第17話 ルシアとカンネ

「もう23年程前になるかな……私は7歳の時にエルフのキャラバン隊と一緒に各地を回ってたの」


 ハヤセはずっと2人で暮らしていたが、初めてルシアの事を知ることになった。


「ルシアさんはキャラバン隊にいたんですか?」


「そうよ。エルフの作る装飾品には特殊な紋が彫られててね。攻撃に防御に様々な効果がある物を作れるのよ。冒険者たちとか、騎士の人とかに結構人気だったのよ。ハヤセに渡したのも、私が作った物で守備紋を施した物だったしね」

 

 それを聞いたハヤセはガイルの攻撃から守ってくれたペンダントを思い出していた。

 そして申し訳なさそうに言った。


「ごめん、ルシアさん……。せっかく作ってくれたのに先生との戦いで壊れたんだよ……」

 ルシアはかぶりをふりながら言っていた。


「それでいいのよ。ハヤセを守ったんだから。また作ってあげるからね」

 それで話を戻すと、続けて口を開いた。


「それでね、そのキャラバン隊の表向きの目的は商売なんだけど、本当の目的は〈〉の真創まそうして、を確認するためだったのよ」


 ハヤセはその言葉に疑問符を浮かべていた。


 ガイアの恩恵は絶大で、そのガイアの真創を借りて能力を行使することは能力者にとってはごくごく当たり前であり、減少するという事などを考えてもいなかったからである。


「でも、真創は常に生み出されて、減少はしないんじゃあ……」

 ハヤセの疑問にルシアは否定をいれた。


「確かに真創は生み出されてる……でも、無限じゃないわ……。ちゃんと決まった生成サイクルがあるの。それを超えるとガイアに負荷がかかるのよ。もしそれで、壊れてしまう様なことがあれば能力はもちろんだけど、その恩恵を受けている物は全て機能しなくなるわ」

 

 守護育成学校アールスではこの件に関して、全く触れられていなかった。

 疑問はどんどんと膨らみ、ハヤセはルシアに聞いた。


「なんで〈アールス〉じゃあ触れられてなかったんですか? そんな重要なことだったら教えてくれんるじゃあ……」


 ルシアは顔を曇らせながら、キキノにも目を向けて答えた。


「───天世にとってこの事は都合の悪いことだからよ。これは知られてはいけない事のなの……。だから、このことを調べていたキャラバン隊は襲撃を受けたわ……」


 この言葉にハヤセはまただと思っていた。


 天世はを一体どのくらい持っているのかと……


「ホント、何なんだよ……天世って……」

 ハヤセは天世に疑問を抱き始めてから何度目かの独り言を口にしていた。


「私も全ては知らないの……。でも、探りを入れれば天世からの刺客が来るのは間違いないわ……。でも、その時のは刺客なんて呼べる、生ぬるいレベルの奴ではなかった……あれは別次元の強さだった」

  

 天世の刺客を思い出すと、陰々滅々の語り口で話していた。

 

「私たちキャラバン隊は10人で一つの隊を作っていたのだけど、それをの……」 


 その言葉はハヤセに驚きを与えていた。

 エルフは、器用さもさることながら、豊富な知識に高能力を有している種族だからである。


「エルフっていったら高い能力を持ってるのに……それをたった1人って……」


「……そうね……。確かにハヤセの言う通りエルフ族は高い能力を持ってる……けどね、それをものの数分で全滅させた……。私は仲間に隠れる様に言われて離れた場所で見てた……酷いものだったわ。その女はゴミでも見る様な表情で、漆黒の大鎌を私の仲間に向けて放っていたわ……。それで切られた人たちはかの様に抵抗できずに次の2撃目で殺された……」


 ルシアの話にハヤセはもちろんキキノも驚きを隠せないでいた。


 キキノはエルフの能力の高さなど知るわけはないのだが、一瞬で眠らせることができる能力を持つルシアを考えても驚きには十分足りていた。


「当然女は私にも気付いて私の方へ歩いてきたわ……でもそいつは、面白がる様に言ったの……。『お嬢ちゃん? 私の顔をしっかり覚えていなさい。そして私に復讐に来なさァイ……。そこで殺してあげるからねぇえ……絶望に満ちた表情を見るの大好きなのォォオ! ふふふふふふ!! 私の名前はね───』この女の名前は──〈・シャルガー〉……長身で金髪を腰まで伸ばした女よ……」


 ハヤセは〈ヴェルネット〉という名前を聞いた覚えがあった。


 天世の授業の中で、【天地大戦】のホーヘヴ・グラーディアと並び称されていた2千年前の英雄と同じ名前であった。


「2千年前の人の名前が何で……」


「私も分からないわ……エルフは長命と言ってもそこまでは生きられない……だから同一人物かまでは分からないけど、そう名乗り、その女はそのままどこかへ消えていったわ……。それで、ただ1人残された私を助けてくれたのが4人パーティーで冒険をしていた人たち……」


 ルシアは昔を──懐かしさを──胸に抱く様に、ハヤセとキキノに話していた。


「その4人がね、将来ハヤセの父親になる、黒髪短髪のレイオ・アキバさんと母親になるミレイ・キサキさん茶色のボブヘアー……2人ともその当時は13歳。そして、キキノちゃんの両親になる彼らの名前は父親の方はね、銀髪で短髪のリクト・スメラギさんと母親の方はキキノちゃんとそっくりな水色の長髪ストレートのルアノ・ミササギさん……彼らはレイオさんとミレイさんよりも1つ年上の14歳だった」


 それを聞いたハヤセとキキノは初めて両親の名前を知った。

 ハヤセはルシアに聞こうとはしなかったし、キキノは知る術はなかった。

 2人とも両親の顔は知らない……。

 記憶できる頃にはすでにこの世にいなかったからだった。


「それからね、私は4人と旅をしたわ……。そして、〈中央王都グラヴィス〉の貧困地区〈ルアーザ〉そこで初めてカンネを見たわ」


 ────最初に見た印象はね……


『なんか忙しそうな子……』だったかな……────



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