メリーさんの失意

沖盛昼間

第1話 メリーさんの自己紹介

 メリーさんって知ってる?

 綺麗な金色の長髪に可愛いピンク色のりぼんがついたカチューシャを身に着けているの。真っ白な肌と透き通った青い瞳に薄いピンクの唇。白いフリルがたっぷり使われた、赤色のワンピースがとても似合う、小さい女の子の人形なの。靴ももちろん赤色。


 私のことだけど。

 きっと人間なら【可愛い】の部類に入ると自負している。

 

 私、実は人間じゃなくて、お化け。

 子供たちが寝静まった夜に突然電話をかけるの。

 大人が電話に出るかもしれないって?

 そこは私もぬかりなく、大人には電話の音が聞こえないようにするに

決まっているじゃない。はっはっは。


 一回目の電話はその子の最寄駅からかけるの。

 たいていの子は「え?」とか「間違い電話ですか」とか

その程度で終わる。

 

 二回目は、自宅近くの曲がり角辺りからかけるの。

 ほとんどの子は「何言っているの?」、「メリーさんってあのメリーさん?」

って言ってくれる。

 

 三回目は、その子の家の前まで行って電話をかける。

 ここまでくると、電話に出てくれない子が現れ始めるから何回も電話する。

 お父さんかお母さんを起こして、代わりに出てもらおうとする子もいるけど、

残念でした。せいぜい夢を見ているんだよとか、早く寝なさいとか言われて終わり。


 そして四回目は私の名セリフの登場。

「もしもし。私、メリー。いま、あなたの後ろにいるの」

 このときの子供たちの顔は傑作。私、なかなかやるじゃないって思う。

 きっとお化けの中で一番子供たちを怖がらせているはず!


 でも、これが通用したのは二十年前まで。

技術が発達して、携帯電話を持ち始めた人間が増えたせいで、固定電話を家に

置かなくなった。

 携帯電話に掛ければ良いじゃないって思ったでしょ?

 私がどうやって、電話をかけていたと思う?

 

 人間たちの電話番号が載っていた本があったからそれで適当にかけていたの。

 あなたたちは知らないでしょうね。そういう時代もあったの。

 

 そんな本はどこにあったかって?

 公衆電話にあったんだー。知ってる?

 知らなくても良いわ。

 

 魔法みたいな力を使って、電話をしていたのではないのかって?

 そんな力、あるわけないじゃない。

 あるのは【トイレの花子さん】くらいじゃない?

 あの子元気かなぁ。まだ、トイレにいるのかなぁ。

 

 とにかく私は自力で子供たちを怖がらせてきた。

 なのに、人間たちのせいで存在意義が無くなっていく。


 私が私じゃなくなっていく。このままだと消えてしまう。


 どうしよう。

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