第22話 世界の広さの悪しき部分

「にく……つぼ……?」


 何を言っているのかわかりません。

 ただ、その言葉には怖い響きがありました。


「それは一体なんですか?」

「子供を産むための道具だ。お前にはそうなってもらう」

「道具になってもらうって……酷い言い方。人権はないんですか?」


 あまりにも私を、女性を軽視している発現にカッと熱くなりましたが、ガイウス指令の態度は変わりません。


「ないな。この大穴にいる人間には人権などない。ボルカ帝国の者以外はみな等しく人であらず」


 シュル……。

 ガイウス指令がネクタイを外し、首元のボタンを外し、軍服のジャケットを脱ぎながらゆっくりと机を回り込んで近づいてきます。


「な、何をするつもりですか?」


 私は本能的な恐怖が沸き上がり、自分の身体を隠すように抱きしめます。そんな光景を残っている兵士たちがニヤニヤと笑いながら見ています。

 これは……下卑た笑みとでもいうのでしょうか。


「何度も言わせるな。肉壺に成ってもらうと言っただろう。これから貴様はこの大穴で働く炭鉱夫たちに抱かれる。そして子供を産む。何人もの顔もしらない女の扱いも知らない男たちに子宮が擦り切れるほど抱かれ、膣口が開きっぱなしになるほど子供を産んでもらうのだ。その穴がガバガバな緩いババアの股座のようになる前に、味見をさせてもらう。それがこの俺の、大滑穴だいかっけつ指令の醍醐味だ」


 服を脱ぎ捨てて裸になったガイウスが私の前に立ちます。


「何を……何を言っているのか理解ができません!」

「これはこれは、思ったより頭の悪い監査官だな。本国でその程度の教育も受けていなかったのか? それともあの男が怪しまれないために人買いから買った無知な奴隷か? まぁいい。それもそれでイキリ立つ」


 ガイウスが腰をクイと突き出したので、視線がそちらに向いてしまいます。

 ズボンが、張り裂けそうなほどに盛り上がっていました。


「何なんですか……何なんですか……ソレ……」

「ハハ……純粋そうなメスガキだ。いいぞ、そのように知らないそぶりを続けろ。何も知らない無垢な子供を大人の劣情に任せてブチ汚すというのは最高に興奮する瞬間だ!」


 ガイウスの手が私の服を掴み、一気に引き裂きます。


「きゃああああああああああああああああああああああああああ‼」


 ものすごい力でした。

 まるで私のカマクラ第二中学校の制服がぼろ布……いえ、紙切れのように引きちぎれ、身体を抱きしめるように守っていましたが次から次へとガイウスの手は私の服に伸びて、ビリビリ、ズタズタと引きちぎり私は下着だけの姿に成ってしまいました。


「や……やめてください……裸なんて……まだ誰にも」

「何を言っている? まだ乳首もヴァギナも晒されていない。ガキ臭いパンツと、ガキの癖に生意気につけているブラジャーもつけっぱなしではないか……」


 そしてガイウスの手は私のブラのホックに手をかけ、パチンと音を立てて外しました。


「いやッ!」


 ブランと背中で止まっていた紐が脇の下に垂れ下がります。


「フハハハハハ! 可愛らしい反応をするじゃあないか!」

「やめてくださいこんなこと……どうして私の裸を見ようとするのですか⁉ そんなことしても何にもならないのに!」


 ただ、私が怖いだけなのに……。


「……もしやもしやとは思っていたがぁ……本当に知らないのか? おい小娘。赤ちゃんというのがどうやってできるのか、知っているか?」

「え?」


 そんなの当たり前……知っています。

 お母さんから習ったから。


「好きな人同士が『愛している』って言って一緒に過ごし始めたら、コウノトリさんが運んできてくれるんです!」


 だから、大切な人だと言う証明であるハグもキスも、無暗にやったらいけないんです!


「「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ‼‼」」」


 指令室の中が笑いで満ち溢れます。


「な、何が可笑しいんですか……?」

「いや、本当に知らないとはなぁ。どうやってガキができるのか……よっぽど箱入りで育てられたと見える……そんな貴様に現実というものを教えてやろう」


 そういって藪から棒に、ズボンを脱ぎ捨ててその下にあるモノをさらけ出しました。


「キャッ⁉ ウ……‼」


 グロテスクな棒でした。

 亀の頭のような……。


「なんです……それ……?」

「それすらも知らないのか? ペニスだよ。おちんちんだよ。男には皆生えている」

「そんな、お父さんのはそんなのじゃない……幼稚園のときにみた同級生のものもそんなのじゃ……」

「勃起をすればこうもなる。それにそこらへんの凡愚とは一緒にするな。俺のモノは特別デカい。奴らが豆鉄砲だとすれば、俺のは八十センチ列車砲グスタフだ」

「何を言っているのかわかりませんが……皆にはついていないと思います……サイさんだって、そんなに大きくはなかったです。そんなに大きかったら邪魔です……!」


 朝、サイさんと会った時のことを思い出します。


「サイって言うのはお前に近しい男か? お前の好きな男か? じゃあ残念だったな。お前の処女はそいつにはあげることはできない。俺が突き破るからな」

「嫌、イヤア!」


 ガイウスが私のパンツを掴み、


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 一気に引きちぎりました。


「ハハハハハハッ! いい反応だいい反応だ! もうその声を聴くだけで出てしまいそうだ!」


 絶対に男の人に見せてはいけない部分が、外気に晒されています。


「サイさん……サイさん……サイさん……!」


 男の人に見せるとしたら、あなたにしか見せたくなかったのに。


「ハハハハ! 気の毒になぁ、こんな時にもなって名を呼び続けるとはよほど優しい男だったようだ。絵本に出てくる王子様のような男だったか? まぁもっともそんな男にもペニスぐらいは生えているし、王子とお姫様もこれからヤることとたいそうないことを結局はヤるのだ。そう考えると夢なんか見ずにとっとと諦めて現実を受け入れた方がいいぞ!」


 ガシリとガイウスは私の腰を掴みます。


「何をするんです⁉」

「ナニをするんだよ! お嬢ちゃん!」


 グロテスクな股間から生えている棒を、私のおしっこを出す穴にめがけて、一気にガイウスが腰をつき出そうと———、


「痛みは一瞬だ————!」


 振りかぶりました————、


 その時です。


 ビーッ、ビーッ、ビーッ!


 突然、指令室中に響くほどのサイレンの音が鳴り響きました。


「どうした⁉」

「八番坑道で落盤事故です!」

「何⁉ くそ……こんな時に……まぁいい」


 スッとガイウスが腰を引き、私の腰を掴む手からも力を抜き、立ち上がりました。


「貴様のようなガキはどうせこれからいくらでもやってくる。楽しかったぞ」


 ガイウスは私から急に興味を失ったようで、ズボンを履き戻し、報告に来た兵士の人と会話をしつつ、上着も着始めます。


「第八作業場の落盤……被害はどれくらいだ?」

「作業をしていた炭鉱夫が十二名、生き埋めになっているそうです」

「監督者である我が軍兵士は?」

「それは幸いにも一人も巻き込まれずに」

「くそ! しかし第八作業場は使える個体がいて作業が順調に進んでいたというのに……状況を確認する。これで我が計画に支障が出ては馬鹿馬鹿しいからな……!」


 服を着終えるとガイウスは指令室を出て行きました。


「う……うぅ……う……ううう……!」


 あとには、ただ裸で、背中を丸めてうずくまることしかできない私しかいません。

 私は絨毯の上でもない、冷たい床の上でただ泣き続けていました。

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