第8話 2度目のヘルゲートへ
俺とシマ、チカホ、カレンは広い博物館を昼頃には出ていた。
近くにあるファストフード店で昼食を済ませると、相変わらず多くの人が行き交う通りを歩き、訓練学校に向けて歩いていた。
途中、カレンとチカホは「あれかわいい!」とか、「あのスイーツ昨日食べられなかった物だ!」とか言っていた。──昨日とほぼ同じことを言っている。
シマはと言うと、かわいい女性見つけてはそちらの方へと向かうという行動を取っている。
だが、それはことごとくカレンに阻止されていた。
俺はそれを横目に見ながら、さっきの堅いのいい男の言ったことを思い出していた。
(『救いたければ』て、どう言うことなんだよ……。何から救うんだよ……。意味が分かんねー。カンネ・ヒイラギって誰だよ)
そんな事を考えていた。
そうとは知るはずもなく、3人は相変わらず騒いでいる。するとカレンが何かを見つけたらしく、立ち止まっていた。
それに近づき声を掛けるチカホも同じ張り紙に視線を向けて言った。
「なんか7日……じゃなくて、今日からなら6日後か……。ヘルゲートの罪人が〈処刑〉されるみたいだよ」
その言葉に胸を掴まれるような感覚を得た。
ヘルゲートの罪人、あの何も知らない少女──〈キキノ〉のことだ。
チカホはその彼女が6日後に殺されると言っているのだ。
「へぇ〜。そんな知らせが出るんだなぁ……。別に公開処刑とかじゃないんだろ?」
「そうみたいだけど、昨日行った外牢でするらしいよ。展望台からも見えない様にはするらしいけど、その儀式は見学できるみたい」
シマとカレンは淡々と話している。
そこにチカホも加わり「6日後だったら、まだアザイドに居るから見に行く?」と軽く言っている。
確かに処刑の儀式なんて見られることなんてない。興味を持つのも仕方ない……。
だけど、俺は強く不快に思っていた。
恐らく昨日の夜、キキノに会っているからだと思う。
彼女が殺されることに関して「──何であの子が……」という感情が湧いていた。
それは感情に出ていた。
「なぁおい! さっさと訓練学校に戻るぞ!!」
「何怒ってんのよ……」
不快さを声に乗せて言ってしまっていた。
それを繕う様に慌てて続けた。
「ほ、ほらさ! 早く戻って書かないと俺忘れるかも知れねーし。な!」
「まぁハヤセは成績もあまり良くないしなぁ」
「そうそう!」
「もう少し勉強したほうがいいと思うよ〜」
シマに続き、カレンとチカホも同じ意見だった。
違う意味で不快になったが、言ってることは間違えではないので否定できない。
「……うるせぇーよ……」
としか言えなかった。
漸く訓練学校に着き1階の学習室に入ると、俺たちと同じ様に帰ってきた生徒たちが通信機の画面を開き、感想を入力していた。
「じゃあ、さっさと終わらせて森の訓練場に行こうぜ! 今度はハヤセとだけじゃなくて、カレンとチカホも一緒にな!」
シマはそう言うと、カレンとチカホは
「はいはい……」「はぁ〜いっ」と言っていた。
俺はキキノが殺されるという事が頭から離れないままだった……。
そして男の言葉……
──もう一度ヘルゲートへ来い……
───〈天世専用通路〉──通してやる。
それが頭に残り、俺は決意した。
「……行ってみるかヘルゲート……」
※ ※ ※
ハヤセは感想を提出した後、自分を含め4人で森での訓練を済ませると、夜になるのを待っていた。
時間が近づくと、同室のシマに、深夜にも関わらず「風呂入ってくる!」などと言い訓練学校から出ていた。
教師はまだ戻っておらず、ハヤセは簡単に外出でき、そのまま昨日の〈天世専用通路〉の前広場まで来ていた。
そこで立ち止まると、門番と言われていた
「昨日のあのデカい翼の生えた熊は居ないみたいだなぁ……。あんなのに襲われたらどうにもできねーし」
ハヤセは安堵すると、
昼間の男は、なぜか分からないが──通してやる。と言っていた。その言葉を信じここまで来たわけだが、半信半疑であった。
「……『通してやる』とは言ってたけど、入口は確かIDが必要だったよな……」
そう言いながら入口に着くと───。
「マジかよ……。IDカードが置いてあるじゃねーかよ……」
視線の先には、入口のドア付近に貼り付けられたIDがあった。
あの男の言った事が嘘ではないと思わざるを得なかった。
「……という事は、カンネ・ヒイラギって人も今
ひとり言を言いながら通路を通り、天牢の床の入口をゆっくりと開けた。
看守が巡回していないか心配だったが、その心配はなさそうであった。
昨日と同じく誰一人として巡回はしていなかった。
