第30話 失われた命
「あぁ———!」
そこにはロコナさんとその赤ちゃんがいたはずでした。
ですが今は、壁が吹き飛び砂埃を挙げて、中から巨大な生物が飛び出してきます。
半獣半人の二十メートルはある巨人たちがぞろぞろと、全身を謎の液体でぬらしながら管理棟の開いた穴から出てきます。あまりにも体が大きいものですから、穴をどんどん広げ、段々と管理棟全体までヒビが入り、やがて建物そのものを崩壊させていきます。
「なんてことを……!」
「ハッ! 驚いている場合かい。言っただろう? 奴らは俺の脳波と繋がっていると、直ぐに俺を取り返しに……、」
————キシャアアアアオオウッ‼
一体の巨人が奇怪な叫び声をあげながら私に飛び掛かってきました。
姿は燃え盛る青い炎のような髪をもつ、鉄板で顎を覆い、全身に鎖を巻いている大男。
まるでフランケンシュタインのような巨人がゼオンに飛びつき、そのまま大地に組み伏せます。
「きゃ!」
私は倒れた拍子に手を緩めてしまい、ガイウスはその隙をついて逃げます。
わー、わー、わー……!
周囲で悲鳴が上がり、作業員も兵士も散り散りに逃げていきます。
「く、このぉ……! ハッ……⁉」
立ち上がろうとした時に気づきました。
手元に割れたカプセルがあります……。
三十センチぐらいの……。
その近くには原型を留めていない 肉と血の 塊が……。
ドンッ!
「あぁ……!」
肉の塊があった場所を大フランケンシュタインが踏みつけました。
————キシャアアアオウ!
そして、威嚇をするように私に向かって、吠えます。
「あなた……あなた……あなたはッッッ‼」
目の端から涙が零れます。
零れながらも立ち上がり、拳を握りしめました。
「あなたはああああああああああああああああああああ‼‼‼」
自分がどんなとんでもないことをしたのか、わかっているんですか⁉
「あなたたちは!」
ゴッ、とフランケンシュタインの横面を殴り、
「一つの命を!」
ゴッゴッ! と次々と左右からフランケンシュタインの顔面を殴りつけ、脳みそが揺らされたのか、フランケンシュタインは一歩二歩とよろけて後ろに下がっていきした。
「何だと思っているんですか————⁉」
そして、思いっきり力を込めた一撃を、右の拳をおおきく振りかぶり、フランケンシュタインの顔面にストレートを叩きこみます。
パァンッ!
ゼオンの右ストレートを顔面にまともに食らったフランケンシュタインの顔は風船のように弾け飛びました。
「えっ……⁉」
ここまでするつもりはありませんでした。
まさか、やわらかいスライムのように簡単に頭部が砕けるなどとは夢にも思わず、怒りのままに、力任せに拳を叩きこんだ私でしたが、その結果命を自らの手でつぶすことになるとは夢にも思っておらず、困惑します。
「だ、だいじょう……!」
取り返しのつかないことをしてしまったと思ったその瞬間です。
うねうねとゼオンの腕にこびりついたフランケンシュタインの肉片が這いまわり、元あった場所———フランケンシュタインの頭部があった場所へと収束していき……、
「う……そ……元に戻……」
—————キシャアアアオウ!
顔面が完全に再生したフランケンシュタインが再び咆哮し、ゼオンに向かって飛び掛かり、茫然としていた私はそのまま力任せに押し倒されてしまいました。
「きゃあああああああああああ!」
そして、馬乗りにされたゼオンはフランケンシュタインの巨人にのしかかられ、拳を上からたたき込まれます。
ガン、ガン、ガン……と、何度も、何度も……。
「…………うぅ」
激しい暴力に目がくらんできました。
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