第7話 鏡の向こうのあの人
遠くから何かが弾ける音が聞こえます。
爆竹のようなそんな音……。
「運動会でもやっているのでしょうか……」
ギシギシと旧校舎の木造の床を踏みしめながら、私は三時間前に掃除をした教室へと向かいます。
「誰もいませんよね~。いたらいたで怖いんですけど……」
旧校舎には幽霊がいる。
そんなサイさんとトモさんの言葉にビクビクと怯えながら、一階の階段から向かって二番目の教室に辿り着きました。
ホッと胸を撫でおろします。
すぐに落ちている携帯を拾ってユイハマ大学へ行こうとガラガラと扉を開けます。
「失礼します」
誰もいないのがわかっていながらも、どうしても私はそう挨拶をしてしまうのです。
中に入って床の上を目に力を入れて見つめます。
「どこにあるんでしょう……あぁ、カグラさんに手伝ってもらえばよかったかもしれません」
カグラさんはラクロス部のマネージャーです。選手ではない彼女はトモさんと違ってあまり部活に時間を拘束されず、出席すらもカグラさんの意思次第で頼めば絶対に協力してくれました。
もう一つ、スマートスティックがあったら呼び出し機能で私のスマートスティックが振動するのに。
「う~ん……」
スマートスティックは爪楊枝より少し大きい程度の本当に小枝のような端末です。ですので持ち運びは当然便利なのですが、あまりのも小さすぎてこういう時には見つけるのが困難です。
こんなことがあるから、正直もう少し大きくて重たい端末の方が便利だったんじゃないかと、携帯機器の進化の歴史を呪ったりもしましたが、ようやく……。
「ありました!」
床の上に転がる白い機械の小枝———私のスマートスティックでした。
それを拾いおうと駆け寄りますが、
「え———」
異常に気が付きます。
「こんなところに、鏡なんてありましたっけ……」
教室後ろの壁に立てかけられている大鏡。
その〝向こう〟に私のスマートスティックはありました。
「え、え、え?」
背後を振り返ります。
そこには何もありません。何も落ちていません。ただの木で出来た床があるだけです。
ですが、鏡に映る私の姿のその奥に、私のスマートスティックはあるのでした。
「どういうこと……ですか?」
鏡の中にだけ、あります。
私の携帯が鏡の中に閉じ込められてしまったようでした。
「そんな、どうすれば……」
鏡の向こうの携帯に手を伸ばして見ても冷たい鏡面にコツンとあたり、それを阻みます。
———これ、あなたの?
「え………⁉」
その瞬間、頭の中に声が聴こえました。
気が付くと、私の視線の先に一人の女の子がいます。
茶色い髪の毛を左右に結んで房が大きいツインテールの特徴的な可愛らしい子でした。
「あ、あなた誰です? どうして鏡の中にいるんですか? それは私の……」
———私が誰なのか、あなたはよく知っているはずだよ。ノア。
「え……」
その声に私はなんだか懐かしさを感じてしまいます。
「もしかして……お姉ちゃん? イヴお姉ちゃん?」
少しだけ、幼いような気もしますが、その顔や髪の色は私の姉、言凪イヴにそっくりでした。
三年前にいなくなってしまった。私の……!
「お姉ちゃん! いままで何処に行ってたんですか! ずっと心配していたんですよ! ようやく、ようやく会うことが……」
感情が咳を切ったようにあふれ出し、そのまま言葉にするとお姉ちゃんは首を横に振ります。
———私はあなたのお姉ちゃんじゃない。この姿はあなたの記憶から姿を借りただけの仮初の姿。本当の私の姿じゃない。
「え…………」
———だけど、あなたが姉に会うための道筋をつくることはできる。さぁ、私の元に来て、ノア。
鏡の中のお姉ちゃんが私に手を伸ばします。
———この手を取って創世の巫女よ。今こそ始まりの
「そうせい……の……」
私はお姉ちゃんの手に向けて、惹かれるがままに手を伸ばしていきます。
その時でした———。
ドォンッッッ‼
「きゃっ⁉」
大きな爆発の音が旧校舎の窓をビリビリと揺らします。
「何……⁉ AI自動車の事故でも近くであったんですか?」
空中都市ジパングでは車は全て自動運転で、ほとんど事故はないのですがごくまれにプログラムバグによって事故が起きます。去年に一度、センサープログラムが誤作動を起こして住宅街に突っ込むという事件がありましたが、それが学校の近くで起きたんじゃないかと私は思いました。
ですが、それは違うようです。
「何……あの煙……?」
壁と木に遮られていてよく見えませんが遠くの方で黒い煙が上がっています。
自動車事故じゃない。何かもっと大きなことが起こっているようです。
「迎えだよ」
廊下の方から男の人の声が聴こえます。
「え……だ、誰ですかあなた!」
その人は初めて見る人でした。
サングラスをかけた私より頭一つ分背が高い、荒っぽそうな雰囲気のある男の子。
「俺の名前はアギ・レンブラント。海賊だ」
男の子はサングラスを外すと、その下にある金色の瞳が晒されます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます