第7話

 沈黙を続けている百瀬は、遠く離れた後方にはいるものの、ちゃんとついてきている。

 その日数、多分数日。

 こう何事もなく歩き続けていると日にちの感覚が狂うよな……もはやこの世界に来てからの正確な日数が分からない。

 まぁ……物凄く遠いけど、付いて来てくれているだけでも良しとする所か?だからってこのままじゃ近い将来フイっと姿を消しそうだよな?

 地球に転生したかったって泣くほどなんだ、もしかしたらこうして1人にしておくことで更に深く考え込ませてしまっているのかも知れない。

 とかいっても、話しかけ辛いし。

 ガイダンスが空気を読んで百瀬の近くに出てきてくれれば近くに行けるんだけど、それにはまず塊達とスライムがなにかに進化する必要がある。

 あー、くそっ!そんないつ起きるかも分からないものに頼ってる場合じゃないっての!

 そうだ、さり気なく相談するような感じで話しかけてみよう。そうだな……歩きっぱなしってのも飽きてきたことだし、ここらでちょっと腰を下ろして何日間か過ごしてみようかなーとかなんとか提案してみようじゃないか。

 えっと……本拠地をどう作るのか?よし、これ良い感じだ。

 「百瀬、えっと、この辺りでちょっと家とか、作ってみない?その、雨、降りそうだし」

 緊張する……。

 無言で空を見上げた百瀬は、この世界に来て初めてのどんよりとした空模様を見てため息1つ。

 「雨が降りそうになってから本拠地作りを始めても、出来上がる頃にはずぶ濡れじゃない?」

 あ、なんか声が思ったより明るくて安心したよ。

 「じゃあ、洞窟探してみる?」

 「それなら向こうに岩山があったから、ちょっと戻ろう」

 無言で来た道を引き返していくが、さっきまでの重苦しい雰囲気はないし、遥か後方を歩いていた筈の百瀬は、今は隣にいる。

 会話とかなにもなくても、1人きりじゃないって事実だけで随分と救われるもんなんだな。

 岩山が見えてきて、雨宿りができそうな窪みとか穴とかを探していると、バッサバッサと俺の髪を揺らすだけだった風の塊がゴォォという音を響かせて岩山に突進した。

 そして更に激しく轟音が響き、地響きを伴う音が止んだ後、岩山の麓にポッカリと穴が開いているではないか。

 もしかして、急に意志を持ったとか?

 ピコーン、ピコーン。

 やっぱりだ。

 ガイダンスの画面が出る音がして周囲を見渡せば、また地面に半分埋まっている画面が見えて、そこには種族と名前を付けろと書いてあった。

 風の塊の名前か……そうだな……。

 「エア……ロス?」

 「地球にいる風の精霊?」

 散々、地球と同じは駄目だって百瀬に言っておきながら、結局俺も咄嗟に脳裏に浮かぶ名前は地球で得た知識だ。

 「百瀬、ゴメン……」

 なんかもう、本当に色々と悪かったよ。

 「そんな謝られ方してもさ……」

 えっと……え?土下座?

 「散々偉そうなことを言って、振り回して、本当に……」

 「別に気にしてない。そこは……うん」

 そこは?

 「だったら……」

 「俺、桃井だから。百瀬じゃないから」

 ……あ、はい……。

 えっ!?

 怒ってたのって、名前を間違って呼んてたから?って、え?それ今!?

 「もっと初期の頃に言ってくれよ」

 「お前は?黒田であってる?最初、黒井と迷ったんだ」

 迷われていたとは驚きだ。

 「黒田であってる……黒田修二」

 「あー、俺は桃井。桃井朔良」

 今更自己紹介とは……けど、まぁ良いか。多分、俺達はこれから物凄く長い時間を一緒に過ごすことになるんだから。

 「桃井、これからもよろしくな!俺達の創世はこれからだ!」

 「え?あ、うん。よろしく」

 温度差エグイな!

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