第2話 メリーさんのうっかり
私、メリー。
今日はお友達を紹介するね。
一人だと思った?
可愛い人形には、小さくて可愛いお友達がいるのがセオリーなの。
セオリーって意味、分かる?
ミルクティー色をしたふわふわのボディに紺色のベルベット素材の
リボンを首につけている、【サファイアくん】っていうくまのぬいぐるみ。
私の腕にちょうどよく納まってくれるサイズなの。
どこに行くにでも必ず一緒で、落としたことも無いわ。
いや、一回はあったような気がしてきた。
子どもを追いかけている時だったか。
あの子供、泣いて鼻水垂れ流していて、最高の気分になったわ。
それとも、ゴミ捨て場に大人が捨てたときだったか。
お茶会をしていたときだったか。用意された椅子が高くてね。
あら?お茶会なんてしたことあったかな。
まぁ、良いわ。とにかく、一回だけのはず。
「違う、十六回は落としているぞ」
私はどこからか聞こえる声にあるはずのない心臓が飛び出そうな
思いがした(あるにはあるけど、心臓とはまた違う)。
「誰なの?」
「下だよ」
なんと低い声なのか。大人か?
おそるおそる、腰かけているゴミ袋を覗き込むが、それらしいものは無い。
「私はお化けなのに、なんで怖がらないといけないわけ」
そうだ。私は人間から恐れられる側のはずなのに、何故、怖がらないといけないのか。
「てめえの腕にいるだろ、腕を見ろ」
「腕の中には、サファイアくんしかいないんだから。返り討ちにしてあげるから早く出てきな」
私は立ち上がり、辺りを見回した。
「だから、腕にいるくまだって」
「馬鹿、騙されないし。何年も一緒にいるから。くまは喋らないから!」
ヒイヒイ笑っていると、服を引っ張られた。
「ゴミに引っ掛けちゃったかな」
下をみると、
「おう、やっと見たか。」
サファイアくんが口を動かし、私の腕をくいっと掴んでいる。
「サファイアくんなの……?」
「そうだ」
「何で、どうして話しているの?」
「二十年ずっと俺に話しかけていたからじゃないか?」
サファイアくんは話を続けた。
「メリーさんらしいこともできずにずっとゴミ捨て場を転々としていたから、暇つぶしで俺に独り言を言っていたからなぁ。俺も話したくなってみたんだ」
「ぎゃー!」
思わず、サファイアくんを落としてしまった。いや、投げてしまった。
だって、何年も一緒にいたけど、普通のぬいぐるみだよ。
おかしいよ。私もおかしいけど。
「おい! これで十七回目だぞ! 早く助けろ! お前から離れると、話せ、な……」
声が聞こえなくなってしまった。
「まさか、本当にサファイアくんが私の為に?」
話せるようになったというのか。
「どうしよう、探さなきゃ」
しかし、辺りを見回してもゴミ、ゴミ、ゴミだ。
使えなくなった冷蔵庫や自転車、いつから置かれているのか
分からない車まである。
「多分、あっちに投げちゃったような」
夜の間だけは自由に動けるので、急いで探さないと。
もう少しで、太陽が昇ってしまう。
もし、見つけられなければ私は本当に一人だ。
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