3.写真にも写りたいですわ!


 Q.吸血鬼は鏡と写真に写らないのか?



「写真を撮りたいですわぁ〜!」

「……やったら、いいんじゃない?」

「ナンセンス! これを見てくださいまし」


 オリヴィアは慣れた手つきでスマホを構えピースサイン。カシャっと鳴らした後、俺に画面を見せた。液晶に見えたのは、なにもいない空間の画像である。


「すげぇ、コンマ数秒の写真加工だ!」

「違いますぅ! 吸血鬼は鏡にも写真にも見えないんですわ!」


 透けているを通り越してそもそも映っていない。屈折とかそんなレベルではない人体の不思議だ。


「パパラッチも大変だなこりゃ」

「そうそう私のスキャンダルも撮れなくて……って、違いますわ!」


 意外とノリいいなこの人。

 お嬢様らしからぬノリツッコミをしつつ、オリヴィアは俺に詰める。


「うら若き乙女が青春の1ページを残せぬ悲劇ッ! 絆汰さんはこれを見捨てるおつもりで⁉︎」

「確かにリヴィって集合写真いつも欠席してるよな。でも、右端に別撮り載ってなかった?」

「プロでも撮れないんですもの、あれは写真ではありませんわ」

「は?」

「CG合成したものを後から貼り付けていますの。吸血鬼の弛まぬ努力の結晶、科学に感謝ですわ!」


 その努力の方向が正しいかどうかは置いといて。今回はなかなかの難敵だぞ。


「それ文系の人間に頼るかなぁ」

「友人を頼るのは当然のことでしょう?」


 さもありなん?

 ……まぁいいや、ひとまずやれることをやるか。


 真っ当に写真をシャッターを切っても無駄なことは把握済みだ。プロが撮っても無理なら、別の方向で行ってみよう。場所を変え、夕方のショッピングモールへ到着。お嬢様には馴染みがない場所かもしれないが……


「なぜここに?」

「写真撮るなら明るい方が映えるだろ、多分」

「まぁ、しっかり考えてくれてますのね!」


 試しに不意打ち一枚。うむ、見事に存在しない。

 これだけ記録として残らないと、色々不便な気もするけど……


「……家族写真とかどうしてんの?」

「画家による油絵ですわね」

「うーむ、お嬢様だから違和感がない」


 動画に切り替えてみたものの、案の定人の往来しか写っていない。声すら入っていないようだ。まるでそこにいないように。


「機種によるのかねぇ」

「ガラケー、スマホ、デジカメ、一眼レフ……その他試しましたが大抵はお察しの通りですわ」

 

 そりゃプロがもうやってるしなぁー。いかん、もう付け焼刃のアイデアが尽きたぞぅ。


「ん……」

「どうなさいました?」


 足が止まったのはゲームセンター。ショピングモールなら大抵は入っている、珍しいくない……だが、ものは試し。


「プリクラ、行ってみるか」

「プリクラ」


 男子だけで入れた時に1回だけ撮ったことがある。普通は男子禁制だが、今回は超絶美少女がいるから何も問題ない。ハイパー免罪符だ。


「プリクラなんて初めてですわ」

「俺も似たようなもんだ」


 おや? このシチュエーション、もしかして誰か友人に見られたら袋叩きにされるのでは? ……いや、退学が懸っているのだ。気にしてはいけない。これは真っ当なヒト活の手伝いなのだ、そうなのだ。


「んじゃ、撮るぞ」

「はい!」


 お金を入れて適当な背景を選び、いざ撮影。

 ……しかし出力されたのは硬い表情でピースサインを作る男子高校生、万波絆汰のみ。


「……なんだかふざけきれない証明写真でみたいですわね」

「冷静に評価されると辛いからやめて」

「あっ、そうですわ! 距離感が足りないと思いませんっ⁉︎」

「距離ぃ〜?」


 再度撮影に入る。

 と、オリヴィアは俺と腕を組み始めた。


「近い近い近い!」

「プリクラといえばポーズ! 仲の良いお友達ならくっつかないと! ほーら、絆汰さんも笑って〜!」


 頬が触れる超至近距離までくっついて、人の気も知らないでお嬢様はピースサイン。こうなりゃヤケだ。


「スマーイルッ!」


 シャッターは切られ、結果が表示される。突然のスキンシップにドギマギしているアホ面男子高校生と……満面の笑みで画面にピースする少女がひとり。


「絆汰さん、これ…………!」

「おぉ、写った⁉」

「撮れました撮れました、絆汰さん撮れましたわ!」

「ちょちょちょ色々当たってるから!」


 印刷されたものにも、きっちり美少女が映っている。デコレーションのない、シンプルなものであるが、吸血鬼の彼女にとっては大収穫だったようで……


「これぞ友情・努力・勝利ですわ〜!」

「……なぜ?」




 Q.吸血鬼は鏡と写真に写らないのか?

 A.距離感を意識しましょう。

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