第3話 メリーさんの首

 私、メリー。さっきサファイアくんをぶん投げてしまったの。

 この一面に広がるゴミ山から、たった一人(いっぴき)の

お友達を探さないといけない。

 今は誰も住んでいない家がここにある。多分、何年も前から空き家になっていて

おまけに庭も広いから夜中にたくさんの人間が侵入してきては、好き勝手にゴミを

捨てていく。広すぎてまるで公園のよう。

 誰も管理していないから、たまにゴミあさりに来る人もいる。

 

 「サファイアくーん」

 もちろん返事は、無い。この世に私一人しかいないくらいに静かだ。

 多分、後ろに向かって投げてしまったから、家がある方向にあるのかも

しれない。


 ところで、メリーさんの移動方法って知っている?

 歩行もできるけれど、空中移動がほとんど。

 これをするだけで、子供が怖がるから本当に楽だったわ。私の移動が

速すぎて、逃げる子を何度か追い越したこともあったな。

 だから、わざとゆっくり空中を飛んだ。子どもの背中にくっつくか、

くっつかないかの絶妙な距離感を保つのがなかなか苦労したわ。

 それのせいで一度、封印されそうにもなったけどあの子たち今はもう

大人になったかな。三十年以上経っているものね。


「思い出に浸ってしまった!」

 早く見つけなければ。


「久しぶりにアレをするか」


 ゴミ山よりも一段高い位置まで浮いて首を左に少しずつ動かし始める。

最後にこれをしたのは、いつだったか。ずいぶん昔なので忘れてしまった。

人間であれば左右に動かす程度だろうが、360度回転が可能だ。

 なんせ人形だから。


「サファイアくーん!」

 首元で回転するたびにこすれる音がする。黒板を引っ搔いたような耳が痛くなる音だ。痛くなるような耳はついていないけれど。

 三回転目、首が背中側まで回ったときに、毎日よく見たミルクティー色の

可愛い彼が見えた。電子レンジ(だったもの)の上に着地したようだ。うつ伏せになっている。

「いた!」

 早く抱き上げて、謝らないと。

「ごめんね、サファイアくん」

 どんどん彼に近づくにつれて違和感を覚える。明らかに大きいのだ。

投げると大きさが変わるのか?いやいや。違う。これは、

「液体が入ったボトルかぁ」

 色だけが同じだった。自由に動かない肩をがっくりさせ、また探し始める。


 もうすでに朝日が昇りそうだ。

早く、早くサファイアくんを見つけなければ日が落ちるまで動くことができない。

 

「あ」

 家のある方に投げたということは、もしや中に入った可能性はないだろうか?

そういえば、あの家には一度も入ったことは無い。だって、

「たまに人間がいるし」

 いるのは子供ではないので、私が怖がらせるべき対象ではない。

「あー!」

 人間がいるということは、もしかするとサファイアくんが連れていかれるかも

しれないことに気が付いた。

「あーあ」

 全部、私のせいだ。今急いでいくから、待っててね。

私は全速力で家に向かった。髪の毛も乱れるくらいに。




 

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