異世界で待機することにしました
第1話
昼休みが終わった直後の授業中、俺は眠さに抗わず机に伏して眠っていた……筈だった。
なんの授業中だったのかは覚えていないけど、その事実こそ俺が授業中に眠っていたという確かな証拠。
なのに、目を開けるとそこは魔方陣の中だった。
正確にいうと、教室でも体育館でもない部屋の床に描かれた魔法陣の上。
周りにはクラスメート達がいて、校長の朝礼を聞く時よりも真剣な表情をして同じ方向を向いている。
なにかあるのだろうか?
そう思って顔を向けた先にいたのは、白いヒラヒラとしたドレスみたいなものを着て、背中に大きな羽をはやした、ご機嫌な女だった。
なんだあれは……仮装?
とりあえず俺はこの異様な状況に乗り遅れてしまっているようだ。
「まずは皆さんを2つのグループに分けますので、ここに1列に並んでください」
なんだ、2グループに分けるって話しだったんだな?
それでも教室からここにどうやって運ばれたのか説明が欲しい所ではあるし、この場所に先生が1人もいないのも不思議だ。
けど、1列に並べってんだから並べばいいのだろう。
かつてこんなにもアッサリと人の言うことを聞いただろうか?と思う程の素早さで1列に並んだ俺達に、白い服の羽有女がテニスボール程度の大きさの水晶玉を触らせていく。
水晶玉は赤、もしくは青色に色を変え、俺達を赤グループと青グループに分けていく。その割合は圧倒的に赤の方が多い。
女は全く同じ作業を3回続け、圧倒的赤が多かった結果を圧倒的青が多い結果に変え、その後青グループを更に白と黒に分けた。
白と黒のグループはそれぞれ後からやって来た羽有女の仲間によって連れ出され、残されたのは俺を含めた5人だけ。
女は改めて自己紹介……ではなく、
「改めまして、ハズレの皆様」
と挨拶をした。
ハズレとは?
やはり俺は肝心な説明部分を聞き逃していたようだ。
「あ、あの……どういうことなんでしょうか?」
控えめに発言をした女生徒を見ている羽有女の、なんとも冷たい目と面倒臭そうな態度からして、ここに残っている5人はテストで0点近くの点数をたたき出した出来の悪い生徒って位置付けなのだろう。
「1度目のグループは、そのままでも物理攻撃によって最弱魔物なら倒せる力を持った人間。2度目のグループには魔力の才能がある人間、3度目は、修行をすれば戦える素質を持った人間。で、貴方達は無能なゴミクズと言うわけよ。理解できたかしら?」
面倒臭そうな割には長々と説明をしてくれた所悪いんだけど、どういうことなのか分からないんだけど?
魔物を倒せるってなに?
2回目のグループには魔力の才能がある?
え?あいつら魔法なんか使えたのか?
しかしこの羽有女、口悪いな。
「なら、元の世界に帰してください」
控えめだった女子生徒が、声を震わせながらなにか、とんでもないことを願っている。
聞き間違いでなければ、元の世界に帰せ。と?
そう思ってもう1度よく部屋の中を見回してみると、深刻そうな表情のクラスメートが4人と、飾り物だと思っていた羽をヒラヒラと動かしている羽有女と、床には魔方陣。
えっと……これ、異世界的な?転移的な?
「それはできないわ」
そして俺達は戻れないと。
異世界か……じゃあクラスメートの大半は勇者とかそんな感じで転移して世界を救ったりするのだろうか?ってことは、俺は勇者達の友人ってことになるのか。
いや~、鼻が高い。
で?
どこで勇者集団を待てばいいんだ?まさかこの部屋?
「は?」
今まで黙っていた男子生徒が、信じられないものを見るような目で羽有女を睨んでいる。
コイツは結構大人しい部類の生徒だったよな?そんな奴がこんなにも豹変してるってことは?
わ~お、これマジっぽいわ。
「元の世界に帰すというのは、功労者に贈られる最上のご褒美でしょ?何故ゴミの貴方たちがそれを願うのか意味が分からないわ。自分の立場を弁えて?」
良く状況は理解できていないけど、それでも今の物言いにはイラっとしたぞ?
クラスメートが全員この場に転移させられたんだよな?寝ていた俺までここにいるってんだか強制だった筈だ。で、無許可でここへ連れてきたくせに魔物を倒す才能がない招待客に対してゴミ呼ばわりはどう考えたって理不尽だ。
「私達はこれからどうすれば……」
「元の世界に帰してください!なんでもしますからぁ~!」
絶望したり、泣きわめいたりする生徒を見ていると余計にいら立ちが募ってきた。
「なにも確認せずにゴミを連れてきたのはお前の落ち度だろう?功労者に与えるご褒美?知るかよ。さっさと俺達を元の世界に戻せ!」
さっきまで状況は把握できてなかったけど、分かってしまえばこんなバカな話があるかってんだよ。なんなら勇者候補となっている他のクラスメートも帰せっての!
異世界フィルターでボヤけてたけど、これって普通に考えて人攫いじゃないか!
「なら貴方は”地球へ転生”で良いのね?」
なんだ急に……帰せないんじゃなかったっけ?
「あぁ」
まぁいい、帰れるんならそれに越したことはない……なんといっても今週の日曜日は久しぶりに彼女とのデート……。
パァン。
なに!?
熱っ!
眩しっ!
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