第5話 出会い
最初に浮かんだ言葉はコレだった
(何で入っちまったんだ俺ぇぇぇぇーーーーー!?)
声を出したい気分だが、必死に押し殺した。
冷や汗をかきながらどうするべきかと思考を巡らせた。
(これはまずいぞ……何とか見つからない様に出ねーとあの副長だ、命に関わるかもしれねー……今なら封印とやらの修復に気が向いてるし……)
そう思いながらゆっくりと音を立てず来た道を引き返していた。
細心の注意を払いながら一歩一歩足を進め、漸く鉄扉の前に辿り着いた。
後は外へと続く光沢のある廊下を戻るだけ、と先ず1つ安堵を得たのだが、廊下に響く男性と思える話し声が聞こえてきた。
「なぁ、入口のドア開きっぱなしだったよな……スクリアート副長に見つかったらやばくないか?」
「普段ならやばいかもしれないけど、ほら、今は再封印の最中で見つかってないと思うぞ。まぁ次から気をつけておこうぜ」
「そうだな。見つかったらと思うとゾっとするよ」
その2人の声は、足音と共にこちらに向かってきていた。でも、きっとこちら側には来ないだろうと思っていた。
さっき目撃してしまった封印術式とやらをしている最中であり、その緊迫した場所には近づかないであろうという俺の希望的な考えだった。
だけど、それは当たったらしく、来る途中に見た看守事務所付近のドアの音がした。
俺は再び安堵すると、看守が入っただろうと思われるドアを注意して過ぎると、急いで外へと出た。
「ふ〜っ……。やっと外に出られたよ……」
そう口にしながら、壁に背をもたれつつ座り込んでいた。もちろん、さっさとこの場を離れるべきなんだろうが、さっきまでの緊張で力が抜けてしまった。
(どうするかなぁ〜。ここに居たら見つかるのは時間の問題だしな……。隠れるにもそんなとこ……!)
そこまで思い浮かべると、最上部の外牢があるエリアを思い出した。
そこには看守室があり、確かその裏には身を隠せるほどのスペースがあった事を思い出した。
それを思い出すと、俺は外牢エリアまで足を運んだ。
最上部まで上がると、記憶通りの少しのスペースがあった。ここは結界も張ってある為、気温も安定している。
ただ、安定していると言っても
「とりあえず明日には橋が掛かるだろうから、大人しくしとくか……。でも、実習訓練どうするかなぁ」
そんな頭の痛い事を考えながら、未だ頻繁に揺れる天牢で、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
────どれだけ時間が経ったか分からない。
いつの間にか眠っていた。
目が覚めると、恐らく数時間は経っているとだろう、外は真っ暗で月と星が空に輝いていた。気がつけば揺れも収まっている様に思えた。まだ覚醒していない頭を巡らせていると、俺の耳に女性の声が聞こえてきた。
────ラン、ララン。ルン、ルルン…………。
声には聞き覚えがあった。
天牢を見渡せるあの展望台から聞いた声……。
俺は周囲を確認しながら声のする方へと歩みを進めた。そこには展望台から見た光景が目の前に──今度は紛れもない現実として存在していた。
月の明かりに照らされて、その水色の髪を
「────あの時の女の子……?」
そのひと言は、俺と少女しか居ないこの空間を渡り少女の耳へと届いた。俺の声に気づいた少女は少し驚きつつも歌を止め、笑みを浮かべると透き通るような声で言った。
「こんばんは──。君はもしかしたら昨日あの場所にいた人かな……? 何でこの場所のこの時間にいるのかなぁ?」
彼女は展望台と俺に目を向けながら言ってきた。
どうやら昨晩の事は彼女も分かっていたらしく声を掛けてくれた。
「家族から渡された、大切な物を探してたら橋がなくなってて戻れなくて……。そしたら展望台で聞いた声が聞こえてきてさ。で、俺もあの場所から君の事が見えてて……」
言葉を返すと、彼女は苦い笑みを作りながら会話を続けた。
