第5話

 グレイアースの規模を知るため、俺達はとりあえず歩くことにした。

 世間話でもしながら……歩けたのはほんの数日間だけで、今ではすっかり話題不足。

 そりゃそうだ、元々友達でもなんでもない上に新しい出来事がなにも起きなんだから。

 天気の話題っても毎日心地いい風が吹く快晴だし、生物見つけた?なんて口にしたところで空しくなるだけだ。

 けど、なにかは存在していなきゃ可笑しいと思うんだよ。

 だってさ、地面は広大な原っぱなんだ。

 つまり、植物はしっかりと生い茂っている。

 なら、花粉を運ぶ虫的なものがいないと成り立たないんじゃないか、なんて……ここが地球と同じようになるとも限らないんだから、地球の常識を当てはめても仕方ないのだろうか?

 ピコーン、ピコーン。

 「ぅわっ!ビックリシタ~」

 「ビッ……クリシタァ」

 突然鳴った音にってより、百瀬の声にビックリしたのはいいとして、この音は多分ガイダンス的なものの音だろう。また何処かに画面が浮かんでいるんだろうけど、何処だ?

 見渡してみれば地面に半分ほど埋まっている画面が見えて、急いで読んでみると、また名前を付けろとのこと。4種類も一気に。

 そして画面の横には、今回名前を付けることになる3種類の塊が浮いていた。

 3つの内の1つは火で、ユラユラと燃えながら宙に浮いている。丁度あれだ、火の玉みたいな感じ。

 3つの内の1つは水で、スーパースロー映像とかで見る、水風船を割った直後のような、丸い形を保ったまま宙に浮いている。

 3つの内の1つは……砂?砂時計の砂だけバージョンのような動きをしている。

 画面には4種類と書いてあるのに、実際塊は3つしかないのはどういう……。

 あぁ、分かった。風だな?証拠にさっきから変則的な風が必要以上に髪を揺らしてくる。

 ってことは、意志があるのか?

 「これは簡単だな、火と水と地と風だ」

 百瀬が指をさしながら言うものだから、俺は吹き上がる前髪を押さえつつ異論を唱えた。

 「地球と同じ概念にして良いのか?」

 俺達は全く新しい灰色の異世界を作らなきゃならないんだ。同じにしてしまったら、同じものにしかならないんじゃないか?

 とは言え、地球にはこんな風に火の玉とか水の玉とかが平然と浮かんでいる現象なんてないんだけど。

 「概念って……火は熱いし燃えるし水は飲みもので、流れるもので。土は大地で風は吹く。名前が変わったところで変わらないだろ?」

 確かに、そうかもしれないけど……。

 「例えば、この燃えてる奴の名前を水にするとか……とにかく、根本的な所から変えないと意味ないだろ?」

 「火に水って名前付けてもややこしくなるだけだって。火は火なんだし火で良いじゃん」

 だから!

 「地球と同じにしたら灰色の世界にはならないって言ってんだよ」

 「火を水って名前にしても灰色の世界にはならないだろ」

 「根本的な所から変えなきゃ意味がないんだって」

 「いやいや」

 「いやいや」

 中々名前が決められない俺達の間では、3つの塊が不安そうに揺れていた。

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