第15話 鈴華ヘルヴェル

 戦闘体勢に入り、ハヤセはカレンとチカホの2人と対峙していた。


 距離にして20メートル程離れている。


 2人の能力は、遠距離も近距離でも使える物である為にハヤセは警戒を強めていた。


 だがそれを掻い潜る様に地面から樹が出現しハヤセの足に絡めていた。


「───チカホの能力か……」

 チカホを見ると、右の足元に緑が現れゆらめく光を放っていた。

 

「───ハヤセ大人しくしてくれる……? できるならあなたを攻撃したくないの……」

「そうね……。チカホの言う通りよ……。私もできるなら大人しくして欲しい……」


 2人の言葉に、ハヤセは少し間をおくと返した。


「じゃあ、邪魔をしないでくれ……。そうしたら、俺もお前たちを攻撃しなくて済むから……」

「それは無理なの分かるよね……?」

 チカホは寂しく言っていた。


「なら大人しくできねーな……」

「──分かった……。私とチカホであんたを大人しくさせる……。確かにハヤセはシマを倒したけど、私たち2人が本気出したらハヤセは勝てないと思うよ」


 カレンは目を冷たくして言っていた。

 間違えなく本気の目であった。チカホは未だに複雑な目をしていたがハヤセと戦う意思が宿っていた。

 

 そんな2人を見ながらハヤセは言葉を繋いだ。


「お前たちは俺の本気見たことないだろーが……」

 カレンは少し間を置いて言った。



「───そうね……。じゃあ全力で行くから……。チカホも全力出しなよ……」

「───うん……わかった……」

 それを言い終わると、この一定温度を保っているアザイドにおいて、カレンの周囲には霜夜の様な冷気が漂っていた。 

 吐く息も白く、眼光は冷たくハヤセを捉えていた。


「────【雪華氷絶セツカヒョウゼツ】……」

 カレンの言葉はハヤセの周囲にのみ雪の華を降らしていた。その華はハヤセに触れた瞬間に氷の膜を生み出し凍らせていた。


 ハヤセは攻撃を受けながらも冷静であった。

 ───恐らく2人に負けないと確証を持っている様であった。


(……カレンの得意技だな……。相手の体温を急激に下げ、さらに凍らせることで行動を封じる……)

  

 そう考えていると、カレンはチカホに能力を放つ様に促していた。 

 それに応じる様に言葉を発した。


「───【水精の舞フェアリィーダンス】……」

 チカホの言葉は、妖精の様な姿の水を出現させていた。

 それらは踊る様にハヤセを囲むと、雪の華と融合し瞬く間にハヤセを〈氷の柩〉に閉じ込めていた!

 ハヤセは全身を氷で覆われ、完全に行動不能へと追いやられた。


 キキノは急いで駆け寄ると、ハヤセの名前を連呼していた。


「……チカホ。もう〈樹〉を解いていいわよ。もう動けないし……」

「……うん……」

 チカホは返事をするが、ハヤセに駆け寄り、ハヤセの名前を連呼するキキノに嫉妬していた。


 自分は幼馴染で、ハヤセの事を知ってて大好きな人なのに……。このはハヤセが必死に助けている対象……。

 すごくモヤモヤする……。

 その気持ちものせてしまい〈樹の檻〉を創り出し、キキノの身動きをできなくさせていた。

 それを横目にカレンは先生に伝えないと……と言ったいた。


 ────だが……!


 完全に封じ込めたはずであった氷は一瞬に砕け散っていた。 

 それに驚いたカレンとチカホは動くことができていなかったが辛うじて声に出していた。


「──どういうこと……!?」

「ハヤセの……能力……?」


 それに答える様に、ハヤセは返していた。


「───言ったよな? って……。お前たちが能力を発動した時には俺は自分の体を包む空気の層を創ってたんだよ。お前たちが凍らせたのはその膜だ……。俺には届いてない……」

 

 その返答に、カレンは即座に追撃をしようした。

 

「……やめたほうがいいと思うぞ……。自分の能力に呑まれるぞ」


「……何を言ってるの?! 自分の能力に負けるわけないじゃない! 【絶零ゼツレイ】!!」

 

 カレンは扉を凍らせた時と同じ様に、ハヤセを凍らせようとした……。

 だが、それはハヤセの忠告通りカレンから広がり、チカホの足元をも凍らせ始めた────


 カレンは確かにハヤセに向けて放った───

 そのはずであったにも関わらず、それは自分たちを凍らせ始めていたのだ!


「───っ!? どう言うこと!? 何で!」

「カレン、確かにハヤセに向けてたよね!? なんで私たちの方が───!?」

 驚愕する2人にハヤセは静かに口を開いて告げた。


「……お前たちの周囲を見てみろよ……」

 そう促され周囲に目を向けると、氷が壁を伝うように空中を不自然に広がっていた。


「……何!? 空中を広がってるの───!?」

 それに気づいたカレンはすぐに能力を解除したが、2人の下半身は完全に氷結し、身動きが取れずにいた。

 チカホは気づいた様にハヤセに言っていた。


「───空操能力……ってこんなこともできるんだね……」

「あんたの能力……てっきり防御メインだと思っていたわ……」


 チカホの思い込みの答えに、ハヤセは首を左右に振りながら──俺の能力は防御特化型じゃないんだよ……。と言いながら続けた。


「俺の能力はどちらかと言うと極攻撃きょくこうげき特化型だよ……。言ったよな……? 俺はまだお前たちに本気を見せたことないんだぜ……先に謝っとくよ……悪い2人とも……───【空振動クシンド】……」 

 

 発動されたそれは、2人を瞬時に空気の球体が覆うと、強烈な空振動が起こり激しい脳震盪を起こさせていた!

 その空間の振動で氷は砕け、脳震盪の影響で2人は膝から崩れ落ちる様に倒れた。


 気を失う寸前のカレンとチカホの目には、訓練学校の扉を壊し中に入っていくハヤセと、手を引かれるキキノその娘の姿が見えていた。

 

 彼女たちは、そのまま中に入る2人の姿を最後に意識を失ったのだった。


 ※ ※ ※


 俺はキキノの手を引き、急いであの〈熊翼ゆうよく〉に言われた場所へと向かった。


 仄暗い階段を下りると、扉が見えてきた。

 扉は鍵は掛かっていなかった。

 恐らく、俺を倒すこと前提で鍵を掛けていなかったのだろうと思った。

 まさか俺がこの地下まで辿り着くとは思っていなかったんだろう……。


「ここ、かぁ……」

 俺の目の前には〈転移陣〉が微かな光を帯びながら転送先を待っている様に見えた。


「この先はハヤセの〈街〉に繋がってるの?」

「──だと思うよ。あの熊翼の事を信じるなら……」


 俺はあの熊の言う事を全て信じているわけではないが、こればかりは信じていると言っていい。

 キキノを助けるという事で熊は先生との戦闘を受け持ってくれた。到底、嘘を付くとは思えない……なら信じるほかない。


「キキノ……。行こっか? 鈴華ヘルヴェルへ──」

「うん。ありがとう、ハヤセ」


 キキノは笑顔で言うと、俺はその手を引き、育ての親であるルシアさんの顔を思い浮かべ転移陣へと足を進めた。


(──ルシアさんにこれまでの事を伝えて、知っていることを教えてもらおう……。ペンダントを持たせたってことは全部じゃないにしろ、《天世》と言うものが何なのか知ってるはずだから……)


 そう考えながら鈴華ヘルヴェルへと戻った。

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