2.棺桶は嫌ですわ!


 Q.吸血鬼は棺桶でしか眠れないのか?




「今日のヒト活はふかふかベッドにしたいですわーっ!」

「はぁ」


 ラーメンの一件後、休日の午前10時に車で呼び出された(というかまた連行)と思えば、お値段以上のお店だった。


「テンション低いですわね」

「俺って脅迫されてたんだよな?」

「……あら、困っているレディへ善意の協力ではなくて?」


 きょとんとしながら首を傾げるご令嬢。

 こうして事実は捻じ曲げられるのである。合掌。


「だってッ! 棺桶の中って固いんですのよ⁉︎」

「知らんがな……」


 マジで吸血鬼って棺桶で寝るのな。


「仕来りだの一族としての誇りはもうイ・ヤ! 食に引き続き住ッ! 寝具改善のためのヒト活ですわーっ!」


 まぁいいや、今日は部活休みだし。今日もヒト活に付き合うとしよう。


 吸血鬼の棺桶……イメージとしては十字の装飾と黒い外観に赤い布張りなんだが、どうなんだろう?


「オリヴィアの棺桶って……」

「リヴィ」

「ぁ?」

「リヴィ。愛称で呼んでくださる?」

「……リヴィの棺桶ってどんなの?」

「ふふ、これです」


 わざわざ撮ってたのか。スマホを覗いてみると、そこに映っていたのは黒い棺……ではなく、なにやらデコレーションのなされたキラッキラしたそれだった。


「…………棺デコ」

「棺が黒一色だけなんて地味じゃありません?」


 人生で二度と聞くことがないであろうセリフである。住む世界が違うというか、種族が違うというかなんというか…………


「でも中に入って眠るならあんまり意味なくない?」

「その通りっ、だから外装ではなく中身重視に致しますわ!」


 もっと早く気づけばいいのに、とは言うまい。しかし寝具を俺に頼るのは早計なきがしなくもない。


「つーか金持ちならもっとこう……金持ち御用達の家具屋があるだろ。名前知らないけど」

「それでは一般庶民たる絆汰さんの感性が参考になりませんわ! あくまでヒト活は一般的な人間を参考にすべきだと思いますの!」


 おそらく悪意のない発言である。住む世界が(以下略)。金持ちなりの苦労ってやつなのか、ホントにお嬢様なんだなと。


「と・に・か・く! あんな狭っ苦しい寝具ではなく! 快適な寝心地を与えてくれる存在を探しますわよ!」

「おー」


 早速寝具売り場へGO。

 ベッドというか、敷物にもタイプがある。マットレスなのか敷布団なのか、高反発低反発、枕も然り。シーツはどうするエトセトラ……


「この際、直接綿に身を任せるのはどう思います?」

「よく燃えそう」

「全然決まらないですわーっ!」


 店員に聞いてもバリエーションが多くて迷ってしまうそうな。お嬢様なんだから全部買えばいいのに。


「絆汰さんはどんな寝具ですの?」

「俺? 俺はベッドに布団敷いて……そうそう、これこれ」


 よくある普通の敷布団である。触り心地もそこそこ柔らかく、ほどよく身体を受け止めてくれる。


 オリヴィアが敷布団に手を沈めると、固まってしまった。


「なんですの、これ……⁉︎」

「なにって布団」


 硬直は解かれ、吸血鬼の少女は布団へダイブ。駄々っ子のようにじたばた跳ねている。


「こんな、こんなふかふかで寝るなんてずるいですわー!」

「ずるいって……」

「店員さーん! これ、これください! 持って帰りますわ!」


 即断即決。お買い上げ〜。

 しかし俺の使ってる布団でいいのかね……もっと高いやつもあるんだけど。


「まぁいいや、あとは枕とかシーツとかどうする……」

「すぴー」

「は?」


 気がつけば、銀髪美少女は展示品で眠りこけている。その間わずか数十秒。


「おーい、起きろー! 展示品で寝るなー!」


 熟睡を無理やり叩き起こして事なきを得る。みんなも展示品で寝るのはやめようね。


「とても良いお買い物でしたわ」

「そりゃよござんした」

「これで私は絆汰さんと寝る場所を同じくする者ということ!」

「誤解を生む言い方をするんじゃない」



 ◇ ◇ ◇



 夜。

 ドタバタお嬢様から解放されてのんびりしていると、スマホが震えた。どうやら写真が送られてきたらしい。


『どうでしょう?』


 オリヴィアから送られてきた写真には、棺の形に加工された布団が写っていた。


「結局棺桶じゃねーか⁉︎」

『ふかふか棺ですわー!』




 Q.吸血鬼は棺桶でしか眠れないのか?

 A.普通に布団が良いそうです。

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