第6話 真実への一歩
キキノのお陰で元々隠れていた看守室の裏まで来れていたが、やはり肌寒い……。
夜が更けるにつれ、どんどんと寒くなってきている。そうでなくてもこの標高では気温はマイナスだ。『肌寒い』という言葉で片付けられているのだから、全くもって優秀な結界だと思う。
(隠れられたはいいけど、どうすっかなぁ……。もうあれから2時間くらい経ってるけど、看守は外に立ったままだし……。少しでも周囲を見回ってくれれば体勢を変えられんだけど……)
流石に尻が痛い。
看守が立ったままのせいで体勢を変えることもできない。普通は周囲に異変がないか確かめるものだとは思うが動かない。
さらに言えば、この看守はさっきから何度も欠伸をしている息継ぎが聞こえる。「気を抜きすぎではないか?」と言いたくなる。
(……やっぱりどう考えても大罪人を収監しているとは思えねーな……)
そもそもこの考えは彼女に会い、会話を交わした時点で俺の中では破綻している。
この2時間───。看守の動きや態度を見させてもらって考えた。
大罪人を収監しているという割には、看守の行動もそうだが、観光客を入れるといった解放性……。
────到底罪人を収監するそれとは思えない。
恐らく問題があるのは管理者側だろうと思わざるを得ない。
こう考えた時、何か俺は知ってはいけない事を知りつつある様に思えた。
(本当に天世守護聖って何なんだよ……。まぁ、天世全体が関わっている事なのかは分からないけどな。まさか育成学校も関わってるとかないよな……)
そう考えた数秒後に思い出した。
(……シマ、心配してるかもなぁ。落とし物を拾いに行くとしか言ってなかったし……。先生にやっぱり言ってるよなぁ……)
だけど俺はそれをすぐに否定した。
シマは面倒くさがりで面倒になる様な事はしないだろうと。だけど、先生に言わないにしろあいつは俺がまだ帰らないことに対して連絡をしてくるかもしれない……。
だが今は困る……。
学校からは通信機が支給されているが、今鳴ってしまっては見つかる。俺は懐からゆっくりと通信機を出し、電源を落とそうとした時────
────ヴィリリリリリリリリ!!!!
そうなっては欲しくないと思う方へと物事は起こってしまうもので、高い音を立てて鳴った。
正確には鳴ってしまったと言うべきだ。
俺は急いで切るが、もちろんもう手遅れである。
「おっ、お前!! な、なぜ居る! こ、ここで何か見たのか!!?」
「い、いや……俺は落とし物をして探してたら橋が無くなって────」
必死に言い繕うが聞いていない様子で、立て続けに言葉を放った。
「そ、そんな事はどうでといい! ここで何かを見たのかと聞いている!!」
俺は保身を考え『見てねーよ……』と答えた。
看守は独り言のように続けていた。
「み、見てないんだな……。だ、だがもしこの時間まで人を残していた事をス、スクリアート副長にし、知られたら…………こ、殺される……」
看守は顔は青白く、血の気の失せているように見えた。その上、恐怖に歪んだ表情は視点が定まらず、明らか動揺している。
(……もしかしたら俺が残っていたという事よりも、俺がそうだった様に、この看守は自らの保身を考えている……もしかしたら上手くここから出られるかも知れない……)
俺はそれを利用しようと試みた。
「……俺、ここから出たくても橋が無くなってたからここにいたんだよ……。だから、誰にも見つからない様にここから出たいんだけど……?」
俺の言葉に反応する様に、看守は『誰にも見られていないんだな?』と言って来ると、俺の手を引き階段を下り始めた。
「ど、どこに行くんだよ……」
「いいから来い! 誰にも見られていないのならお前を外に出せば解決する! お前を天世専用通路からアザイドに返してやる」
上手く利用できたのだが、下に行けば看守待機部屋やら、それこそ副長の部屋などがあるエリアに入る。そこで見つかれば元も子もない。
だがそれは杞憂に消えることになる。
「この時間帯なら誰も外には出ていない! スクリアート副長も自室で休んでおられる! 今しかない!」
