第19話 ルシアとカンネ〈旅立ち〉──過去

 カンネと言う女の子が去っていく姿を見送ると、私の口から言葉が溢れた。


「──ねぇ……、行っちゃったよ……。凄く忙しそうだったけど……」


「そうだな……行っちまったな……」


「──僕は追いかけた方がいいと思うけど……」


「そうね、リクトの言う通り追いかけた方がいいかもね……。まだ仲間がいるかもしれないし」


「じゃあ追いかけよーよ……ミレイ……」


 その淡々とした声には焦りなど一切なかった。 

 でも、イミリアはまた叫んでいた。


「何のんびりしてんのよー! 早く! 追いかけなさいよ!? それに人攫いコイツらもとっ捕まえてよ!」


 この言葉を聞き、二手に分かれる事にした。

 カンネという女の子を追うのはレイオさんとミレイさん。そして、同じくらいの年齢の私……。


 人攫いを騎士団に連れて行くのは王女であるイミリアと、リクトさんとルアノさんに分かれた。


 私たちはまた後で合流するという事を決め、別行動を取った。


 2人と分かれた私たちは、すぐにカンネを追いかけることにした。足は意外と早く、見つけ出すのに苦労しそうだったけど、ミレイさんのひと言で目的地を定められた。


「──ねぇ、さっきのあの子〈院〉って言ってたから、やっぱり孤児院じゃない? イミリアも〈孤児の行方不明〉て言ってたし」

「だなぁ……。この地区にある孤児院に行ってみるとするかぁ……一箇所だけだしな……」


 そう言うと、孤児院の場所を聞きながらその場所へと移動した。

 孤児院はすぐに見つかり辿り着いていた。


「ここみたいですね……。思ってたより立派な様な気がしますけど……」

 私のその言いに、レイオさんとミレイさんが続けてきた。


「そうねぇ……ここは教会のようね……。だったら、この孤児院を運営しているのは司祭さん達よねぇ……」

「まぁ多少古ぼけてはいるけど教会って立派だな」


 この会話は途中で入ってきたのは、ここの責任者と思われる高齢の司祭の女性だった。


「これはこれは……。何か御用ですか?」

 そのゆったりとした口調は、どこか落ち着きを感じさせていた。


「お聞きしたいことがあるんですけど、ここに《カンネ》という子はいますか?」

 ミレイさんが聞くと、司祭の女性は微笑みながら答えてくれていた。


「確かにカンネはいますよ。今さっき帰ってきて子供たちの面倒を見てくれてるわよ。その子がどうかしたのかしら?」


 私たちは顔を見合わせると、さっきの出来事を話した。


「────そんな事があったのですね……。あなた達の言う通り、最近は孤児の行方不明が多いのよ……。ここからも居なくなった子たちもいるわ……。王都の騎士たちは動いてくれないし」


 悲しそうな表情を浮かべながら続けて話してくれた。


「カンネもね……育った環境の影響なのだけど、まだ5歳なのに凄くしっかりしててね、よく周りの面倒を見てくれているの……。いなくなった子達を探しに行ったりもしてたし……私としては子供らしく過ごして欲しいのだけど、あの子は責任感が強くて……」


「まぁ確かにそう見えるな……。袋いっぱいの食料と妹たちの面倒と……。なんか『自分がやらなければ!』ていう感じがしたよ」

 レイオさんがそう言うと、司祭さんは心配そうな顔になるとカンネには外で経験を積んで欲しいと言っていた。

 

「カンネが面倒を見てくれるのは助かるのだけど、自分の将来も考えて欲しいのよ……。彼女には色んな経験をしてもらいたいのよ。きっと何か重要な事をやってくれそうな気がするから……本当に外の世界を見てもらいたいのよ……。でも、『妹たちの面倒を見るから!』とか言って出ないでしょーし……」


 それを聞いた私はふと思いついた。

 まだリクトさん達から話を聞いてないから、なんとも言えないけど、孤児の人攫いの黒幕はどこかに居るはず……。

 だったら黒幕を突き止めて、攫われた孤児を探すという名目でカンネを連れ出せばいいかなと思い口に出した。


「そうだなぁ……。それは良いかもな」

「それだったらカンネちゃんも納得すると思うわ!」

 2人の同意を得ると、後は司祭さんの言葉を待っていた。

 すると、司祭さんも頷き、カンネを呼びに行ってくれた。


 少ししてカンネの手を引き連れて来た。

 なぜ自分が呼ばれたのか分からず、険しい顔をしている。

 そのカンネに優しい声で話を始めた。


「ねぇカンネ、妹たちの面倒を見てくれて凄く助かってるし、嬉しいわ。でも、あなたのやりたい事も考えて欲しいの……」

 

 そう話しを切り出した司祭さんの言葉に、カンネは頬を膨らませると言った。


「私は妹の世話をするのが好きなの! あの子たちが幸せになれるなら私はがんばるもん!!」

 力強く言うカンネを司祭さんは包むように抱きしめると心からの声を掛けていた。


「私はね、あなたにも幸せになってほしいのよ。色んなものを見て感じて、思い描く自分になって欲しい」


 その言葉に戸惑いながらカンネは返した。


「───でも、私がここから離れたら……」

「大丈夫よ……。私がカンネの分までがんばるから! それとね、この人達と色々回りながら人攫いを見つけて、いなくなった子たちを探してくれたら嬉しいわ」


 カンネは黙ると、小さく頷き返事をした。


「……分かった。私みんなを見つける! また一緒に暮らしたい!」

 司祭さんはにっこりと笑い「お願いね!」と言うと私に向けて言ってきた。


「あなたはカンネこの子とあまり変わらない様に見えるから仲良くしてね」


 笑顔を向けられた私は頷くと、カンネに近づき手を差し出し自己紹介をした。


「私はルシアよろしくね!」


「……私はカンネだよ。これからお願いします」


「私たちあまり変わらないから、敬語とかはいらないからね!」

「うん! 分かったよルシア!」

 

 自己紹介が終わりリクトさんとルアノさん、そしてイミリアと待ち合わせをしている、グラヴィスの街中にある食堂へと向かうという事になった。

 そしてカンネは少しの涙を浮かべながらも司祭さんに元気よく言っていた。


「行ってくるね!」


 その言葉を後にして、黒幕探しとさらわれた孤児を探す旅が始まった。


 これが私とカンネの出会いであり、旅立ちだ


 


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