待って! 誤解!
「あなた、本当にすごいわね……」
「へへ、照れるぜ」
「褒めてないんだけど」
私はパパに異世界の勇者……
それにしても、私のパパにあんな啖呵を切るなんて、無謀というかなんというか……。
「さすがは勇者……ってところなのかしら……」
「何か言いました?」
「別に何でもないわよ。ほら、ここがあなたの部屋よ?」
「おぉっ!」
部屋のドアを開けて
さっきまで、パパの前で見せていた凛々しい姿とは正反対の、新しいオモチャを貰えた犬のようなキラキラした表情。
可愛いところもあるじゃない。
…………今、私は何を考えてた?
人間の、しかも勇者を捕まえて『可愛い』だなんて、そんなわけないじゃない!
いい!? エスフォリーナ、これは勇者を
「フォリア?」
「んひっ! ちょ、ちょっと! いきなり愛称で呼ぶなんて失礼じゃない!?」
「だって呼んでも反応しないんですもん。この部屋、俺が使っていいってことですよね? すごく広くて……俺にはもったいないぐらいです」
「もったいないなら犬小屋にしておく?」
「エスフォリーナ様がお世話してくれるのなら、望むところです!」
「どうかしてるわよあんた! そんなことしてたら私への視線が厳しくなるから普通に部屋使いなさい!」
「ツンデレごちそうさまです!」
「っ~~~! もうっ!」
本当……どうしてこの人は、私の皮肉にも真っすぐに答えてくるのだろう。
よっぽど私のことを……ふふっ。
「お~~、すごい。ベッドもふっかふか。こんなに気持ちがいいベッドで寝られるなんて、初めてかもしれないです」
「そう? 普通だと思うけど、あなたの家はそうじゃなかったのかしら」
「よくも悪くも、『普通』ですから。エスフォリーナ様からすれば、ただの庶民かもしれないですけど」
「ふーん」
確かに、『魔王』としての立場で生きてきた私には、彼の言う
……逆に考えると、私は彼の
「俺の顔に何かついてます?」
無意識のうちに、彼の顔をじっと見ていたらしい。
「別に……ちょっと思うところがあったのよ」
私の行動に、彼は驚いた表情で私を見つめてくる。
少し動けば、脚が触れてしまいそうな距離。
不思議と、嫌じゃない。
「あなたにも、あなたの家庭があったのに……って、少し反省しただけよ」
「自分の都合で召喚して二度と帰れないってなると、俺も家族も悲しむんじゃないか……ってことですね」
「いや、帰れるけど」
「帰れるのかよ……」
「でも、だって普通はいきなり知らない世界に呼び出されて、『今日からここで暮らしなさい』って言われたら、怖いし寂しいじゃない? そこのところ、全然考えてなかったなって思ったのよ」
「……確かに、最初は怖かったです」
彼がポツリと溢した言葉に、私の胸がキュウッと痛くなる。どうしてだろう……彼に拒絶されるかも、と思ったから?
それとも、声を沈ませる彼の様子に、後ろめたさを感じたから?
「突然召喚されて、しかも魔王様にいきなり出会って、俺の夢はどうなるんだろうって……」
「…………」
「ですが、これだけは信じてください」
「えっ───」
ふいに、私の手が彼の両手に包まれる。大きくて暖かくて、それ以上に触れあうことが恥ずかしくて……ぶわぁっと身体が熱くなって視界が揺れる。
「確かに魔王と勇者という立場かもしれません。しかし俺がエスフォリーナ様やお義父さんに言ったことは、全て本気です」
「ゃっ、近っ……///」
「立場がどうこうではなく、俺が俺だから……そして、相手がエスフォリーナ様だから、俺はできることしたいと思っています!」
「だ、大丈夫だから……手っ……///」
「何でもします! いえ、むしろさせてください! 絶対に後悔はさせませんから!」
「わ、分かったから───」
「おっ、エスフォリーナ様ここにおったんかいな。メイドのナタリーちゃんがベッドメイクしに来た───おっと」
「「えっ?」」
急にドアが開き、顔を覗かせたのは、チェインバーメイドの『ナタリー』だった。初めは少し驚いた表情のナタリーは、私を見て笑顔を浮かべ……
ちょっと待って?
ベッドの上、手を繋いだ男女、『後悔はさせませんから!』とかいう、意味深な発言。
これって……
「邪魔したなぁ……ほな、ごゆっくり~~」
「待っ、違っ、誤解だからっ! 一旦戻ってきてぇ!」
とにかく誤解を解かなければならないと、一目散にその場を後にしようとするナタリーへ、私の叫び声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます