第10話 カンネvsロイゼン──そして脱獄者

 牢を壊しキキノを脱獄させ、ハヤセに託した。


 カンネは、ロイゼンと対峙すると、2人が下りて行った階段を背に、行くてを阻むように立ち塞がっていた。


「何のつもりだ? ……」

 すでにカンネを呼ぶ名には〈中位守官〉という役職が省かれていた。


「何のつもりもないですよ。ただ私は自分の気持ちに正直になろうと思っただけですよ」

「大罪人を脱獄させておいて正直とはな……」

 そう静かに返すロイゼンに、右手に持った細剣を構えて語尾を強めて言った。


「キキノは大罪人などではない!! 生まれて間もない赤ん坊を捉えて大罪人とした理由はなんだ! 天世は何を隠している!」

「罪人は罪人だ……。お前が知る必要はない」

 その淡々とした言いに、あのが言っていた言葉を借りた。


「天世は『無実を大罪』に変えたのだろう?」

 その言葉に、ロイゼンは眉を少し動かしていた。

 そして、もう一つ聞いていたことを思い出すと口にした。


「キキノは悪夢の一族ナイトメアンと言うのだろう?」


 その言葉にロイゼンは明確に表情を変えた。

 それは段々と、冷たい形相へと変わり────


「【ゲン】・【ザン】────」


 瞬間には剣を持った巨人の腕が空中に出現し、カンネに向けて振り下ろされた! 

 

 だがカンネは即座に反応し、細剣で受け止めていた。


 それは大きな音と共にカンネの足が地面にめり込む程の衝撃を与えていた。

 歯を食いしばり衝撃に耐え〈紫電〉の能力で強化した剣で弾いたが、立て続けに攻撃が放たれた!


「【】────」


 今度は足が出現すると、カンネを後方へと激しく蹴り飛ばしていた。

 結界に背中を叩きつけられたカンネは血を吐きながらも、片膝をつき耐えている様子だった。


「うッ……。あッ……ぐゥゥッ……! はぁ、はぁ」

「よく耐えたものだな……。普通なら気を失ってもおかしくはないがな……」

「このくらいでッ─────戦意と気を失うわけにはいかない……!」


 その直後、カンネは能力を細剣に纏わせ放っていた。


「【雷天ライテン】!」


 放った先では、無数の雷が扇状に広がりロイゼンを取り囲んでいる。


 しかし……!


 「……【ジュン】」


 ───と呟く声が聞こえた。


 すると雷は霧散し、ロイゼンは余裕の笑みを浮かべ立っていた。 


「君の能力〈紫電〉は万能だなァ。筋力強化に広範囲攻撃……は相性が悪いと言うことか……ふふッ」 

 ロイゼンの口調が変わり、相性が悪いと言いながらも、口元には笑みが浮かんでいた。


「言う割には……余裕な感じを受けるが……」

「それはそうだろう。相性が悪いと言うだけで、オレがお前に負けるという事にはならないからなァ……」

 さらに口元を緩ませた。


「──久しぶりにこれを使ってみるか……」


 ───【顕界ゲンカイ】───


 ロイゼンの言葉に巨人はその全てを現した。

 凡そ10メートル程ある巨体は全身が鎧でその目は赤く煌々と見据えていた。 


「ヒイラギよ。久しぶりなんだを纏わせた【死鎧シカイ】を出すのは……。少しはこれで遊ばないとなァ……」

 ロイゼンは未だに膝をつく形のカンネを見下すと、【死鎧】に『大人しくさせろ』とひと言放った。

 目の前の鎧に危険な力を感じたカンネは細剣を床に突き刺したまま───【紫震シシン】!! と言うと、雷は床を這い鎧を縫い付けるように纏わり付いていた。

 ───が、鎧は束縛を簡単に解くと……


 瞬時に動き出していた!

 その大きさに似つかわしくない速さで間合いを詰め右腕を下から突き上げる打撃を与えた!

