第24話 託された想い〈ルアノ側──〜キキノ略奪──ルシア到着前とその後〉

 

 ────数時間が経った

 

 そして、それが現れた。

 私は悟った。

 地上に向かったリクト、ミレイ、レイオはすでに殺されているんだろう……と。

 

 目の前の巨躯を持つ老人はたった1人で、10人程いた生き残りの悪夢の一族ナイトメアンを軽々殺していく。

 このままでは、この子達も殺される……。

 王城のイミリア専用王城地下室へと空間転移を行う時間稼ぎのため、老人に向けて問いかけた。


「──なんで! あなた達はここまでして真実を隠そうとするの! 地上の主権とガイアを手入れるために戦いを起こしたのなら、正々堂々と『我々が勝った』と主張すればいいだけだったんじゃないの?!」

 

 その問いに老人は長く伸びた白髭を撫でながら、予測と感心を含め返してきた。


「──うーむ………。予想通りだな、地上にいた者達の能力低下が見られた……という事は、地底域アンダーグラウンドに身を潜めているとな……。ここは真創が薄いからのぅ……。それにしても、まさかそこまで調べているとはのぉ〜。驚きを通り越してもはや感心する。ヴェルネットとキリガを置いてきてよかったわ! あやつらが知らぬことを先に知れて愉快愉快! ガハハハッ」

 

 笑いながら言っていた。

 私からすればかなり不快だ。

 当然、質問に答えることはなかった……だが『2人は置いてきた』と言っていた。そこから考えると、恐らく目の前のこの老人を含めた3人がグラヴィスで事を起こした者達で間違いないと確信した。


 せめてこの老人の名前だけでも聞こうと、口を開こうとした時──いつの間にか私の手から離れたセイルが老人に向かってふらふらと近寄っていた。


 セイルは1歳半。能力構築に集中しすぎて、1人で歩けるのを頭の端に追いやってしまっていた。


「セイル! ダメ!! 戻りなさい……お願い戻って!!」

 私の言葉にセイルは振り向いた……でも──


「なんじゃこの餓鬼は! お主の娘か? 殺すか……だが、コイツは恵印を有しておるからのぉ……殺してしまってはガイアに支障をきたすのぉ……ん? ほぉお、この餓鬼……この幼さにしてまさか覚醒しているとはのぉ……どういう事だ? これも初見じゃのぅ。恵印で守られているはずの餓鬼がなぜじゃ……?」

 

 その言葉に私は耳を疑った。

 本来能力覚醒は10歳からだ。これは決められている。なのに、なんでセイルは……。

 セイルの能力はなんなの……?

 母親の私でも分からない……

 その考えを巡らせていると、老人は地面から大きな斧を創り出していた。 

 嫌な予感がした……。


「能力が覚醒しているということは! 殺しても支障はないか!!」


「い、いや! やめてーーーー! セイル! セイル!」


 私の声は虚しく、コイツは躊躇なく振り下ろした……。



 ────ドゥガァァァァァァアアアアッ!!!!




 ────大きなと音と共に私は娘を1人失った


 涙で前が見えない……胸が苦しい……大切なものが奪われた……。

 目の前のコイツは動きが止まっている……

 振り下ろした斧にを覚えている様だった……

 でも、私にはコイツの違和感はどうでもいい……

 せめて! ハヤセとキキノだけでも転移させないと……。


 私は涙を流し、でも、歯を食いしばりながら空間転移を構築した。

 まずは親友の息子、ハヤセを転移させる。

 今の私には1人ずつしか転移させられない。

 ここでハヤセを死なせてはミレイとレイオに合わせる顔がない。


「──ハヤセ、あなたのお母さんとお父さんのように強く生きなさい……私もあなたを愛しているわ……。だから、私の力の一部をあなたにあげる。いつかそれと2人の遺伝子でキキノを守って欲しい……【空移クウイ】!」

 

 私の言葉と同時にハヤセはイミリアの地下室へと転移させた。そして続けてキキノを転移させようとした時────


「貴様ーー!! 何をしたー! 餓鬼を逃したな!」


 その声は一瞬で私の前まで近づき、大斧を叩きつけてきた。でも、すぐに私は反応し、空間を圧縮して防御壁を構築した。

 そして、続けて私の持ち得る限りの最大火力の能力を発動した。


「──【超新星スーパーノヴァ】」

 

 この最大火力により、コイツは距離を飛ばされていた。全身に煙を上げながら多少の血を流していた。

 でも、最大火力にしては弱すぎた。

 この地底域アンダーグラウンドはガイアの恩恵が届きにくいとは聞いていた。それに比例するように恵印も弱くなっている。だけど、ここまで弱くなるとは思わなかった。

 これでは、地上に向かった、3人も相当、力が落ちていたのだと予想がついた。

 

「──女ァァァー!! よくもやってくれたなァ! 確実に潰すぞ!!」


 怒り狂う敵は全身に真創を纏始めていた。

 次はないと感じた私は、キキノを転送させようとした、だけど、真創が全く足りなかった。さっきの【超新星】の影響だった。



 どうする? どうするの? どうしよう──?



 私は焦っていた、キキノを逃す手段は失った。

 キキノはセイルと違い、能力覚醒はしていない。

  10歳までは殺されない……でも、その先は? 



 どうしよう? どうしよう? どうしよう?



