第31話 アギの真実

 アギ・レンブラントは指令室の床に転がされていたが、ノアがゼオンを呼び出したことにより部屋が崩壊。それにより体が転がっていき、今は大滑穴だいかっけつの地面の上に転がっていた。

 ズシンズシンと歩き回る巨人に未だ踏みつぶされていないのはただ単に運だ。


「おい、何だよ⁉」

「どうなってんだこれは⁉」

「どうして俺達まで襲う⁉」


 大滑穴だいかっけつは混乱を極めていた。

 動き出したBGバイオジャイアントと呼ばれる巨人たちは近くにいる存在ものを手当たり次第に襲い始める。この大滑穴での作業員であるミュータントも、彼らを無理やり働かせていた監督者であるボルカ帝国の兵士も関係なく、羽虫の如く平手で潰したり、ウジ虫の如く足の平で踏みつぶしたり、BGバイオジャイアントは近くにある生き物をことごとく殺しつくしていた。


「どうして暴走している⁉ ガイウス様! 制御されていないので⁉」


 兵士の一人がこの施設の指令である男に尋ねるが、


「ハハハハハハハッ! 素晴らしい! 火星樹細胞を培養させて作ったBGバイオジャイアントは無敵である! どんな傷をつけられたとしても瞬時に回復する不死身の巨人!」


 ガイウスはゼオンと顎を鉄板で固定している巨人との戦いに夢中だった。

 両手を広げて、興奮した様子で、

「いいぞ! やれ! やってしまえ! このもう一体のゼオンを倒せ! そして言凪ノアを引きずりだせ! 俺に逆らったことを後悔させてやる! 俺は自分の名誉を傷付けられるのが一番嫌いなんだよ!」

 幼稚なことをのたまう。


「ク……ッ! これだからボンボンは! いざという時に役に立たない!」と、兵士の一人が完全にガイウスに見切りをつけて、銃口を暴れ回るBGバイオジャイアントの一体へと向ける。

「撃て! 撃て! 撃てぇ!」


 誰かが号令をかけると一斉に兵士たちの銃口から弾丸が飛び、巨人たちの身体に刺さる。

 だが、弾丸が当たり血が飛散るも、すぐにその傷はふさがってしまう。

 傷の周囲の体細胞が爆発的な勢いで分裂し、まるで最初から傷などなかったかのようにその損傷個所を産めてしまうのだ。

 ギロリと、銃弾を浴びたBGバイオジャイアントの内の一体、狼の巨人が兵士たちを睨み、


「うわああああああああああああああああああ‼ だ、だれかたすけてくれぇ――――‼」


 長い手で一人の兵士を掴み上げるとそのまま頭に食らいつく。

 ブチリ……。

 まるでスナック菓子を食べているかのように狼のBGバイオジャイアントは兵士の頭を食いちぎり、そこから肩の部分、腹の部分を食いちぎり、最後にポイと残った下半身を口の中に放り込んで咀嚼そしゃくをした。


 ————オォォォォォォォォォォォン! 


 吠える。


「「「「ひ、あああああああああああああああああああああああああっっっ‼」」」


 兵士たちは恐慌状態に陥った。 

 銃を捨て、標準装備である暗視ゴーグルと防弾ジャケットを脱ぎ捨て、我先にとある一か所を目指してかけていく。

 地上へと上がる大エレベーターへ向けて。

 だが、そこには他にも同じことを考えている兵士や作業員でごった返していた。百人が乗れるほどの大きな鉄板の下に大滑穴だいかっけつの斜面にそったレールがあり、鉄板の奥にあるボタン一つ操作でレールの上を登っていくという……という仕組みなのだが、そこにかるく五百人近くがぎゅうぎゅう詰めでおしかけており、何十人と鉄板からはみ出、あまりにも混乱を極めすぎていて、操作ボタンも人に埋もれて誰も押せなくなってしまっている状態……。

