第7話 カンネ・ヒイラギ

「待ったくぅーー……! どこに行ってたんだよ!!  せっかく通信を出したのに切りやがるし。そうかと思えば急に連絡よこすし! 心配してたんだぞ! ハヤセ!!」

 

 当然のことを言われた。

 

 俺は天牢から出ると一直線にこの『アザイド支部』という訓練学校に戻って来ていた。

 一応門限はあるのだが、基本的に敷地内は出入り自由となっている。


 当然建物の入口は施錠してあるため、シマに連絡を入れ扉を開けてもらい、シマと同室である自室に戻れた。


「先生には伝えたのか?」


 疑問を口にするとシマは目を細めかぶりと手を振りながら答えた。


「俺がそんなことするわけねーだろ……めんどくせぇー……。それに、今は先生は居ないんだよ」

 

 それはどういう────と聞くと、答えてくれた。


「ヘルゲートでさ、スクリアート副長に呼び出しをされたんだってさ……」 


「何かあったのか……!?」


 自分でも驚くくらい声を出していた。


 もしかしたら、俺が残っていた事がバレたのかとも考えていたからだ。


「ん〜やっ……。何かあった様には思えなかったけどなぁ。特に緊急って訳でもなくて、ただ単に『来てくれ』ってな感じだったらしくて、それで明日の訓練は中止って言ってたぞ」

 

 シマの答えに安堵した。

 バレた訳ではないという事に。


「でも、訓練が中止ならどうするんだよ? まさか休みな訳ないよな?」

 

 俺の疑問にシマは──そんな訳ないだろ! と返して来た。


「明日はさ、『天世守護聖の歴史を学べー!』とかで、天世の歴史博物館に行けってさ。で、サボらない奴がいない様に、その感想とかを提出しろってさ」


「提出って言ってもどうすんだよ?」


 そういう俺に、シマは呆れた様に言った。


「あのなぁ……。学校から通信機を渡されただろ? その通信機の裏側に提出用のチップがあるから、それに記録して提出するんだよ」


 ──そんなもんがあったのか……? という疑問は浮かんだが、とりあえず置いておく。


「……ああなるほどなぁ」

 知っていたぜ! と言う様な感じで言った。


 恐らくシマは気が付いているが目を細め、ため息混じりに「ならいいよ……」と言うと、明日のことを話してくれた。


「明日は『自由にメンバーを組んで好きにいけ!』て言っててさ、カレンとチカホが一緒に行こうって言うから、行こうと思うけど、それでいいか?」


「ああ、それでいいよ……。だったら明日は何時に出るんだよ?」


 シマに返すと女子2人に配慮したの言葉を言った。


「あいつらもだから、化粧とか準備とかあるだろ? だから、朝9時くらいにしようって伝えたよ」


 こいつはつくづく言葉に配慮が足りない。


 自分では無意識に言っているのだろうが、それをあいつらに言ったらシマは確実にぶっ飛ばされるのは間違い無いだろう……。


「なぁ、シマ……。それあいつらには言うなよ……」


「……ん?」


 ──コイツはやばいかも……。と思いながらそれ以上は言わないでおこうと思う。


 翌朝、俺の忠告虚しくシマから出た言葉は『一応女の子だから』と言う言葉を2人に言っていた。


 シマは無惨にもボコボコにもされた。

 危うく俺にもとばっちりが来るところだったが、何とか回避できた。


 俺はシマを引っ張り上げる様に腕を掴むと、そのままカレン、チカホと新緑に反射する、光彩陸離こうさいりくりの中、歴史博物館へと足を向けた。


 馬車は使わず、街を見回りながらゆっくりと30分ほど────


 歴史を感じさせる入口が見えた。

 その奥には白茶の大きな建物があり、その入口へと人々が足を運んでいた。


「うっわー……。人多いなぁ〜」 

「そだねぇ〜〜。朝からこんなに人が来るとはね〜」

 

 最初に口を開いたのはカレンで、続けてチカホも感心する様に声を上げていた。

 俺とシマも驚きつつも中へと進んで行った。


「それにしてもさ〜……。なんで今さら『歴史学習』なんだよ……。散々学校でやって来たじゃねーか」

「……はぁー……。あのねぇ、シマぁ。文章だけを見るのと、その時代の物を見ながらでは感じ方が違うでしょ!」

「そういうもんなのかぁ??」

「なんであんたは実力はあるのに頭は残念なの!」

 

 その会話は聞き慣れたもので、カレンとの掛け合いはいつも通りといった平和さを感じる。


「ハヤセも思うだろう?」


 ───俺を巻き込むな……! と思いつつ……。


「ま、まぁカレンの言った通り、『ただ見る』だけじゃ分からない事もあるだろうしさ……」


 その返しに、薄目をしながらチカホは、ため息を吐き俺に言ってきた。


「……ハヤセさぁ、流されるのはどうかと思うよぉ……」

「そりゃあ、確かに流されたのは認めるけど、そう思っているのは事実だし……」


 そんな事話したいると、まだ入口付近に居た俺たちの後方には、人がどんどんと溜まってきてきた。


 それに気付いたチカホは「ほらほら! 早く前に進もうよ!」  

 その言葉に促され、俺たちは歩き始めた。


 この博物館には説明文と共に、様々な歴史物が展示されていた。

 人々はそれぞれ、気になる物の場所に立ち止まると、じっくり観察しては次に進むといった感じで、俺たちもそれに習っていた。


「やっぱ、ほとんど知ってることばかりじゃねーかよ……」 

 そう言うシマに───


「まぁ知ってることばかりだけどさ、感想を記録しないといけないし、知らないことを探さねーと……」 

 そう答える俺───


 カレンとチカホは同時にため息を吐く。


「ダメだね。これ……」

「うん、そだね……」


 ※ ※ ※


 相変わらずこれは嘘ばかりだ…………。

 何度見ても怒りしか湧かない。


 堅いのいい男は博物館の天種テンシュ地種アンシュについて、掲げられている説明文を見ていた。

 

 あの男のやったことは全てを狂わせた……。

 この文も真実など一つもない……。


 だが、あの少年には真実を知ってもらい悪夢の一族ナイトメアンの少女を助けてもらわねばならない。自分自身が直接動くわけにはいかない。

 間違えなく警戒されてしまう。


 男はそう考えると、男女4人で近づいて来る者たちに目を向けていた。


「さてと……」


 ※ ※ ※


 俺たちがゆっくりと足を進めると、堅いのいい男が目付きを鋭くして、天種、地種の歴史版を見ていた。


 その男の横に立ち止まると、教材と同じ文言が書かれている歴史版を読んでいた。

 変わり映えのしない言葉……。

 教材と同じ表現……。


 天種が勝ち、地種が地底に押し込められた事……。


「本当に天種が勝ってよかったよなぁ」

 シマは言った


「そうよねぇ〜。地種が勝ってたらどうなってたんだろうね……?」

 カレンは言う


「多分、【真創まそう】が大量に消費されて大変なことになるんだろうね」

 チカホは続けた

 

「……でも、なんか違う感じがする……」

 俺は疑問を浮かべた


 小声で言ったそれは3人に聞こえないくらいの声で呟いていた…………。


 そして俺の耳元に呟くように声が出された。


「……少しでも疑問に思うのなら、もう一度ヘルゲートへ来い……。少女に会え……。救いたければ、カンネ・ヒイラギという女に会え……。彼女は味方になってくれるだろう……」


 そう呟いた堅いのいい男は俺からゆっくり離れ行った。

 だが最後に言った。


 ───〈天世専用通路〉まで来い。通してやる。


 と………。



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