第15話 提案
「つまり門を破られた場合、我々に職務放棄してクラリス一人を助けに戻る手伝いをしろと」
モリアスがそう言うと、アーリアの表情が曇る。やはり無理かという思いが顔に出る。
モリアスは左手を口元に当てて何やら思案しているように見える。
「私の持ち場は最前線だ。馬に乗ってはいても取って返すのは時間が足りないだろうな」
眉目秀麗な白銀の騎士の言葉はアーリアの提案を飲めない事を示しているように聞こえる。
「ですね、大隊長が前線を離れるわけにはいかない。この人はこれでなぜか人望が厚いから、居ないと士気に関わるんだ」
「え?あれ?何故かって何?!モリアス?なんだか言葉に棘を感じるんだけど。あと、戻れなさそうだから前線は他の大隊長に任せようと思ったのだけど?」
ロランの言葉にモリアスが深い溜め息をつくと、このポンコツは……と呟いたようにアーリアには聞こえた。
「アーリア、悪いがロラン大隊長は前線からは動かせない。士気に関わるし、作戦そのものに影響がでる。そして、君も持ち場を離れて勝手な行動をすれば軍法会議にかかるかもしれない。それは分かっているかい?」
アーリアは頷く。その顔を見てモリアスはもう一度深い溜め息をついた。折れそうにないな、モリアスはアーリアを見てそう思う。
「仕方ないですね。大隊長、アーリアを連絡員として私の指揮下に。その事について弓士隊の分隊長との間で話をつけて下さい」
「分かった」
「これでアーリアが自由に動いても、彼女は軍法会議にかからない。アーリアは外壁、門の上で待機。門に迫る敵影があればこれを撃破」
「いいの!?」
「仕方ないだろ。敵が門に触れた時点でその場を放棄し、門が破られる前に市民の救出に向かえ、可能であれば街中にて敵を撃破。市街地における破壊を食い止め、負傷者の救出、救護に当たるように」
モリアスがそう言葉にするとロランが何か言いたそうに彼を見たがその途端、ダメですとモリアスが釘を刺した。
「まだ何も言ってないだろ!」
そう噛み付くロランに、モリアスはもう一度ダメですと告げて話を打ち切った。
「アーリア、妹をどうか。どうか……」
そう首を垂れる白銀の騎士は普通の妹想いのお兄ちゃんにしか見えなかった。
アーリアは戦場で何度もこの白銀の騎士が馬を駆り、敵兵の中を駆け抜ける様を見てきた。
彼が走り抜けた後は敵兵が次々と膝から崩れていく。
決してのたうち回るような事はなく、首のない体がストンと膝をついていく。
そして膝をついた死体が派手に血飛沫をあげる。
その場に次々と咲く花にアーリアは恐怖した。
駆ける白銀の死神と、赤く、紅く、咲き誇る命の花。
駆け抜ける白銀の煌めきが鋭い刃物のようで心を凍り付かせた。
吟遊詩人が戦場に咲く赤い薔薇と謳っているのを聞くたびに、真っ赤に咲いていたのは敵兵だったけどねと冷ややかに思っていた。
自分が咲かなかったのは、死神が居たのが味方の陣営だったという、ただそれだけの理由である。
今、目の前にいる妹を想う姿がどうしても戦場の姿と重ならない。
戦場にいるよりずっと人間味を帯びた姿に好感を覚える。
「クラリスは私にとって家族ですから。あと、そのうちクラリスを
キンッ!と軽い金属音が響き、顎の下からふわりと風を感じた。
直後アーリアは自身の顎の下で、モリアスのショートソードがロランのロングソードを受け止めているのを見た。
狩人の危機察知が反応するより早くロングソードを抜き、またそれに応じるように受け止めたモリアスの反応の速さにアーリアは驚愕する。
「大隊長、彼女は妹君のご友人、妹君に嫌われますよ?」
モリアスの言葉にロランが我を取り戻す。
「はっ!す……すまない!急に頭が真っ白に!何故私は抜刀しているんだ!」
全身の毛穴が締まり総毛立つ感覚の後、一気に毛穴が開いて全身から汗が吹き出したアーリアはパクパクしながらこう思った。
仮にクラリスと何か関係に進展があっても、報告は全て事後にしよう。
あと、無事に報告するにはモリアスのような護衛が必要かも知れない。
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