第12話 熊翼ヴィウス

 ハヤセを守るように輝くペンダントは、ルシアが『アザイドに行くなら必ず』と言って渡したものであった。


「これはある人から貰ったものだ。今になって分かるよ、これを渡した意味がさ……。先生……あんた達は何を知っているんだ! 先生も『腑に落ちない』と言ってたから全て知ってはいないんだろうけどさ……」

 

 教師は頭を振ると怠そうに答えた。


「俺も知らねーよ……。内情を知っているのはロイゼン以上だろうよ……。俺は天世側の人間だが、一介の教師に過ぎねーんだよ」

 そう返しながらも、ガイルは次の戦闘態勢に入っていた。その間、ペンダントは光を無くし幕も消えていた。


「お前のそのペンダントも万能じゃないようだなぁ。一度で限界を迎えたみたいだな……」

 ハヤセは自分の胸元を見るとペンダントに罅が入り崩れだそうとしていた。


「まぁ俺の〈真創〉を纏った【主役プリマドンナ】の攻撃を防げただけでも驚きだがなぁ。次は正真正銘の終演だけどな」

 ガイルは再び目を深紅クリムゾンに変えていた。

 キキノはそれを見るなり、ハヤセに叫んだ。


「ハヤセ! もういいよ! ここから離れて! 私を逃がすために誰かの生命いのちが脅かされるなんて嫌だよ……!」


「……大丈夫……。助ける!」


 そう言ってはみるが、あの炎劇の能力の危険度は感じていた。現に、ルシアのペンダントがなければ間違いなく殺されていたのだ。


(次の攻撃はどうする? またあの【主役プリマドンナ】とか言う畏怖する者バケモノを出してくるのか? 防御と回避しながらキキノを連れて逃げるか……? でも逃げられるか……?)

 

 繰り返し考えていた。ハヤセは窮地にありながら冷静に判断していた。


(とりあえず、やってみるしかねー……。空気を圧縮して押し出せば瞬発力は上がる。風を操作すれば急旋回も可能だ……)

 考えをまとめると、ガイルを見据え次の行動を確認していた。相手が能力を発動する瞬間に移動することを決めていた。


───【狂炎人形クラウン】!」 

 その瞬間ハヤセは動こうとした………動こうとしたのだ────

 しかし───それは炎糸エンシにより地面に縫い付けられ阻まれてしまったのだ。

 

 狂炎人形クラウンは動くことができないハヤセに対して巨大な炎のナイフを掲げ放とうとしていた。 


 ハヤセは複数の空間の盾【空盾シールド】を形成すると、全力で耐える為に能力を全開にした。

 

「無駄だと思うぞ───遊べ殺せ……」 


 ガイルは眼光を鋭くし見下した。

 その一言はナイフを急降下させハヤセを刻み焼失させようとしていた─────



   ────そろそろ限界か…………



 言葉は静かに響き、ハヤセに狙いを定めていた炎のナイフは巨躯のひと薙によって霧散した。


 ハヤセとガイル隔てるように、地響きを伴い翼の生えた熊は真ん中に降り立っていた。


「なんだ!? 何が起こった!?」 


 ガイルは驚愕を抑えきれず声に出していた。

 ハヤセとキキノは呆気に取られ口を開けたままだった。


「なに阿呆みたいな顔してやがる。テメェ今の状況忘れてんのか?」

 言われ気付くと、ハヤセは漸く言葉を発した。


「お、お前……確か門番の熊翼だよな……? 何がどうなってんだよ……?」

「今はんな事は関係ねー。ただお前はキキノその娘を助け出し、ここから離れればいいだけだ。悪いがギリギリまで、お前がその娘を見捨てないかを確認させてもらった。あとはオレが片付ける」

 

 そう言い放つ熊翼はアザイドから脱出する手段を伝えてきた。


「ハヤセと言ったか……。アザイドここから抜け出す方法を教えてやる。ここには、この街アザイドとヘルゲート、そして外を繋ぐ〈真創転移陣〉がある。コイツはそれを通ってこの広場まで来ている。〈真創〉の波動を感じたからな……。恐らくはお前の学校とやらのどこかにこことを繋ぐ陣があるはずだ。それを使いまで戻れ……。ここの陣はコイツが使用不能にさせているだろうから、アザイドの学校とやらの陣を使え。〈真創〉を大量に使用するからあまり使ってもらいたくはないが仕方ない」

 

 そう長々と説明し、キキノを捕らえていた人形を自身の能力で消すと向かうように促した。


「……訳わかんねーけど、訓練学校に戻ればいいんだな!」 

「さっさと行け!」

 

