第43話 救国の英雄

「お主、やっぱりエグい性格しとるのう。途中から聞いておったが、なんじゃ、リッチを仲間にしちまいおって」


「いや、必死でしたんで。失敗すれば十中八九死ぬでしょう。自慢じゃ無いですが戦闘能力は並ですからね」

 

 赤鬼やリッチと遭遇した広場で、モリアスとガルシアが腰を下ろして談笑する。篝火に揺れる互いの影が並び踊る。


「隊長とも話していたんですが、今回、スタンピードを防ぎきっても、消耗した我が国は敵対する隣国からの侵略になす術が無く、蹂躙される未来しかありませんでした。少なくとも、私はそう考えていました」


「ん?いた、とはなんじゃ」


「実際に御前ごぜんや隊長や眠り姫が戦闘に加わる様を見て、負ける気がしなくなったんですよ。実際、リッチが引き上げるのと時を同じくして、他の魔物達も散り散りになりましたから、思っていた以上に損耗率が低く、侵略に対しても懸念は無くなりましたし」


 ガルシアが顎髭を撫でながら思案する素振りを見せる。

 

「のう、お主はなんでスタンピードが収まったと思う」


 モリアスは少し前にリッチガレウスが口にした事に思いを巡らせる。彼が気になる事を言っていた。


「ガレウスが『英雄達の凱歌が聴こえて、頭の中の霧が晴れた。あれが無ければ、我は汝らの国を滅ぼしていたかもしれない』と、そう言っていました」


「頭の中の霧?操られておったとでも言うのか」


「分かりません。が、英雄達の凱歌が聴こえて頭の中の霧が晴れた、大事なのはここです」


 モリアスは腰から水袋を外し、中身をあおる。


 ガルシアが儂にも寄越せと手で合図をするので少し躊躇してから飲み口を拭って手渡す。


「何じゃ、儂と間接チッスするのがそんなに嫌か。ふむ、すると今回のスタンピードは何らかの精神操作の産物で、英雄達の凱歌がその呪縛を断ち切った。と、そういう事か」


「ガレウスの言葉と今回の状況を合わせて考えると、それが一番しっくりくるというだけですけどね。あの歌、御前の指示ですか」


 ガルシアが首を横に振る。

 モリアスもおそらく違うと予想していたのか素直に頷く。


「儂も心当たりが無くてな、先程の仮説が正しい場合じゃが……、控え目に言って……」


「ええ、救国の英雄です」


「じゃのう。流石に誰かも分からんなど格好がつかんぞ。モリアス、お主何とかせい」


「勘弁してください。もうクタクタですよ」


 モリアスがひらひらと手の平を振って拒否する。


「マシューに調査でもさせようかの、ついでにお主の査定じゃ」


「出来るだけ色付けて盛っといてください」


 そうじゃの、と言ってガルシアが笑う。

 

「話を戻しますが、ガレウスが帰るまで損耗率とか分からなかったんで、依然侵略への危機感が残ってたんですよね」


「まあ、最前線の先っちょにおったからの。そりゃ分からんわの」

 

 モリアスが、苦笑いをしながら悪戯っぽく笑う。


「だから、隣国にリッチを押し付けて、侵略どころではなくしてやろうと思いました」

 

「おぬ……、お主、やっぱりエグい性格しとるの。あの土壇場で何ちゅう事考えとるんじゃ」


「リッチが王族を一人二人ヤッてくれれば戦争どころじゃないですからね」


「あ!」


 ガルシアが何かに思い当たる。


「人から言われて助けに来たなんて言うと格好良さがダダ下がりなので、私に言われて来たとは言わない方がいいですよって言ってたのはあれか!向こうの国に我々がそそのかしたってバレないようにするためか!」


「正解です」


「本当に鬼みたいな奴じゃのう。あの赤鬼のほうが可愛げがあるぞい」


「褒め言葉だと思っておきます」


 篝火の灯りが徐々に形を潜めて目立たなくなってくる。


 夜が明け、白み始める空が紫色に広がる。


「でもの、そうなるとな」


 ガルシアが少し考えながらポツリと口にする。


「お主も救国の英雄という事になるのう」

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