 完全なパニック状態だった。


「おい、おっさん。ガイウス指令様よぉ!」


 そんな状況我関せずと、地面に転がっているアギ・レンブラントは、興奮してゼオンと鉄顎のBGバイオジャイアントたちの闘いを

「クハハハハハ! やれ、やれぇ!」と観戦しているガイウスに声を飛ばす。

「あぁ? なんだ小僧?」

「俺の拘束を解いてくれないか? 今からここに俺のMGマルチギアが来るんだが、流石に20メートルもある鉄のロボットだ。後ろ手を縛られた人間を解放するなんて器用な真似まではできないんでね。あんたにやってもらうと、凄く助かる」

「誰にものを言っているのだ。愚か者めが。どうして俺が貴様の拘束を解く必要がある? 貴様はそこで転がり死んでいろ」

「いいのか? 拘束を解いてくれたら、あんたを見逃してやっても良かったんだが?」

「あぁ?」


 ガイウスが顔をしかめてアギを見る。

 と、その瞬間驚異的な何かを見たかのように大きくガイウスの目が見開かれる。


「なんだ……貴様は……?」


 アギの顔が変色していっていた。

 血色のいい肌色から、青い、湿り気を帯びた顔へと変わっていく。


「俺はな、実はミュータントなんだ。ここにいる奴らと同じようにな。ただ血が薄いからクスリで抑えることが可能だし、完全にミュータント化したとしても皮膚の色が変わるぐらいと、首元にひれが出るぐらいでな。全身毛むくじゃらになるよりは全然軽い……」


 ざわざわとアギの全身の皮膚の上が騒めき出す。


「お前……魚か? 魚のミュータントか?」


 毛穴から魚のミュータント特有のぬめりのある液体が放出され、アギの体表を覆っていく。


「ああ、そうだ」


 肯定されたが、ガイウスには彼が何の種類のミュータントなのか判別ができない。

 魚のミュータントならば特徴的なものがある。

 それは鱗だ。

 硬質のいくつもの細かい円盤状の鱗が魚のミュータントであるのなら体を覆うはずなのだが、それがない。


「貴様は何者だ?」


 だから、ガイウスにはアギが創世の巫女と共にきた謎のこの男が恐ろしく不気味に見えた。


「俺か? 俺かい? 俺はアギ・レンブラント……イルカのミュータントだ」


 アギが笑う。

 つるりとした青い肌を見せて。


「イルカ……」

「知っているかい? イルカっつーのはな。頭の特別な器官で超音波を発して仲間と交信ができる、いわばテレパシーみたいなやつを使うんだよ……そして、俺もな、あんだよその器官が」


 ズッとガイウスの頭上を影が覆った。


「な⁉」


 見上げるとそこには、装甲にオレンジ色のラインが走る、巨大ロボットMGマルチギアがいた。


「俺のトワイライトプットは、その超音波を受信し遠隔操縦ができる!」

「やめ……」


 ズンッと恐怖に顔を引きつらせるガイウスを、トワイライトプットは一気に押しつぶした。


「悪辣な大滑穴だいかっけつの王様も死ぬときはあっさりだな」


 後ろ手を縛られたまま、芋虫のようにもぞもぞと動き、なんとかアギは立ち上がる。


「さて、バカを一人踏みつぶすことは遠隔操縦でも可能だが、細かい動きは流石にできんぞ……」


 アギはざっと周囲を見渡し、いたるところで自己再生能力を持つ肉の巨人、BGバイオジャイアントが暴れ、混沌を極める大滑穴だいかっけつを見渡す。


「とりあえずは……」


 蒼い髪の毛を持つBGバイオジャイアントはまだ倒れているゼオンを殴りつけていた。

「あいつの援護でもしようかね!」

 脳から超音波をトワイライトプットへ向けて発し、その命令を受信したトワイライトプットは光子弓ビームボウをゼオンの上に乗っているBGバイオジャイアントへ向けて放った。

 そしてバシュッと音がして、奴の頭部は弾け飛ぶ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る