だが、極力音を立てず外牢へと続く階段を上がっていた。
階段を上がるにつれて、月の
ここまで来ると結界の内に入り、あの声が、歌が聞こえてきていた。
その声の主はハヤセの姿に気がつくと、少し驚きつつも、この状況には似つかわしくない
「こんばんはぁ。まさかまた会えるとは思わなかったよ。今日はどうしたのかな?」
「こんばんは──。キキノは今日も歌ってたんだな」
「……うん。この時間が一番好きなんだよ……。私はここでしか外を感じられないから……」
キキノはゆったりと輝く月に視線を向けながら、悲しげに答えていた。
その感情はハヤセにはハッキリとは理解できていない。それはそうだろう、彼女は自由を奪われて15年もの時間を過ごしているのだから。
ハヤセはキキノの言葉に、思い出した様に言った。
「あのさ。海とか街とか見た事ないって言ってただろ? 街は色々と難しいけど、海の映像を持ってきたんだけど……」
そのハヤセの声に表情を明るくすると天真爛漫に口を開いた。
「ほんと〜!! 見たいなぁ〜!」
その返事にハヤセは早速、通信機の動画を再生してみせた。
その映像に釘付けになっているキキノの目は、初めて見る青々と広大に広がる海に感動を隠しきれずにいた。
「ねぇねぇ!! あの水には生き物が沢山いるんだよね? 水が揺れるんだよね? カンちゃんが言ってた、しょっぱいんだよね? うわーすごいなぁ〜。実物見たいなぁ……」
キキノの子供の様にはしゃぐ姿にハヤセは6日後の処刑のことを思い出していた。
そしてハヤセは意を決し、キキノに聞いた。
「……キキノはさ、自分が処刑される事知ってるのか?」
無神経だとは思うが、聞かずにはいられなかった。
キキノは少し間を開け、
「……うん……知ってる。カンちゃんから今朝言われたよ……。『──キキノ……あなたの6日後の処刑が決定したわ』って……」
昨日から何度目か出てくる『カンちゃん』。
ハヤセは男の言葉とキキノの言葉のリンクしている部分が気になり、質問した。
「その『カンちゃん』ていうのは、もしかしたらカンネ・ヒイラギて言うか?」
目を丸くしてキキノは答えた。
「そうだけど、何で分かったの?」
ハヤセはようやく理解できた。
キキノの言う『カンちゃん』とは男が言っていた『カンネ・ヒイラギ』で、ずっとキキノの世話をしている女性……。
そして、昨日忍び込んだ内牢の地下で目撃した女性であったことに。
「キキノはさ、ずっと世話をしてくれてた人に処刑を言われた時どんな気持ちだったんだよ……?」
キキノはどことなく悲しげに、静かに答えた。
「……カンちゃんにはカンちゃんの仕事があるから、大変だなって……」
(何でそんなに
ハヤセはキキノの諦めとも取れる返事に歯を噛み締めていた。
そして、それは問いかけとしてキキノに言った。
「キキノはさ…………。このまま処刑を受け入れるのか?」
「…………そう決まったから。それに『嫌だ……』て言ったらカンちゃんが困るから……」
────そんな事を聞いてるんじゃない! ハヤセはそう思うと、その感情を抑えきれず声を出していた。
「そんな事じゃないんだよ! キキノはさ……このまま何も知らずに死んでもいいのかよ! 訳が分からない状態で殺されてもいいのかよ!!」
「決まった事だから…………」
キキノの表情は、言葉とは裏腹に今にも泣き出しそうであった。
「──生きたいとは思わないのかよ……?」
その言葉を発したハヤセは自分でも気付かないくらい苦しい表情を浮かべていた。
キキノは俯き、─────ないよ……。死にたくないよぉ……。この世界を感じたい……色んな物を見たい……海も行きたい……やりたい事沢山あるよぉ……」
その悲痛とも取れる感情は大粒の涙となり、キキノの顔を濡らしていた。
キキノのそれはハヤセに最大の決断をさせる。
「……じゃあ俺が、君を自由にしてみせる……。キキノをここから助け出すから……」
そう言うと、キキノの目には少しの希望と言える感情が現れていた。
だが、それを打ち消す様に一つの足跡と声が聞こえてきた。
「やはりキキノと会っていたんだな……。これは見過ごせないな。これは知ってはならない、知られてはいけない事だ……。君には悪いが消えてもらう……」
その言葉にハヤセは警戒を最大限に引き上げた。
だがそれはキキノの言葉に再考することになった。
「カンちゃん!?」
その名前は1人の女性を指していた。
ハヤセは思い出した様に名前を言った────
──「カンネ・ヒイラギ………」──
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