第3話
経験値の取得には上限があるというので、酷くスローペースで森の中を歩いている。
あれからというもの、土屋は森に向かって火を放たなくなったので、実にRPGの始めの方みたいな、スライムを5匹倒して少し休む、みたいなのんびりとした時間を過ごすことになっていた。
こんなにもゆっくりできることは土屋にとっても珍しいようで、大体は勇者が現われたことを察知した魔法使いとか王様の家来とかが迎えに来て、即魔王討伐に向けて旅立つことを余儀なくされるらしい。
で、始めに森を燃やしたのも、そんなお迎えの者が自分を見つけやすいようにと態々派手にしたと言うのだ。
異世界に関してド素人の俺なんかが下手に口出しして本当に申し訳ない……。
「油井、レベル上がった?」
そう聞かれてステータスを確認してみれば、レベル1・3と出ている。
俺がゴミと言われる由縁は恐らくはこのレベルの上がり難さにあるのかも知れない……まさかの小数点とはね。
「1・3だから、0・1上がった」
しかも土屋の場合はスライムを3匹程度倒しただけでレベルが2になったそうなんだけど、俺なんかあの森の火災で経験値酔いまで起こしておきながら、まだレベル1・3だからね……。
「油井のことゴミって言った奴らって、全く見る目がないよな」
ん?
いや、弱いけど?
スキルが出せることが条件の勇者にすらまだなれてないけど?
「普通に弱いと思うんだけど……」
土屋がデコピンだけで倒せるスライムにすら、全力で立ち向かって倒せるかどうかって位だし。
「今は、ね。俺なんか1の次2だろ?でも油井は2に上がるまでに10回もレベルが上がるんだ。だからさ、レベル10とかになった時のステータスって、俺よりも遥かに上だと思う」
あ、確かに。
「でも使えるスキルがないから……」
「最大HPと防御力さえ上がってたら良いよ。攻撃は俺がすりゃいいんだもん」
そうか、攻撃では役に立てなくても最大HPと防御力を上げれば盾役になれるじゃないか。
なら、レベルが低いうちは装備品でなんとか自分の身は自分で守れる程度にはしたいかな……とはいってもここは森の中だから、武器屋も防具屋も、人すらいない。
人、本当に見かけないな。
「勇者として呼ばれたはずなのに、この世界ってなんていうか……静かだね」
いや、もしこの世界に俺1人だけが来ていたとしたら、転移した場所の付近でスライムに襲われて終わっていただろうけど。
「んー、この世界の難易度は結構高めだと思う」
え?
「難易度とかあるの?」
そして俺の初異世界が難易度高めってどういうこと?
「難易度の低い世界程、召喚士による転移である傾向が高いんだよ。で、魔王の力が強くなり過ぎて、人間側に抵抗する力もなくなるとこんな風に世界が静かになる」
ってことは、この世界は既に魔王による世界征服が成し遂げられた後ってこと?
「抵抗する力がないなら、どうして俺達はここに来れたんだよ」
「人間の神への信仰心?祈りとかそういうのってさ、微弱でも魔力がこもるんだよ。それが召喚術を使える位溜まったらこの世界の神ってのが勝手に勇者を召喚するんだと思う。まぁ、自然現象?」
自然現象で転移させられる身にもなって欲しいんだけど?
あぁ、でもある程度の調整はスカイ・ルリ・アクアマリンとミント・ワカバ・エメラルドがするんだっけ。
俺達をこの世界を振り分けたのって、スカイ・ルリ・アクアマリンだったわ。
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