第17話 凶報

 アーリアと話し終えた後、モリアスとロランは執務室へと戻り、今後の作戦について穴がないか検討を重ねる。様々な可能性の検討をしていると、突如乱暴に扉が開かれた。


「邪魔しますぜ。ちょっくら急ぐもんで。何、時間は取らせやせん」


 男はそう言うと部屋の中ほどまで遠慮無く入り込み、事務机の前まで来ると歩みを止める。


 肩と大腿部から出血していたようだが、にじんだ血は色が変わり既に乾いている。

 弓士隊に所属する斥候せっこうの男は矢傷やきずを受けながら森から帰還した。


随分ずいぶん格好かっこうだね。何にやられたんだい。暴れて走る魔物のれが弓をるとは考えにくいんだけど」


 ロランがそう言うと、斥候が苦々しく顔をゆがめる。


「魔物の群れの鼻先まで出てどんな魔物がいるのか探りに行きやしたが、ある一定の距離までいくとおかしな事に気付きやした。全ての魔物が一定の速度を保って走っているんでさ」


 ロランの少し後ろでモリアスが、見るとも無く斥候の男を眺めながら話を聞いていた。斥候の男はモリアスを一瞥いちべつすると説明を続けていく。


「魔物によって足の速い遅いがある以上、一定の速度で走ってくるなんざ有り得んのです。なのに獣型も人型も虫型もみんな固まって一斉に走っている。近くまで来た時にゴブリンの群れの中から赤茶色い帽子を被った個体が現れて弓で射られたんでさ」


 忌々しげに斥候の顔が不機嫌に歪む。


「赤茶色い帽子?レッドキャップ!?」


 モリアスが顔色を暗くする。

 世界中に分布するゴブリンの中には稀に赤い帽子を被ったゴブリンが現れる。


 通常のゴブリンより遥かに賢く、使う武器も多様で槍やナイフから弓まで何でも扱う。


 特徴的な赤い帽子は元は白いそうで、人の血で何度も何度も赤く染められて色付いていく。


 ゴブリンの群れの中にあってはリーダーとしての存在であり、群れを率いることがある。

 通常のゴブリンリーダーより格上である。


「あの野郎、まず馬を射りにきやがって咄嗟とっさに足で馬を守ったもんで足の傷はそんときのものでさぁ。で、馬を返して逃げ様に一発放たれた矢が肩に刺さりやした。毒は塗ってなかったみたいでやすね。振り返って見た時に赤い帽子は五つあって、その前を普通のゴブリンが走ってやした。『隊列を組んで』走っていたでやす。あれは違う」


 少し溜めると斥候は静かに告げた。


「あれは群れじゃなく、スタンピードでもない。あれは隊でやす。群れをなしているわけじゃなく、軍を成しているでやすよ」

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