俺は本気ですよお義父さん!

まえがき


ラブコメ練習中です。


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 異世界へ召喚された勇者である俺……國都くにみや 龍斐りゅうひは今、人生最大のピンチに立たされている。



「全面戦争だ……貴様ら人間を滅ぼしてくれるっ!」



 まだ会ったこともない異世界の人達、ごめん。

 俺のせいで人類滅亡の危機だ。



        ♢♢♢♢



「ほら、あなたをパパに紹介するのよ」


「えっ……お父様は今もご存命で……?」


「当たり前じゃない。亡くなったなんて一言も言ってないでしょ?」


「だってエスフォリーナ様が『魔王』を名乗ってるから、てっきりそういうことかと……」


「別に、『これも社会勉強だ』って言うから魔王やってるだけよ」


「魔王ってバイトみたいなものだったんですね」


「ばいと? が何か知らないけど、どうせどうでもいいことでしょ。早く行くわよ」



 有無を言わせぬエスフォリーナ様について歩くこと数分、一際豪華なドアの前にたどり着いた。


 というか家の中で歩いて数分って、どれだけ広いんだこの家……これが異世界スケールか……。


 俺の様子を気にも止めず、エスフォリーナ様はドアをノックする。



「私よ、入るわね?」


「フォリアちゃん! 鍵は開いてるから入っておいで!」



 中から聞こえた声は低く、怖そうな雰囲気だけど、エスフォリーナに対しては甘いのだろうか。言葉使いは優しいものだった。


 躊躇いなくドアを開けるエスフォリーナに促され部屋に入ると……そこにはいた。

魔王の父親に当たる……つまり、魔王よりも上に存在する、『魔帝』が。











 大きなデスクの向こうの、一際豪華な椅子に座る一人の人物。

 ロマンスグレーと言うべきか、歳を感じさせない凛々しさで、こんな風に歳を取りたいと思えるような人物だった。


 魔帝───グリムガル・エーデルリッター。

エスフォリーナの父であり、名実ともに最強の魔族である。


 エスフォリーナ様と同じ形の角や翼を見ると、二人が親子なんだとよく分かる。



「パパ、勇者召喚できたわよ」


「おぉ、人間に先んじて勇者を召喚してしまおうと言っていたあれか……成功させるとは……さすがフォリアちゃん!」


「エスフォリーナ様、お父様からは『フォリアちゃん』って呼ばれてるんだ」(ほっこり)


「うるさいわね。ほら、あなたも名乗ったらどうなの?」


「そうでした! こほんっ……私はエスフォリーナ様に勇者として召喚され、彼女とお付き合いさせていただいています、國都くにみや 龍斐りゅうひといいます! よろしくお願いします!」


「ちょっと! 余計なことまで言わなくていいわよ!」


「……は? お付き合い……?」



 途端にパパ様の顔から笑顔が消える。

 ……これは地雷を踏んだか?



「どういうことかな? フォリアちゃん」


「あっ、その、えーっと……りゅう……國都くんが熱烈だったというか、必死すぎて可哀想だったというか……まぁとにかく、そういうこと・・・・・・にしておけば、こっち側に留めておけるかなって……そう! 仕方なく! 仕方なくなのよっ!」


「いえ、私はエスフォリーナ様を一目見た瞬間から悟りました。これは運命なのだと……そして誓ったのです、必ず幸せにすると!」


「だから余計なことを───」


「ほぅ、よーく分かった……つまり貴様が愛しのフォリアちゃんを誑かしたということなのだろう……!」


「ちょっとパパ! 落ち着いて!」


「誑かしてなんていません! 私は本気です!」


「あんたも火に油を注ぐようなこと言ってんじゃないわよ!」


「ええい! 全面戦争だ……貴様ら人間を滅ぼしてくれる!」


「落ち着けって言ってんでしょうがっ!」



 バァンッ! とエスフォリーナ様が机を叩いた音が響く。

 俺もパパ様も、ハッと我に帰った様子でエスフォリーナへと視線を向けた。



「あなたね、紹介だけって言ってるじゃない! 別に交際を認めてもらうとか、そんなイベント始める気なんてないんだから!」


「ごめんなさい」


「素直でよろしい! で、パパもパパよ! お付き合いって言っただけで全面戦争仕掛けようとするなんてバカじゃないの!?」


「い、いや、それはフォリアちゃんを何よりも愛してるからで……」


「過保護過ぎるって言ってんの! パパが私に男が寄り付かないようにしてるのを知ってるんだからね?」


「それはだって、フォリアちゃんにふさわしい男がいなくて───」


「お陰で生まれてからずっと彼氏どころか男友達もいないんだけど?」


「うぐっ……」



 エスフォリーナ様の圧に、パパ様もたじたじな様子。

 今が攻め込むチャンス……!



「パパ様……いえ、お義父さん!」


「誰がお義父さんだ貴様」


「確かにエスフォリーナ様は、世界一可憐で美しく、何よりも尊い存在です」


「かわっ───ちょ、ちょっと」


「……続けたまえ」


「パパも納得しないでよっ!」


「何者からも守りたいという気持ちも分かります。ですが、彼女を守るのと、不自由にするのとでは大きく異なります!」


「不自由など───」


「いえ、お義父さんの行動は、エスフォリーナ様の自由を妨げているといっても過言ではありません。現に、彼女は男友達がいないことを嘆いています」


「…………」


「私の世界には、こんな言葉があります。『可愛い子には旅をさせよ』と。愛する子どもだからこそ、手元に置いておくのではなく苦難を乗り越えさせて成長を促すという意味です。お義父さんがあれこれ手を出すのではなく、エスフォリーナ様自身に選ばせ、それを見守ることこそが、『愛する』ということなのではないですか?」


「國都くん……」



 えっ、なに急に……そんな真剣な顔しちゃって……。

 私のパパなんて誰もが恐れる相手なのに、そんなパパ相手に臆することなく堂々と───


 ───ちょっとカッコいいじゃない……。



國都くにみや、と言ったか。貴様の言うことにも一理ある」


「ではっ!」


「だが、今回のことは全て貴様のせいだと言うことを忘れてないだろうな!?」


「ひぇっ」



 こめかみに青筋を浮かべ、覇気を纏うお義父さんの威圧は凄まじい。くっ……勇者じゃなかったら失神してるぜ……。



「……だが、いいだろう。少しの間、見守ってやることにする」


「!!」


「ただし! もしフォリアちゃんを裏切るようなことがあれば……その時は覚悟するがよい」


「はいっ! 必ず幸せにして見せます!」



 父親公認いただきました!

 エスフォリーナ様、どうですか!?

 これが俺の愛の力です!


 満面の笑み&ドヤ顔の國都くん。

 苦虫を噛み潰したような表情だけど、どこか納得した様子のパパ。


 そして、怒涛の展開についていけない私。



「ねぇ、私の意見は……?」



 私のその呟きは、誰にも届かず消えていった。

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