 ハヤセは促されるまま、キキノの手を引いて走り出していた。それを見たガイルは逃すまいと、炎劇の能力を使おうとしたが、熊翼によって阻止された。


「おいおい。オレがさせるわけねーだろ。お前の相手はオレなんだからよー……」

「何なんだよお前は! 天牢ここの門番なんじゃないのかァ! 邪魔してんじゃねーよ! この熊野郎が!」

 

 そう言われた熊翼ヴィウスは────


「そうか……この姿が気になるのなら変えてやろう」

 ヴィウスはみるみる姿を変え、堅いのいい茶色い短髪を持つ2メートルを優に超える人の形へと変化させていた。

「ほんと何なんだよテメェ……」

 その問いに答える様に自己紹介をした。


「名乗る機会が来るとは思わなかったがな……。オレは──古代種と言われるこの世界の観察者が1人───熊翼種ヴィウスだ。そして、これからお前を排除する者だよ」


 その言葉を発した次の時には!


 ───ガイルの目の前まで接近していたのだ!


 その圧倒的な速さに対応しきれずバランを崩すと、ヴィウスは紅を宿した拳撃を腹部へと叩き込んでいた。それを受けたガイルは空中へと大きく跳ね上がられていた。 


「くそ! なんつー速さしてんだよ! 大きさと全くあって、ねーじゃねーか、よォ……!」

 だが、この状態であっても命令を下していた!


「【狂炎人形クラウン】遊び!!」


 命令に反応した狂炎人形クラウンは無数の炎刃ナイフを掲げるとすかさず振り落とした!

 立て続けに火浮球ジャグリングを作り出すと、四方から一気に炎雨エンウを降らせ燃やし尽くそうとしたのだ!


「────その狂炎人形カカシの力は……まるでお遊戯だな……だが、真創を使い過ぎだ──【血牙ケツガ】」

 

 ヴィウスは両手を左右に広げるとその先から血で創り上げられた巨大な獣の口が炎刃ナイフ火浮球ジャグリングを噛み消した!


「……なんだよその能力は……!? 俺の炎劇を喰い消しやがって……!」

 あれだけの熱量を一瞬で消されたガイルは苦い顔をしながら聞いていた。


「オレの使う能力は特殊でなァ。自分はもちろん、今まで相手にしてきた奴らの血をも能力に変換する【血創ケッソウ】という」

 

「……そんなもん見たことねーぞ……! 自分の血以外も変換するってよぉ!」

 ガイルは、そう言いながら先の間合いよりもさらに距離を取った。


「多少距離を取ってもなんの意味もないぞ……」

「だろうなァ……。でもなぁ、【狂炎人形クラウン】と、この【主役プリマドンナ】との狂宴準備には十分な時間だったぜ!」


 ガイルは主役プリマドンナをまたしても出現させると2体を使った狂宴を開始しようとしていた。

 それを怒りの目で見たヴィウスは歯を噛み締め言った。


「これだから〈天世〉は馬鹿な奴が多い!! この短時間に大量の真創を使いやがって……! どの一族クランでもないがこれだけのエネルギーを使うのにどれだけの真創を……!」


 その言葉を気にも留めず、ガイルは命令を下そうとしたその時ヴィウスは口を開いた───


「────お前。確かその狂炎人形カカシにこう言ってたな───『』───」


「それがどう─────!? なんだ───!?」


 その驚愕と同時にヴィウスに狂炎人形カカシと言われたそれは歪な動きをすると、ターゲットをガイルに定めていたのだ!

 

 それを目にしたガイルは、先と比べ物にならないくらいの驚きで返した。


「どうなってんだよ!? なんで俺の能力が!?」


「言ったよなぁ……。『相手の血をも能力に変換する』とな。その狂炎人形カカシの放った炎刃と火浮球攻撃はそいつの所有なのだろう? なら、もう狂炎人形それ


 それを言い終わる頃には、狂炎人形クラウンは自分自身も炎刃ナイフと変えていきターゲットに向かいその刃を飛ばしていた。

 それはヴィウスの〈血創〉も上乗せさせし、同じ炎では防ぐことができない血炎刃ナイフに変換していた!


「──終わりだ……」


 ヴィウスは静かに呟くと、その〈血創刃ナイフ〉は主役プリマドンナとガイルを貫いていた───


 ガイルは遠のく意識の中、声に出して言っていた


「──………く、そ! だから……こんな、だりーこと……嫌だったん……だ……よ……」


 ヴィウス静かに眺めるとその場を後にしながら言った。


「さて……ホーヘヴ・グラーディア天世の偽英雄に見つかる前に、時期が来るまで姿を隠すか……それにどうやらハヤセ少年には同じペンダントの創造者世界の観察者が居る様だからな」


 そう残し、闇に姿を消したのであった。

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