「はははっ……。やっぱり見えてたんだね……。目があったとは思ったんだよぉ……。見られたらいけなかったんだけど……。あ、でももう話もしちゃったらから遅いかぁ〜……」
そう困った表情を向けてきた。
それに対して俺は、唐突に今まで思っていた疑問を聞いてみた。
「君がこの天牢に収監されてる大罪人なのか? 俺には君が大罪を犯した者には見えないんだけど……」
彼女は「唐突だなぁ……」と言いつつ、少し考えながら────多分そうなんだろうね……。と疑問を深くする答えを言うとさらに理解できない事を言った。
「私はここしか知らないんだよ……。物心つく前からこの場所に居て、15年間出た事ないから……」
「じゃあ理由も分からないままこの場所に収監されてるって事なのか!?」
「そう言うことになるかな……」
彼女の言葉には、悲しみの感情などはなくどこか淡々と、という感覚の話し方だった。
その答え方に、悲しさとか、辛さとか無いのか聞いてみた。
すると彼女は────
「そうだねぇ……何だろうねぇ……。私ね、ここが私の全てだからよく分からないんだよ……」
「……分からないって……何だよそれ……」
「あっ、でも、ここ以外の場所も見てみたいって思ってるよ! カンちゃん……えっと、ここで私のお世話をしてくれている確か、中位守官って言ってたと思うけど、そのお姉ちゃんみたいなカンちゃんから色々外の話を聞いたよ。海って青くて大きくて、街って人がものすごく多くて、美味しい食べ物とかもいっぱいだって」
彼女は本当に何も知らないんだと思わされた。
だとするなら、なおのこと、彼女が大罪人の訳がないという思いがした。
そんな事を考えたが、俺が思うだけでこの天牢の管理者がどういうつもりで収監しているのかが分からない。
知らない事があり過ぎる──知らない事が……? と思った時、彼女の名前を知らない事を思い出した。
「あのさ……、今さらだけど君の名前を聞いてなくてさ。俺はハヤセ・アキバて言うんだけど、よければ君の名前教えてくれないかな?」
そう尋ねると彼女は答えてくれた。
「私はキキノだよ……」
「じゃあキキノさん?……キキノちゃん?」
「う〜ん……。呼び捨てでいいかな……」
──あはははは……。という乾いた笑い声を交えながら返して来た。
「俺もハヤセでいいよ。皆んなもそう呼んでるし」
「みんなっていうのは、昨日の展望台にいた人たち?」
「そうだな。一緒の学校で幼馴染でさ……。今日も、学校の授業の一環でここに来ててさ──」
そこまで言うと、時間を気にしながらキキノは複雑な表情で疑問を口にした。
「授業の一環で
そう言われて気づいた。
そういえば俺は隠れている身だったことに……。
それを思い出すと、周囲に人の気配を探した。幸いに気配はない。そう安堵するのも束の間で、キキノから告げられた。
「──ハヤセ! 後少ししたら看守さんたちが上がってくるよ! 声を掛けてしまった私が悪いんだけど、私と接点を持ったら大変なことになるよ! 天世の生徒なら情報はすぐに伝わって特定されて、厳罰が下されるかもしれないよ! カンちゃんが言ってたんだ、『副長は外部に情報が漏れる事を嫌ってる』てだから早くこの場所から──」
そこまで言うと、俺がさっき上がってきた階段から足音が近づいて来ていた。
「ヤベェ! 隠れねーと……」
小声で言いつつ月と星明かりのみの外牢を看守に見つからない様に回り最初に隠れていた場所へと戻った。
その間、キキノは自分に注目がいく様に歌を紡ぎ出してくれていた。
そして看守は「まだ歌っているのか! 早く内牢へ戻れ!」とキキノに言った。
彼女は──すみません。と言うと内牢といわれる場所へと戻っていった。
「……
月と星を見ながら呟いていた
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