第13話 ハヤセと幼馴染
ハヤセはキキノの手を引きアザイドにある訓練学校へと急いでいた。
教師が来たという事は、このことに関して少なくとも、天世の育成学校の生徒たちにも知らされている可能性があると考えたからであった。
理由を言わなくとも、『ハヤセが関わった』と言う事が判明した時点で、連帯責任として捜索に駆り出される。
ハヤセ自身としては幼馴染たちと相対するなどといったことは避けたかった。
「……キキノ……大丈夫か? 結構、急いだからさ」
「うん………はぁ、大丈夫……だよ……はぁ……」
そう返してはくるが、やはり体力が厳しい感が否めない。東門も大分近づき、門をくぐれば捜索に駆り出されているであろう生徒たちが、街を回っているという予測はつけていた。
これまで以上に急ぐことになるが、このままではキキノの体力が持たない。そう判断したハヤセはもしもの為と温存していた体力と能力を使うことにした。
「キキノ、ちょっとごめんな!」
そう言いながらお姫様抱っこの様に抱えた。
「──あわわわわわっ!?」
「悪りぃーな……。でも急がないと
「──で、でもおもいよぉ〜……」
両手で顔を抑えながら、指の隙間からハヤセを見ていた。
「そんな事ないぞ。全然軽いじゃねーかよ」
「うぅ〜………」
キキノは耳まで赤くし、顔を完全に覆っていた。
「──じゃあ飛ぶぞ! 【
その発した言葉で、全身に風を纏うと、重力を無視した様に体を軽くしていた。
それによって、門をくぐるのではなく飛び越える様に舞い上がり、そのまま建物の屋根をつたい警戒しながらも一直線に訓練学校へと向かった。
下に目を向けると、やはり捜索していると思われる生徒の姿が見てとれた。
「……やっぱり駆り出されてるな……」
「……下に居る人たちがハヤセを探してる人たちなの?」
振り落とされない様にハヤセの首に手を回しているキキノは聞いていた。
「ああそうだよ。でも、まさか上だとは思わないんだろな……。気づかれてないみたいだよ……。とりあえずこのまま向かおうか」
そう言い、再び移動を開始しようとした時、キキノから声が発せられた。
「ハヤセ! 建物の上に誰かいるよ……!」
声に反応し、キキノが目を向けている先にハヤセも目線を動かした。
そこには確かに人が立っていた。
月の明かりに照らされた、その姿はよく知っている顔であった。
そのよく知った姿はハヤセに向けて口を開いた。
「何やってんだよ! ハヤセ!!」
「───シマ……か……」
横の屋根の上に立っているのは幼馴染であるシマ・イマタチであった。その顔は寂しさと、怒りの混在した表情であった。
「よく気付いたよな……? 他の奴らなんか下ばっかり探してるぜ……」
ハヤセは返ってくる言葉は予想できたが聞いた。
「何年の付き合いだと思ってんだよ……。お前の能力的に言えば下を行くより上だろうが……!」
「───本当に幼馴染ってのはすぐに考えを読んでくるな……」
その言葉に限界を迎えたシマは言った。
「そうだよ!! 幼馴染だろうがよ! 何考えてんだよ! 相談しろよ! お前が抱えているその
その言葉にキキノは表情を暗くしていた。
気付いたハヤセはキキノをゆっくり降ろすと、後方へと促した。
「俺は自分の信念に従っただけだ!」
「──お前の信念てなんだよ!
シマの言葉に怒りの声を上げた。
「じゃあ聞くが! お前の言う
「───!? その娘が……? 大罪……人……?」
「ああ、そうだよ……。生まれて間もなくして大罪人としてあのヘルゲートに15年……。外にも出たことがない……海も見たことがないそんな娘が大罪人だと思うのかよ! おかしいのは天世だ……!!」
ハヤセの言葉に少しの沈黙をおき答えた。
「───確かにそう言われると疑問に思わないでもない……。だが、なぜ天世がおかしいと思うんだ? その娘を大罪人とした理由は知っているのか?」
「……………」
「理由は知らないんだな……。それなら、その娘が大罪人ではないと証明できない……。ハッキリとした理由があり、証明できるのならここを通そうと思ったが───できない以上ここを通すわけにはいかない。お前をぶん殴ってその娘をヘルゲートへと引き渡す……!」
シマは腰を落とし戦闘体勢に移行すると、屋根を破壊しない程度に加減した【
低い体勢で拳を構えると次の攻撃へと繋げた!
「【
最初の拳は弾く力を纏いハヤセの腹部めがけて放たれた!
だが、やはり防がれる。
続けて、【二弾】、【三弾】と側頭部、背後と放つが全て防がれていた。だがそれは布石に過ぎず、四弾目となる攻撃を横脇腹へと放った!
「【
発せられた言葉に従い、全て防いでいたはずの攻撃は一気にその【弾】を解放した!
解放されたそれは〈
「───がァッ!?」
短く声を上げ、空中に体を踊らせると、そのまま数メートル屋根を転がされていた。
万全であるなら押し負けることはなかったはずだった。
だが、ガイルとの戦いと移動のために能力を使用していたため、この状態となっていた。
「ハヤセ!!」
キキノはすぐに駆け寄ると体を起こした。
ハヤセは「───わりい……」と言いながらキキノにまた後方に下がる様に言った。
キキノは躊躇していたが、ハヤセの真剣な目に言われるままに下がっていた。
「どうしたよハヤセ……? ずいぶんと消耗してるじゃねーか」
「──ははっ……気にするな。次はくらわねーよ(言ってはみたもののこのまま長引くのはキツイな……一気に終わらせるしかねーか……)」
「そうか、なら次で完全に沈めてやるよ……! それでその娘を連れて行く!」
シマは能力値を高める様に、全身に【弾く】を纏い全力で潰そうと考えて攻撃体勢を取っていた────
ハヤセは大きく息を吸い───────
────
その言葉は全力のシマを沈黙させることになる
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