第18話 ルシアとカンネ〈出会い〉──過去
そこは、中央王都にありながら周囲の人々は目を背けていた。
グラヴィスの街中から西に行き、汚い路地裏を抜け、階段を足が疲れるほど下った先にあった。
下に行くにつれて治安は悪くなり、何度も絡まれた。その度にレイオさんとリクトさんが追い払い、その後ろでは私を庇う様にミレイさんとルアノさんは立っていた。
私は7歳と言っても、ずっとエルフ族の教育を受けてきた。だから、そこら辺の悪者には負けない自信があった……でも、いざ目の前にすると固まってしまい動けなかった。
「ったくよ! 何度目だよ! 絡まれたのは!!」
そう怒っているのはレイオさんだった。
それを呆れる様に宥めているのは隣に立つリクトさんだ。
「あのなぁ……。君が貧困地区の生活調査依頼を受けたんだろうが……」
「何言ってんだよ! てめぇーだって『割のいい仕事だな!』とかノリノリだったじゃねーか!!」
「僕は『割のいい仕事』とは言ったが受けるとは言っていない! 勝手に受けたのは君だ!!」
「……っんだとてめぇー! 表に出ろー!!」
「君はバカか!? ここは表だろーが!!」
「人の揚げ足取りやがって!」
「君がバカなだけだ!」
2人の会話はどんどんと語尾が強くなっていった。
私は、───あーまたいつものが始まった……
と思い、この後に起こることも想像できていた。
「もー! 何やってんのよ! あんた達はーー!!」
「もう……この2人どうしてこうなのよ……」
ミレイさんが先に口を開くと、続けてルアノさんが言った。
そして次には───レイオさんとリクトさんを殴り飛ばしていた。互いに顔面を地面に叩きつけられ、大人しくなった。
「殴ることねーだろ! ミレイ!! てめぇーは馬鹿力なんだから俺が重傷を負ったらどうするだ!」
レイオさんは顔面を摩りながら言っていたけど、さらにキレたミレイさんは…………
───ドガッ!!
レイオさんの顔を蹴り上げた……
「誰が馬鹿力よ!! 女子に向かっていうことじゃあないでしょ!」
それを見ていたリクトさんは「ざぁまぁないな!」と言っていたが───
───バコンッ!
ルアノさんが左手で持っていた花の装飾のされた仕込み杖でリクトさんは殴られていた。
「あなたもでしょ! 何自分は関係ないって顔してんのよ!」
「何すんだルアノ! 僕の頭が悪くなったらどうするんだ!?」
「……もともと言うほど良くないでしょーよ……」
呆れながら言っていた。
それを見ていた私はついつい吹き出してしまった。
いつもの光景ながら、仲間を目の前で殺された私にはほっとする時間でもあった。
「ほら〜、ルシアも笑ってるよ! あんた達がバカなことばかりするから!」
「馬鹿力な女にバカだとは言われたくないな!」
「レイオ! 認めろ! 君はバカなんだ!」
「あなたもバカでしょ!」
また始まりそうな予感がした私は仲裁する感じで声を出していた。
「あの! みんな! この生活調査依頼にこんなに高い依頼料おかしいよ……」
私の言葉にすぐに反応したのはミレイさんとルアノさんだった。
もう一度、依頼書に目を落とすと、2人とも顎に手を当て口を開いていた。
「やっぱそだよねぇ……。普通の依頼に比べて多いわよね……」
「そうなのよねー……。ルシアとミレイの言う通り30万ゴールドって破格よね………。ただの生活調査にしては……」
その疑問に答えたのはレイオさんだった。
「まぁいいじゃねーか! 30万あれば、ひと月は何もしなくても食っていけるんだからさ!!」
それにまたしても反論の声を上げようとしたリクトさんの言葉を遮る様に変な人が現れた。
「その依頼を出したのは私よ!!」
《変な人》と表現したのは、突然現れたからではなく、服装と不釣り合いなひょっとこのようなお面を着けてたからだった。
腰に手を当て階段のてっぺんに仁王立ちで、いかにも良い仕立ての、赤を基調とした、ひらひらの短いようなスカートを履いていた。
それに呆気に取られていると、私以外の4人が口を揃えて言った。
「「「「あ、王女だ……」」」」
その反応を聞いた《王女》と言われた人は、少しの間を開け大声で叫んでいた。
「なんでよ! 何で分かってんのよ! 顔バレしない様にお面までつけたのに! 恥かいたわよ! ミレイにルアノも言わないでよ!」
どうやら私以外の4人は面識があるらしく、気兼ねなく話していた
「あんたねぇ……。その高級なスカートにそのお面はないわ〜……」
「……はぁ。仮にも第一王女でしょ……? イミリアさん?」
4人とそう歳の変わらない《イミリア》と言われている人はお面を取りまたしても叫んでいた。
「さんなんてつけないでよー! 他人行儀じゃない! 普通通りの呼び捨てしてよ!?」
そのやりとりを眺めていたレイオさんとリクトさんは「「──今度はアホが来たぞ……」」と口を揃えて言っていた。
「あんた達もよ!! レイオにリクト!! あんた達私をバカにしすぎでしょ!?」
そう言われ、レイオさんは胡座をかいて頬杖をつき目を細めて言った。
「──お前さぁ……下着見えてるぞ……」
「あー本当だ……」
リクトさんも言った。
「うん……そうね……」
ミレイさんも言った
