第3話 あいうえお作文

 しりとりをした翌日の放課後。わたしはバツのお菓子を買って部室に向かった。

「こんにちはー!いわれた通りお菓子かってきましたよー!」

「お!待ってました!」

 部室にはまだ梓先輩と理沙先輩しかいなかった。

「あれ?寧々先輩と葵先輩はまだ来てないんですか?」

「ええ。もう少ししたら来ると思うけど」

「じゃあ二人が来る前にお菓子を食べきってしまいましょう!」

 梓先輩・・・

 案の定、理沙先輩に「だめでしょ」って注意されている。

「お菓子はみんなそろってから食べましょう」

「はーい・・・」

 しょんぼりしてる。ちょっと子供みたい。

 しばらくしたら寧々先輩と葵先輩も部室に来た。

「ごめん、待たせちゃった?って、クッキーだー!ありがとね!花音!」

「本当だ。ありがとうね。いくらした?約束通り半分出すよ」

「いえいえ、いいですよ。そんなにかかってないので気にしないでください」

 さすがに申し訳がない。

「そう?じゃあありがたくもらうね」

「みんなそろったわね!じゃあいただきまーす!」

 待ってましたと言わんばかりに梓先輩ががっつき始めた。

 それに負けじと寧々先輩食べ始める。

 みるみるうちにクッキーはすっからかんになっていった。

 はやすぎる。わたしはいいとして、理沙先輩と葵先輩は数枚しか食べていないのに。

「ふぁあ、ひょうふぁふぁふぃふる?」

 梓先輩が口をほお袋を大きくしたリスのような状態で話し始めた。

「はすは、ひゃんひょはふぃふぃっひぇひゃひゃふぁふぁひひゃひょ」

 寧々先輩まで!

「寧々もだよ。ふたりとも行儀が悪いからちゃんと食べてから話しなさい」

 ほら、葵先輩に注意された。

「ゴクンッ。改めて、今日はなにする?確か今日は理沙が考えてくる日だったはずだけど」

 ?

「考えてくる日なんてあるんですか?」

「そうなの。当番制でね。今日はわたし」

 へー、そうなんだ。わたしも考えてこないとな。

「今日は『あいうえお作文』をやろうと思うんだけどどうかしら?」

 『あいうえお作文』って確かお題の言葉を文章の頭に持ってきて分を作るっていうゲームだよね。

「『あいうえお作文』、おもしろそうね。やりましょう。お題とかはどうするの?」

「お題はー・・・そうね、自分の名前でいきましょう!」

 ということはわたしの場合は『か・の・ん』で考えるのか。

 あれ?

「私はどうしたらいいですか?」

「そうねー。じゃあ花音ちゃんの三つめは二文字目が『ん』の言葉で行きましょう今日はバツとかはないから気楽にやりましょう」

「じゃあいくわよ!よーいスタート!」

 うーんかのん、かのん・・・むずかしいなー。

「思いついた!」

 寧々先輩はや!

 えーっと、えーっと・・・あ!おもいついた!

「できました!」

 残りの三人もしばらく考えた後、それぞれ完成させた。

「じゃあ発表していくね、まずはわたしから。『料理をしたんだけど、最終的に黒焦げにしちゃった』」

「理沙先輩でもそんなミスをするんですね」

 意外だなー。何でもできるイメージなのに。

 あれ?でもほかの先輩は意外そうな顔をしていない。

「驚くことじゃないよ。理沙は料理がものすごく下手からね。前にバレンタインの時、ボクたちにチョコレートをくれたんだけどそれを食べたボクたちはしばらくもだえ苦しんだからね」

 は、はぁ。そんなことが・・・

 葵先輩の話に梓先輩も寧々先輩も「あれは死ぬかと思った」と苦い顔をしている。

「あの時はごめんなさい。今度は気を付けるから楽しみにしててね」

 けれども一同そろって「遠慮しておく」といった。わたしもそうしよう。

「さ、さあ、仕切り直してウチの番だよ!『寝坊してでも、寝続けるのはいいなぁ』」

「寝坊するんじゃないわよ!」

「あはは。でもボクは面白いと思うよ。寧々らしくていいんじゃないかな」

 たしかに寧々先輩っぽいかも。

「そういうなら梓はどんなのにしたの!」

「ふっふっふ、聞いて驚きなさい!私のはこれよ!『明日の学校を、ずっと家にいることで、さぼろうかしら』」

「『さぼろうかしら』じゃないよ!よくそれでウチのことを言えたね!なんならウチのよりひどいじゃん!」

「なんですって!寝坊とさぼりは違うでしょ!」

 二人ともぎゃあぎゃあ言い合っている。

 どっちもどっちだとおもうけどなぁ。

「二人とも落ち着いて。ボクのは『新しい部員と一緒に、おやつを食べることは、いままでよりも楽しい』」

 葵せんぱい。

「たしかに花音ちゃんがきてよりいっそう楽しくなったわね」

 理沙せんぱいも。

「「あーーー!二人ともいい子ぶってー!」」

 このお二人は・・・はぁ。

「『はぁ』とはなによ!じゃあ花音はどうなの!」

「わたしですか?わたしのは『風が心地よいなか、のんびりと過ごしていると、なんにも気にならなくなる』です」

「面白みがないわね」

 え⁉面白み⁉

「ウチはいいと思うよ」

 ほかの先輩もうんうんってうなずいている。

「悪くはないのよ。でもほかのと比べるとねー」

 まぁ、たしかに、わたしのだけ普通って感じはするな。

「ま、まあこれで今日の活動は終わりね。明日は寧々ちゃんだっけ?」

「そうだよ!ウチだよ!楽しみにしててね!」

「じゃ!今日はこれでおしまい!かいさん!」

「「「「おつかれさま!」」」です!」

 ていうか当番制ってことはわたしのばんもそのうち来るのか。

 何か考えとかないとなぁ。

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