 その衝撃に血を吐きつつ空中に踊らされたカンネの体を、即座に空中に移動した鎧が踵落としを叩き込み

轟音と共に天牢の床に沈めた。


「ガぁぁぁ!! ゴホッ……」

「もう終わりなのか? つまらんな……。やはり脆弱な人間だな……」 

 カンネは何とか意識を保ちつつも、息も絶え絶えに言った。


キキノあの娘ハヤセ少年はここから離れた……。あの娘たちを……すぐ追わないとは……余裕なのか……? いくらお前でも……一旦見失った者を探すのは……骨だろう……」


「まぁ隠れられたら探し出すのは大変だろうな……。対策は打つさ」

 そう言うと、懐から通信機を出すとある人物に連絡していた。


「──そういう事だ。それをオレの所まで連れて来い……義兄にいさん……」

「……お前に……はぁ、手を貸す奴がぁ、……いるとはな……。『にいさん』とは天世の……関係者か……?」

「オレが答える理由はないな……そろそろその口も黙ってもらおうか」


 ロイゼンの指示に【死鎧】はカンネに近づき掴み上げると、鈍い音をたてながらその手を閉じていた。

 【死鎧】を消すと顔をニヤつかせると呟いた。


義兄アイツが自分の生徒を手にかけるのは見ものだなぁ……クックックッ……。どうするのだろうなァ義兄ガイルは……」


 ※ ※ ※


 夜中の〈訓練学校アザイド支部〉では1階に生徒が集められていた。

 シマもさっきまで寝ていた目をこすりながら集合していた。カレンもチカホも眠そうで、周囲の生徒の中にも欠伸をしながらや、未だに半分寝ている者たちもいた。


 こういった中、いつの間にかこの支部に戻って来ていた〈教師〉がシマたちの目を覚ますことを言った。


「……えーとな……。ヘルゲートでなんか騒ぎが起こったらしくてなぁ。それにハヤセ・アキバが関わっているらしくてなぁ……。で、守護育成の生徒であるお前たちに、アキバの捜索をする様にヘルゲートの副長に言われてな……。悪いが、お前たちには街中を捜索してもらうから、準備が出来たらすぐに行ってくれ」

 

 その教師の言葉に驚愕しつつシマは口に出して言っていた。


「何してんだよ! ハヤセ!」

 それに同意すると、カレンとチカホも続けた。


「シマ! すぐに行こう!」 

「……ハヤセ……どうしちゃったのよ……」


 3人はすぐに準備をすると街へと向かった。

 生徒たちを見送った〈教師〉、ガイル・レアはため息を吐きながら言っていた。


「はぁ……。面倒くせぇことしやがって。ヘルゲートから出るんなら、やっぱあそこだろうなぁ……」


 もう一度ため息を吐くと、2人がいるだろうと予想をつけた場所へと足を運んだのだった。


 ※ ※ ※


 俺はキキノを連れ、専用通路を通って外へ向かっていた。その間もこれからの事を考えていた。


(……キキノを連れ出したのはいいけど、これからどうする? ヘルヴェルに向かうしかないけど……。夜とはいえ、街中はまだ人目がある。恐らく飛空挺は使えないだろうし……。天世も黙ってるはずはねー。でも、大々的に捜索はしないだろう……。天牢の情報は規制がかかってるし、脱獄ともなると外部には絶対漏れないようにするはずだ……。あの副長ならそうするだろうし……)


 考えがまとまらないまま出口に向かっていると、キキノが心配そうに尋ねてきた。


「ハヤセ………大丈夫……? 眉間にすごいシワがよってたよ……。ほら汗もすごいよ……」

 そう言うと、キキノは袖口からハンカチを取り出して拭いてくれた。


 自分でも驚くくらい汗をかいていた。

 俺はこれ以上心配かけないように明るい声で「──大丈夫だ!」と返したが、やはりまだ心配そうな顔をしていた。

 俺は吐露するように、言った。


「これからどうしようかと考えてたんだよ……。どうにかしてヘルヴェルに戻って味方になってくれる人の所に行かないとってさ……」

 その言葉にキキノは申し訳なさそうな顔をしていた。俺はそれに気付き、慌てて「キキノが悪いわけじゃないよ! おかしいのは天世だ……」と言った。


 しかし、キキノの表情はあまり変化はなかった。

 色々考える事があるのだと思う。あのカンちゃんと呼んでいる、ヒイラギという人のこともあるのだろうと。


「なぁキキノ……。ヒイラギって人の事も心配なんだろ?」

「そうだね……。カンちゃんは中位守官で力もある人だけど、副長さんはもっと……なんかこう雰囲気が怖いっていうか、危険な感じがするんだよ……」

 ───確かに心配する気持ちも分かるが……。と言うと続けた。


「キキノを任せられたんだ! とりあえずなんとかする方法を考えるからさ!」

「……うん、ありがとう。そうだね……ここから離れないといけないよね。カンちゃんがせっかくここまでしてくれたんだから……」

 

 その会話が終わる頃には、通路の出入り口まで来ていた。IDをかざし外へと出た。


 相変わらずあの熊翼ゆうよくは居なかった。


 結局、考えはまとまってないので人目を避けながら街へと向かい、アザイド支部の用意された俺とシマの部屋へと向かおうと思った。

 上手く誤魔化せば、あいつならなんとかなるかもと簡単に思っていたからだ。

 

「一旦、俺たちが泊まってる訓練用に用意された訓練学校の部屋に行こうと思う。それから、アザイドここから出る方法を考えようと思うよ。ルームメイトに幼馴染の奴が居るけど話せば分かるとも思うから」

「うん! 分かったよ」

「この場所から20分くらい掛かるけど大丈夫か?」

「へーきだよ! 外に出れるなんて考えてもなかったから」

「そっか……」

 少し表情が柔らかくなったキキノに安堵しながら俺たちは向かいの道へ足を進めようとした時────


 足音が聞こえてきた

 ゆっくりと近づいて来る


「……やっぱここだったかぁ」


 その声には聞き覚えがあった

 いつもやる気のない……


「アキバよー……。こんな面倒くせーことしやがってよー……。俺がアキバお前を捕縛しなきゃいけねー。頼むから抵抗すんなよ。抵抗したら───殺すぞ」


「────何で……? 先生がここに……!?」


 

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