第11話 ハヤセvsガイル・R・スクリアート

 ハヤセの言葉は、静かな空間に響くように発せられていた。

 雲から姿を現した天満月あまみつつきは目の前の広場を明るく照らし始めていた。


 通路前のこの広場には、ハヤセとキキノ、そして〈天世守護聖〉の教師が居た。


 ハヤセはキキノを後方に移動させると、街へと続く道を塞ぐ様に立っているガイルにもう一度言った。


「何で先生がここに居るんですか……? 俺を『捕縛する』と言うのは? 『殺す』ってどういう事ですか?」


 ハヤセは返ってくる言葉は予想できていたが、確信を得るために聞いていた。

 

「お前、ここで騒ぎを起こしただろうが……。しかもの手伝いまでするとはな……。で、その後ろのが、この天牢に収監されていた大罪人だな……。正直俺もそれが大罪人というのは腑に落ちないがな……」


 ハヤセの予想は当たっていた。

 教師まで話が伝わっていたのだ。

 どこから伝わったのかは大体予想は出来る。


「先生はスクリアート副長から聞いたんですね……?」

「ああ、そうだなぁ。お前は意外と聡いな……。訓練ではランク外なのにな……」

「どういう関係かまでは分かりません。でも、先生もですからね……」


 ガイルは頭を掻きながら「あーあ……やっぱ面倒くせぇ……」と言うと続けた。


「ロイゼンは義弟だ……。スクリアート家が俺の能力に目を付けて幼少期にアイツの兄として引き取ったんだよ。で、どうする? 抵抗すんのか? それとも大人しくキキノそれを渡す────……」

 

 言い終わる前には、ハヤセは戦闘体勢に入っていた。


「まぁ、そうだよなぁ……。こういう場合は大人しく渡すわけないよなぁ……」

 眼光を鋭くさせると、目の色が紅に変わり体にはほむらを纏っていた。


「じゃあ俺は教師としてではなく、天世の者としてお前を始末する───改めて言おう、俺はガイル・レア・スクリアート、炎劇エンゲキの能力者だ」

  

 ガイルは手を掲げ───【炎操人形パペット】と言うと、ガイルの目の前には炎で創り上げららた5体程の人形が現れた。


 男女それぞれの形を模したそれは地面を一気に駆け出し、ハヤセとの間合いを瞬時に詰めていた!


 その人形たちはステップを踏みながらハヤセ悪役に向けて無数の炎打えんだを与えていた!


 当たった場所からは小規模な爆発が起こりあっという間に爆煙が周囲を覆っていた。

 キキノは目の前の光景に「ハヤセーー!!」と叫んでいた。


 その煙が霧散するとハヤセが倒れている───とガイルは考えていた。


 ───だが、目の前では予想していなかった事が起こっていた。


 あの成績ランク外の生徒が倒れているどころか、無傷のまま立っていた。

 しかも、5体いたはずの人形は2体まで減らされていたのだ。キキノは一旦安堵の表情を見せるが心配なのは変わっていない。


「マジかよ……。どういう事だ……!? アキバよォお前なにしやがった?」

 驚きを隠せないといった表情で、ハヤセに聞いた。


「先生は炎の能力なんだよな……? だったら、俺とは相性は良くないと思うぜ……。俺の能力は【空操クウソウ】だ───」

 ハヤセが言い終わる前に、再び人形の1体が炎を凝縮した掌打を突き出してきていた!


