嫉妬する魔王様、可愛い。

「コホンッ……改めて紹介するわね。彼女はチェインバーメイドのナタリーよ」


「ナタリーちゃんやで! よろしゅうなぁ」



 そう挨拶をしたナタリーさんは、これまた凄い美少女だった。


 美しい白銀の髪を太ももまで垂らし、癖っ毛なのかふわふわと凄いボリュームになっている。そして、頭の上についている大きな獣耳と、腰から生えているこれまたボリュームがすごい尻尾。


 彼女は獣人……というか、ケモミミ娘だ。



 あらぬ勘違いを起こしかけたナタリーさんを引き留めたエスフォリーナ様は、なんとか彼女を部屋に引き込んだ。


 エスフォリーナ様曰く、ナタリーさんは口が軽いらしいので、あのまま逃がしたら変な噂が一瞬で広がるとのこと。



 うーん、まったくの誤解ってわけではないけど……というか、それはそれでいいんだけどな。女の子からすれば嫌なものなのかな。



「いい? 私と彼はあくまで普通の……普通の、お、お付き合いを……」


「めっちゃ真っ赤やん! めっっっっっっっっっちゃ真っ赤やん!」


「う、うるさい! というか、主人なんだから『エスフォリーナ様』って呼びなさい!」


「ええやん、うちらの仲やし♪」


「まったく……」



 ナタリーさんの純粋な笑顔を向けられたエスフォリーナ様は、あきらめたように口を閉ざした。どこか嬉しそうに見えるのは、この関係性を悪く思っていないのだろう。



「ほんで? こっちの彼がフォリアちゃんのハートを射止めた彼氏なんか?」


「か、彼氏って……」


「はい! エスフォリーナ様とお付き合いさせていただいている、國都くにみや 龍斐りゅうひです!」


「ほー、ええやん。元気が良くて真っすぐな子はうちも好きやで!」


「好っ……!? ちょっと! 國都くにみやくんは渡さないわよ!」


「ナタリーさんもすごく可愛いと思いますよ? 訛った感じの喋り方とかも、すごく良いです」


「ほんまかぁ? えへへ、ありがとうな?」


「ちょっと! 國都くにみやくんもシレっとナンパしない!」


「心配しなくても、彼を取ったりなんてせんよ? フォリアちゃん。嫉妬せんといてや♪」


「む~~~」



 頬を赤くしてむくれているエスフォリーナ様も、これまた凄く可愛い。というか天使、ヴァンパイアクイーンだけど天使!



國都くにみやくん、ほんまにフォリアちゃんが好きなんやなぁ。うちも容姿には自信があるんやけど、目の前のうちじゃなくてフォリアちゃんばっかり見とるもん」


「ふふん、当たり前でしょ? 彼の方から熱烈なアプローチをしてきたんだもの」


「うわぁ、ドヤ顔腹立つなぁ」



ドヤ顔で胸を張るエスフォリーナ様と、それを見てストレートな感想をぶつけるナタリーさん。……主従関係とは……?



「そんなに言うんなら、ちょっと試させてもらうで?」


「試すって、何を———」


「ほれ♪」


「あっ!」



 その場でクルリと身体を回転させたナタリーさんが、自慢の尻尾で俺の身体を包み込む。


 突然のことでびっくりしたけど、そんな感情を塗り潰すほどのもふもふと、お日様のような良い匂い。



「ほれほれ、うちの尻尾もむっちゃ気持ちえぇやろ?」


「ちょっ、何してるのよナタリー!」


「あー、これは確かにめちゃくちゃ気持ちいいです」


「せやろー? 毎日手入れしとるから♪︎」


國都くにみやくんもちょっとは抵抗しなさい! 私という彼女がいながら嬉しそうにモフッてるんじゃないわよ!」


「違っ、これはそういうのじゃなくて──」


「うりうりうりっ♪︎」


「ふぉあぁぁぁぁっ」


「っ~~~! もうっ、ダメ———っ!」


「「あっ」」



 声を上げたエスフォリーナ様が、俺とナタリーさんを引き離す。そのままグイグイとナタリーさんの背中を押して、ドアの方へと押しやってしまった。



「ナタリーはまだまだ仕事があるでしょ! 油売ってないで仕事してきなさい!」


「しゃーないなぁ……國都くにみやくん、かんにんなぁ?」



 そう言ってにんまりと笑顔を浮かべたナタリーさんは、尻尾を振りながら部屋を後にした。なんかめちゃくちゃ振り回された気がする……嵐みたいな人だったな。



 と、そんなことを考えていると、キッとこちらを睨んできたエスフォリーナ様と目が合ってドキッと心臓が跳ねる。



「あんたねぇ! ナタリーにあんなにデレデレしちゃって、自分の立場わかってるの!?」


「エスフォリーナ様の彼氏です!」


「そ、そうよ……分かってるじゃない……。って、分かってるなら気安く他の女の子に触っちゃダメでしょ!」


「嫉妬してるんですね。大丈夫ですよ、俺はエスフォリーナ様一筋です」


「う、ぅ~~~~! な、なら、はいこれっ!」


「これは……?」



 そう言ってエスフォリーナ様に手渡されたのは、ヘアブラシだった。エスフォリーナ様は俺にそれを渡すと、背中を向けてベッドに腰を降ろす。



「それで私の髪を解かしなさい。ナタリーの尻尾を堪能した分、全部上書きしてやるんだから」


「喜んで奉仕させていただきます!」



 左手を添え、エスフォリーナ様の髪に櫛を通していく。さらさらふわふわで、近くにいると花のようないい匂いもする。


 エスフォリーナ様も気持ちいいのだろうか、表情は見えないけど耳が赤くなってるのは、後ろから見て分かる。



「なかなか上手いじゃない」



 そう誉めてくれたエスフォリーナ様に、嬉しい気持ちになる。これは気合いを入れないと!


 今度こそは誰にも邪魔されることなく、静かな二人の時間が流れていった───

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