第16話 疾駆

 暗い森の中を馬が駆けていく。

 本来は付けられているはずの金属で出来た面包めんぽうなどの武装は外され、可能な限り身軽にされた馬は一人の兵士を乗せて森の中を駆ける。


「もうすこし。早く伝えねぇと。あれは群れじゃない。早く……」


 肩と腿から血を流しながらも、兵士は手綱たづなを握る手を緩めない。

 長年連れ添った相棒の馬も、もう走れなくなるかも知れないと思いながら兵士は馬を駆る。


 森の出口近くに差し掛かると兵士は馬を返し弓士の仕掛けた罠を避けていく。

 

「念入りに仕掛けてくれてあるねぇ。今はありがたくねぇなぁ……」

 

 そう呟くと森を抜けた。視界が開けると街を囲む壁が見えなくなるように配置された土塁と空堀が見える。

 

「開門!開門!!」

 

 外壁上の兵士がそう叫ぶと金属のこすれる音と共に正面の大扉が開き始める。

 騎乗したまま門をくぐり、外壁内に設置されたうまやに愛馬をつなぐ。


 なんとか無事に到着できたことにホッとしながらも報告を急がねばならない理由が兵士にはあった。

 

「あれはスタンピードじゃねぇ。大隊長はどこだ」

 

そう告げると兵舎の中へと足早に消えていった。

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