 敵は迫ってくる……。

 私は決断した。

 キキノに呪いを掛けよう───

 生かすための呪いを─────


 今の私じゃ6年延長が精一杯────

 16になるまではあなたを守れる───

 だから、16歳までに道を切り開いて欲しい……

 私の大切はキキノ……


──ごめんね、ごめんね……あなたに生きてもらうための呪いなの……キキノ愛してる─────

 

 


 ※ ※ ※



 大きな轟音と共に、斧は水色の髪の女の命を奪う様に振り下ろされていた───

 巨躯の老人ガルダ・リフロアルは女のとまだ産まれて間もない子供を見下ろしていた。


「この女……餓鬼に何かしでかしたな……。餓鬼を巻き込まないように加減はしたが女は死んだか。だが、この餓鬼どうするかのぉ〜。殺すこともできぬしのぉ……。とりあえず連れ帰るとするか……。それから決めるか……」


 そう呟くとガルダは姿を消した。


 ────1時間後


 金髪と横に伸びた耳を持つエルフの少女──ルシアはルアノの亡骸の前で蹲り、目が腫れるまで、泣いていた。 

 その後に続く様に、地上からイミリアが残りの騎士を引き連れ地底域アンダーグラウンドに降りてきた。


「ルシア! ルアノ……は……う、そ……そんな」


 イミリアは膝を突き、顔を抑え大粒の涙を流していた。しかし騎士から声が上げられた!


「イミリア様! この女性はまだ息があります!」


 その騎士の知らせに、イミリアはもちろん、ルシアもルアノに近づいた。

 確かに、微かだが息をしている。

 それなのに何故死んでいると思ったのか不思議だった。


「どういう事……? なの……!?」

「──私も……近くで見たけど、息してなかったよ」


 イミリアの疑問に、ルシアも続けた。

 少し考えはしたが、それよりもイミリアは、ルアノに回復を促すために、自らの能力を展開した───


「────【王の帰還グローリー】!」


 この言葉に導かれる様に、光の球が周辺に浮かび上がると、ルアノを取り囲む様に集中した。

 その光はルアノの外傷を全て回復させていた。

 さらに光は体内に入り込むと内側から《極大回復》を促していた。

 防御特化型でありながらその回復量は通常の回復能力よりも遥かに優れている。


 しかし───


「真創が全然足りない! なら───」


 そう言うと、騎士たちに、ルアノを王城に運ぶ様に言った。それに従い、騎士は急ぎ地上へと向かった。


 イミリアもルシアもそれを追う様に急いだ。

 こういった中で、イミリアはある違和感を感じたいた。ルアノから少し離れた何かを押し潰した様なクレーターから、異常な程の真創の残滓がルアノを囲むように流れた形跡が感じ取れた。


 しかし、ルアノが優先には変わりない。

 疑問を残しながらもイミリアは王城へと向かった。


 ※ ※ ※


 王城の治癒室は慌ただしかった。

 未だ、重症の騎士達の治癒をしている最中、地底域から運ばれてきた王女の親友ルアノが運ばれてきたからであった。さらに、外傷は治されてはいるが、体内がボロボロだという事が分かった。

 辛うじて息はしていた。

 だが、いつ途絶えてもおかしくない状況であった。


 その治癒室に騎士たちの後、続けて入ってきたのはイミリア王女とエルフの少女だった。

 2人はルアノに駆け寄ると今一度【王の帰還グローリー】の《極大回復》を使用していた。


 その能力によって、ルアノは意識を取り戻した。

 ただ、到底油断はできない状況であった。


「ルアノ!」「ルアノさん!」


 2人は同時に叫んでいた。

 この声にルアノは薄目を開け静かに口を開いた。


「──イ、ミリ……ア。それ、に……ルシ、ア……」


 声には力はなく、なんとか絞り出している様であった。イミリアはそれ以上喋らない様に告げるが、ルアノは言葉を続けた。


「──イミリ、ア……自分の、事くらい……分かる。私……は、もうダメ……だわ……。あなた、の……おかげで……話せて、るだけ……だから……聞いて。セイ、ルは……殺さ、れた。キキノは……分から、ない……けど、すぐには……殺され、ない。私が……生きて、もらうための……呪いを、かけた。16歳、になるまでは……殺され、ない……」

 

 息も絶え絶えに話している。

 イミリアもルシアも目には涙を溜めていた。

 しかし、ルアノの最後の言葉を逃さず聞いていた。


「──私、たちを襲った……のは、長い白髭を……蓄えた……大柄の老人……。やつは……地面、から武器を……創り、出して……た。あの、真創は……異常、よ……。気を……つけて。それと──」


 ルアノはそう言いながら大粒涙を流し始めていた。

 それにつられる様に、イミリアもルシアも、溜めきれなくなった大粒の涙を流していた。


「──2人……とも、お願……い。キキノ……を、私の……最愛の娘を……」


 そして、ルアノはミレイと同じことをルシアに言った。


「──ルシア……私達、は……あなたのこと、も……大切で……大好き…………イミリア……も大好きよ」


 ルアノは、消えゆく意識の中で最期に呟いていた。


「──キキノ……ハヤセに……会えたら…………いいなぁ…………──────」


 ルアノは親友イミリアと、自分たちの大切なルシアの前で静かに息を引き取った。





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