「まったく可愛いの履いちゃって」
ルアノさんも言った
「ウサギさんのパンツなんですね……」
私も続けて言ってみた。
「はう!?」
慌てて
そして耳まで赤くしながら─────
「パンツの柄まで言わなくていいわよ!! って誰よ君!」
私に向けて聞いてきた。
私はとりあえず「──エルフのルシアです……」と答えた。
色んな事情はミレイさんが話してくれた。
「そんな事があったのね……。じゃあ改めてルシアに自己紹介するわ!! 私はこのグラヴィスの第一王位継承者のイミリア・
そう自己紹介を聞き終えると、待っていたかの様にレイオさんが口を開いていた。
「んで、なんでイミリアがギルドなんかに依頼出してんだよ……? 調査だったら騎士にでもやらせればいいだろうに……。まぁ俺たちは稼げるからいいんだけどよ」
そのレイオさんの言う事に他の皆んなも、私も同意する様に頷いていた。
第一王女だから騎士でも動かせそうなものだと思っていた。でも、イミリア(さん)はため息を吐きながら答えてくれた。
「あのねぇ……。いくら王女だからって騎士団を動かせないの! あれは
「それで……これはなんなの? こんだけの金額を設定して」
そう依頼書をひらひらさせながら言うのはミレイさんだった。
「私には騎士団を動かせないし、女王陛下はあまり貧困地区の事には携わらないし! だから私がお小遣いで依頼を出したの!」
お小遣いという言葉に、ルアノさんとリクトさん、そしてミレイさんは絶句していた。
その絶句を口に出したのはレイオさんだった。
「どんだけ
それを聞いて慌てたのか、繕うように言っていた。
「一回のお小遣いじゃないわよ! 貯めてたの!」
「どのくらい?」
ミレイさんは聞いた。
「──2ケ月分くらい……?」
「十分高いよ……それ……」
ルアノさんも呆れ気味に言った。
一向に話が進みそうにないので仕方なく私が聞いた。
「それで、イミリアは生活調査って書いてたけど、本当は何を調査してもらいたいの?」
───そうそう! と手を叩き言った。
「ルシア! あなた鋭いわね! 本当の目的は最近多発してる貧困地区での孤児の行方不明調査よ! 表立って『行方不明調査依頼』って書いて出して、姿をくらまさられたら意味ないし」
そう話を聞いていたその時────
「触るな! 離せ!! 院で妹たちが待ってるの!」
「いいから来いよ! ガキが!! お前一匹でノルマ達成なんだよ!」
「オイ! 早くしろ! 見つかっちまうぞ!!」
その声は近くにある建物の裏側からだった。
声の感じから、男2人と女の子が1人という状態だと分かった。それに明らかにイミリアが言っていた行方不明に関わる人たちだと予想がついた。
それを耳にしたレイオさん達は同時に声を出した。
「「あれじゃね?」」「「あれでしょ?」」
「間違いないあれだーー!」
イミリアがそういうと、全員でその場まで走っていき、その人攫いと対峙していた。
「オイ! ガキどもが来やがったぞ!」
「ちょうどいい! そいつらも連れて行くぞ!」
なんと計画性がないのだろう……
相手がどんな子供かも知らないで……
イミリアも感じたのか声に出していた。
「──こいつらアホだわ……。レイオ! リクト! やっちゃって!! それでとっ捕まえて黒幕ゲロってもらうわよ!」
その言いに、呆れてレイオさんは言った。
「──お前、本当に王女かよ……」
「レイオ……僕はコイツを王女だと思っていない」
「それはそうだけど、さっさと片付けようよ……」
「そうそう、ミレイの言う通り依頼だからサクッと片付けてね! 私はルシアの側に居るから!」
それを耳にしたイミリアは────
「ちょっと!? え!? ひどくない!?」
と言ったが……
レイオさんは気にも止めずに「──ああそうだなぁ……さっさと済ませるか!」と頭を掻きながらそう言うと、攻撃体勢を取ろうとしていた。
───けど……。私はさっき動けなかった分の埋め合わせをしようと前に出ると、5人に「私に任せて」と言った。
イミリアは「──ちょっと! ルシア前に出てるわよ!?」そう慌てていたのだけど、レイオさんは「よし! 任せた!」と言ってくれた。
残りのリクトさん、ミレイさん、ルアノさんは落ち着いたものだった。
「知らないわよ……。あんなちっちゃい子に任せて」
「大丈夫よ……今は落ち着いたみたいだから」
イミリアの心配にミレイさんはそう返してくれた。
私はゆっくりと前に出ると─────
「──【
私の言葉に従い、さっきまで大騒ぎをしていた目の前の人攫いは、寝息を立てて寝ていた。
私の能力に驚いていたのはイミリアだった。
「すご!? 一瞬で眠ったわよ……」
そう驚いていたけど、この間に解放された女の子は袋いっぱいの、恐らくパンを抱えると、私たちに頭を下げながら言ってきた。
「どうもありがとうございました! 私はカンネと言います。それじゃあ妹たちがお腹空かせているので帰ります!」
そう言い残すと足早に行ってしまった………
「なんか忙しそうな子だな……」
私は呟いていた。
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