第8話
部屋に戻り、なんとなく水晶に向き合う気分にはなれなくて寝転んでいると、不意にどこからか視線を感じた。
誰かが訪ねてきたわけでもなさそうだし、水晶に誰かが映っている感じでもない。
視線だけで部屋中を見渡してみても特になにもなく、そして思い当たった。
誰かが今、水晶で私を見ているんだと。
えー、水晶で見られている方はこんな感覚なんだ?
なにかしてる最中なら特に気にならない感じだけど、なにもしてない時は結構わかるものなんだなぁ……油井君と土屋君は気付いているだろうか?
しばらくすると視線が消えて、そこから更に時間を適当に潰してから水晶の前に座る。
「油井君を見せて」
水晶には採取した薬草を調合し、傷薬を作成している最中の油井君が映し出された。
その近くには蜜柑に似た果物を剥いている土屋君がいて、皮をむいては食べ、皮をむいては油井君の口元に無言で差し出し、油井君はまた無言でそれをパクリと食べる。それを見ている土屋君は穏やかな笑顔だ。
なにこの幸せ空間。
尊いとは、まさにこれだよ。
いつまでも見ていたいな……だけど、いつかはここに来ることになるんだろう。
その先にあるのは地球に転生して、同じ時間を生きることだから、またクラスメイトとして一緒に過ごせる時間が来るのは確か。
なんだけど、そこに至るまでには今のこの……平和に暮らしている勇者としての油井君と土屋君は死ななきゃならない。
もっと、もっとこの2人の幸せな暮らしぶりを眺めていたいけど、同時に、死に様なんか見たくない。
どちらかが倒されて、どちらかが泣く姿なんてのも見たくない。
きっと私は意識があるうちはついつい水晶を眺めてしまうのだろうから、コールドスリープすることにするよ。
次に目が覚めた時は赤ちゃんかな?
自由に歩き回れるようになったら、皆に会いに行くってのも楽しいかもね。
あぁ、でも、水晶越しではなく、生の油井君や土屋君が見られるなんて、私大丈夫かな……元々は同じ教室内で授業を受けていたのに、今となっては信じられない。
「……油井君、土屋君、2人は私の推しカプだったよ」
そして多分これからも。
ありがとう……また、後でね。
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