第19話 斥候

「なんだ、この有様ありさまは……」


 寂寥せきりょうとして人気ひとけのない街は、見渡す限り死体の山で埋め尽くされていた。


 引き裂いたようなあとみちぎられたような痕から魔物に襲われた事が見て取れた。


 貿易都市バルトブルグ。交易によって賑わいを見せるかつての活気ある街並みが、今は見る影もない。


「誰か!誰か居ないか!」


 馬上からかけた声はむなしく木霊こだまし、何らの音も返ってはこない。


 腐臭ふしゅうや血の匂いをはらんだ風がまとわり付き、街の中央に位置する噴水は血で赤く染まっていた。


「なぜだ……」


 斥候にきた兵士は違和感を覚える。

 街の外側ではなく、街の中央に行くにつれて死体が増えている。


 これではまるであらかじめ街を取り囲んだ魔物が、人々を街の中央に追い立てたかのようだと考えを巡らせる。


 隣国で起きているスタンピードの調査に来たはずが、戦術的に攻められ、虐殺の行われた戦場のような光景に出くわし戦慄せんりつが走る。


 本能が早く逃げろと告げていた。


「いや……、ついてないねぇ……」


 建物の影からぞろぞろと魔物がい出してきていた。

 路地も、道もふさがれて見る限り背後の道しか残されていない。


「罠だよなぁ。そこに逃げるのはしゃくさわるよな。さて、虫除けあったかな」


 馬具に取り付けられた袋から紙で巻かれた玉を取り出すと、小手に仕込んだ火の魔石で火をつけて正面の道を塞ぐ虫型の魔物の群れの真ん中へ放り込む。


 虫達は巨大な体をくねらせながら暴れ始めた。

 すかさず兵士は馬を駆り、その中央におどり込んだ。


「はっ!図体がデカくても虫は虫だな。除虫木じょちゅうぼくの煙は嫌いかよ」


 すぐ背後に振り下ろされる沢山の足が石畳を砕き、馬を掴もうと追ってくる。


 暴れ、のたうち回る身の丈より大きい虫の間をすり抜けながら兵士は馬を駆り、街の外壁を抜けていく。


 安全な距離を保ちながら背後の街に目を向けると街の中に巨大な影が見える。


 3階建ての建物より大きいそれは蜃気楼のようにゆらゆらと揺れていた。


「おいおい、なんだよありゃ。空いてる道に走ってたらアレの餌食えじきってか?冗談じゃないぜ」


 魔物の群れは街の外壁までくると内側へ引き返して行った。それを見て兵士は帰路を急ぐ。


 隣国と自国の境目にある貿易都市が壊滅していた。

 そしてそこに居た魔物は目の前を走って逃げた自分を追ってこない。


 何か大きな違和感が兵士を支配していた。

 嫌だねぇどうも……、そうひとちて兵士は馬を駆った。

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