そう言いながら初めて副長と会った場所へと下りてきていた。
その時には気付かなかったのだが、鉄柱が繋がっている四つ角の近くの床には、それとは分かりづらくされてはいるが、扉が設えてあった。
看守はIDをかざし扉を開くと、俺を引き連れ中の階段を下りて行った。
「いいか! 今日はお前を逃してやる。だからこの通路の事も黙っていてくれ……。俺の命が関わるんだ。娘も妻もいる。殺されたくはない……」
看守はそう言いながらどんどんと進み、暫くして出入口と思われる場所まで来ていた。
入る時と同じくIDをかざすと扉が開いた。
「ここから外に出ればアザイドが見える。この広場を抜け、20分程行けば東門に辿り着く」
そう言われて前方に目を向けると、平に整地された見通しのいい場所が広がっていた。その向こうには一本道があり薄暗い街灯が照らしていた。
「じゃあここから帰ればいいんですか?」
──ああ、その通りだ。と答えてくれたが、看守はそのまま言葉を続けた。
「向こう側の道までは俺が一緒に着いて行こう」
「いや……、もう道は見えてるので1人で行きますよ」
そういう俺に看守は──そういう訳にはいかないんだ。と言ってきた。
「この広場には門番が居るんだ。脱獄防止の為に常時見張ってるんだ。凶暴な生物……〈
その聞いたことのない生物の名前を告げられた。
俺は疑問を浮かべたが、看守から「俺の後について来い」と言われ、俺はその後に続くことにした。
そして、広場の中央あたりに差し掛かると、地面に映る黒い影が現れた。月の明かりに照らされながら降りてきたそれは背中に4枚の翼を持つ5メートルはある熊が現れた。
その威圧感というか存在感がある生物は、鋭い眼光で俺たちを見ていた。だが見ているだけで襲っては来なかった。やっぱり、IDが有効なのだろうと感じた。
その視線を背に一本道まで辿り着くと、看守からくれぐれもこの事は口外しないようにと釘を刺された。
看守はそのまま来た道を戻り、ヘルゲートへと戻った。
俺も天世への不信感を抱いたまま、アザイドへと足を向けたのだった。
※ ※ ※
────彼は感じていた。
目の前の少年からある一族の気配を……。
2千年前。まだ自分が幼く、他の生物とは違う事で奇異な目を向けられ、冷遇されていた時、自分を匿い育ててくれた
彼らはこの自分を、家族の様に接してくれていた。彼らは優しい一族であったが、その強大な力は世界をも変えられる力を持っていた。
だが、彼らはそれを自ら行使しようとはしなかった。
ある日までは────
そのある日は突然とやって来た。
漆黒の髪を持つ大柄な男……。
男は一族の長である〈コルトス〉と数分話を交わすと去って行った。
そこから何かがおかしくなっていた。
あれだけ優しい一族であった者たちが、数日後に行われる大戦に参加するというのだ。
彼は幼いながら、この急激な変化の異常さに気付いていた。
────何が何だから分からない。と……。
そして事は起こった。
彼もその場にいたのだ。
大勢の人間たちが命を賭して戦っていた最中、空中に現れた黒い罅は一瞬にしてその場にいた大半の命を奪ったのだ。
その地獄たる光景の中にいて、空中を見下ろす男はコルトスと会っていたあの男であった。
名前は確か──ホーヘヴ=グラーディアと言っていた。
そして、その男は現在に於いて天世守護聖の創設者の1人であり、
彼は思っていた。
あの男がこの歪を生み出した全ての元凶だと。
そして、自分を匿ってくれていた
彼はあの男を絶対に許さないと思っていた。
恐らく一族の最後の生き残りであろう少女を絶対に処刑などさせはしないと。
そして、その少女の気配を少年に感じていたのだ。
彼は少年が去って行った方へと視線を向けながら、周囲に聞こえないほどの声で喋った。
「あの少年は真実に近づきつつあるのかも知れない」
彼に手をかそう……
少女を救える様に……
古代種の
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