ウォーキングが短距離走になっちまった。


「んもぅ、お日様へご挨拶できましたのに」

「よかったな、今生の別れになるところだったぞ」

 

 なーんで朝から全力ダッシュせにゃならんのだ。それもこれも吸血鬼のお嬢様に関わるから……


「ふふ……絆汰さんの手、温かいですわね」

「うぇ? ……のわぁっ!」


 ギュッと……オリヴィアの手を握ったままだった自分の手を、思わず放した。間抜けな声に、お嬢様はもうひと笑い。


「お日様に微笑んでもらおうと思いましたけれど、まだまだスキンケアが足りませんわねぇ」

「ケアでどうにかなるレベルなのか……」

「いずれは克服して光合成致しますわー!」


 ヒト超えて植物になってるんですがそれは。お嬢様はどこへ行くつもりか。


「とりあえずお肌の手入れを……あら」


 ようやく気付いたのか、ジャージを脱いだ。オリヴィアは自分の肌をまじまじと見つめる。薄幸の乙女よろしく、色白肌は物理的にこんがり焼けて味玉もかくやという艶。ちょっと楽しそうにダブルピース。


「どうです? 日焼け黒ギャル吸血鬼お嬢様!」

「属性過多もほどほどにな」


 嫌いではない。むしろ好きな方だ。

 黒ギャルとは抗えない存在なのである。こいつは吸血鬼だけど。


 ちなみに翌日には戻ったそう。

 吸血鬼の日光浴はまだ先のようだ。





 Q.吸血鬼は太陽に弱いのか?

 A.紫外線対策は必須のようです

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