 しかしハヤセは焦ることなく左手を突き出し、掌打それを受け────


「───【空虚くうきょ】」


 その言葉は触れた瞬間から【炎操人形パペット】を消失させていた。


「最後まで話を聞かないんですね……」


「そうか……お前の能力は空間に干渉する事ができるんだな……。あー面倒くせぇーなぁーー。本当に面倒くせェ……」


 そう言いながら夜空に目を向け、両手で頭をくしゃくしゃにしていた。

 それを見ながらハヤセは言っていた。


「先生も知っていますよね? 炎は酸素がなければ燃えないことを……。俺は空間に干渉してその酸素を遮断できます。だから先生からすれば、俺の能力は天敵になるわけです」


 ハヤセの言葉を聞いていたガイルは、肩を落としながらため息を吐いていた。次には…………。


「あ〜あぁぁァァァ。何でこんな疲れることしないといけないんだよ〜……。ランク外でやる気のない奴だから早く終わらせられるって思ってたのによー。まさか能力を隠してるとは思わなかったよー。だりぃーなー……。本当にだりーなー……」

 そう言うと続けた。


「なぁ……アキバお前のせいだからなぁ……。こんな疲れること本気を出すのは……」


 そう発すると、ガイルはその目を深紅クリムゾンにすると静かに呟いた


 ───出番だ【主役プリマドンナ


 ガイルの言葉に姿を現したそれは燎原りょうげんの火を纏いハヤセの前に降り立った。

 煌々を纏うそれは人間の大きさと然程変わらないが、内在しているエネルギー量は、人間の比にはならなかった。


 真っ赤なドレスを纏い。深紅クリムゾン長髪ストレートを持つ主役プリマドンナ昏天黒地こんてんこくちの瞳を向けていた。

 

 ハヤセはその美しくも畏怖する存在に言葉を失っていた。後方に控えるキキノも同様だった。


「【歌い演じろオペラ】!」


 同時にドレスを纏ったそれは、胸の前で手を組み炎声エンセイを放った!

 炎声それは広場全体を炎に包み、舞台ステージを用意していた。


 舞台ステージが用意されたそれは、ふわりと──だが一瞬で──間を詰めると両手を大きく広げ、炎柱を発生させハヤセ悪役を突き上げた!

 ハヤセは自身の能力で防ごうとしたが、防ぐことができずその体を宙に浮かせていた。


「──がぁぁぁッ!」  

 それを見たガイルは表情を変えず言った。


「アキバよぉ……。お前は短絡すぎる。確かに炎は酸素がないと燃えない……。だが、酸素の代わりになるものがあれば話は変わる」


 ハヤセは数メートルから地面に叩きつけられ、その体を横たえながら聞いていた。


「〈真創〉をその代わりにすればいいだけだ。コイツは真創の影響を受けた【主役プリマドンナ】だ……。歌い演じそして相手を魅了する殺す


 キキノは駆け寄ろうとしていた───

 だが、ガイルの【炎操人形パペット】に捕らえられていた。

 キキノは振り払おうとするが、当然出来るはずもなかった。


「あーお嬢さん……。あんまり動かないでくれるかなぁ、燃やさないように触れるには、調整が難しいんだよ……。それじゃあアキバよぉ、【喝采アプローズ】を浴びろ」

 

 その言葉で、舞台ステージの炎は空中へと集まるとハヤセに向かい雨のように降り注いでいた。

 無数の炎は広場にある全てを焼き尽くし、一帯を支配した。


「さぁて、片付いたしロイゼンあいつの所にでも連れて帰るか……」

 

 それを目の前で見せられたキキノは、大粒の涙を溜めては流していた。

「ごめんね……ごめんね……私が『死にたくない』って言ったから……。巻きこんじゃった……大人しく処刑を……受け入れれば、よかったんだ……」


 キキノは全身の力が抜け、引っ張られる形で連れて行かれようとしていた────


「──先生さぁ……。相手の……生死を確認せずに、離れようとするのはダメなんじゃねーのか……?」


 その発せられた言葉にガイルは何度か目の驚きの表情を見せていた。

 今度は確実に殺したと思っていた。

 だが、眼前には先のダメージ以外の、炎に焼かれた傷を持たない生徒が立っていたのだ。

 そしてさらには、その周囲を光の幕が包み一切の炎を寄せ付けていなかった。

 

「……それは何だ……?」


 ガイルは口にするとハヤセの胸元のペンダントが優しい輝を放っていた。


 

 

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