第14話 みんな


 一方、部長は焦っていた。

 会ったことのない雰囲気の水野が人を殺していたのだから、もちろん部長も他のみんなも人なんて殺したことはないし、せいぜい魔物が数頭程度だ。そしてみんな今頃こっちに向かっている。先行して部長が出てきたにすぎないからだ。

「あー、どうしよう!これはみんなに伝えなきゃ!」

「どうしたのだ?あれは一緒に召喚された者だったのか?」

「そうですよ!あいつ1人で逃げたんだ」

「なに!ではいますぐそいつを殺してしまわなければ!」

「無理でしょ?ここを通ってあっちにいける様なやつにあなた方は勝てるんですか?」

「そ、それは」

「あなた方さえここで捕まえてればどうってことなかったのに!」

「す、すまないとしか言えないな」

「そうでしょう?相手は何を使えるのかわからないんですよ?それに人をもう殺してます。気に障ったらあなただって危ないですからね」

「む、むう」

 指揮官グラードもぐうの音も出ない。

「俺はこのことを次来る奴らに早く伝えなきゃならない!馬車を出してください!」

「…仕方ない」


 馬車に乗り込み逆走して行く。


 一週間もかかりようやくみんなと合流できた。


「待て!待って!止まれぇぇ!」

 部長の前で馬車を止める。

「みんな!聞け!水野と会ったぞ!」

「は?なんで水野が?」

「水野がどうしたって?」

 全ての馬車が止まるとみんなが降りてくるのを待つ。

「水野が…」

 部長は会ったことを、ありのまま伝える。


「じゃあ今王城には帰還の術がないわけか?」

「そうだ!それにあちらも人だと言っていた。水野があちらにいる理由はわからないが」

「戻るぞ!」

 勇者の風間がそう言うと皆が頷く。

「え?どうするんだよ戻って」

「聞くんだよ本当に帰還の術がないのなら俺らに従う道理が無くなる!」

「そしたら戦争なんかに使われることもないな!」

「そうだ!戻るぞ!」

 みんなが戻ろうとしていると騎士団長が出てくる。

「なぜ動かない?別にそんなこと関係ないだろ?」

「は?あんたは馬鹿か?俺らは帰るためにやってきたんだ!それが帰れないのなら行く気はない!騎士団長でも流石に俺たち相手に出来るのか?」

 剣呑な雰囲気が立ち込めると、

「わ、分かった、では一旦引き換えそうではないか!それで気が済むのならな!」

 騎士団長は震えていた。いくらなんでもそれはありえないはずだからだ。もしそうだとしたら自分の命が無いこともありえるから。


「よーし!じゃあ戻るぞ!」

「「「おおー!」」」


 騎士団長のこれまでの扱きに耐え抜いた生徒たちがいる。それはとても強く騎士団長にはとてもじゃ無いが敵わない。


「万事休すか…」

 騎士団長はこれまでのことを走馬灯の様に思い出す。

 もし帰還の術が無く暴動に発展したらと考えると生きた心地がしなかった。


「あってくれ」


 ただ一言そう言い目を閉じる。


 王城まではそこまで長くは無い。

 途中途中で休むがその度に震えがくるほど勇者達に睨まれる。

「水野が言っていたのなら本当だろう」

「やっぱりそう思うよな」

「あいつは誰にも見つからずに外に出る術があったんだ。王城の宝物庫なんて言ってるはずだな。俺ならそうする」

「俺でもそうするな」

「しかし自分1人だけ変えるなんて許せないな」

「だがあいつはもう元のあいつじゃなかった。ほんとに生きた心地がしなかったよ」

「だから厄介なんだ。多分この中の誰よりも強くなってるさ。それだけのポテンシャルを持っていたんだろうな」

 いじめていた3人は静かになっている。

「はぁ、3人じゃ無くて俺らも標的だろうし、今後の身の振り方を考えないとな」

「なんだよ身の振り方って?」

「帰れる当てを探すのは王に任せようと思う、脅せばいいだろう。王制なんて古いんだよ!それにもう今更水野に期待はできない。だから俺らは俺らで帰る手段を探さなきゃいけない」

「謝れば許してもらえないか?」

「そう言うのはもう無理だろうな、あいつは人を殺したんだ。もう普通じゃ無い」

「そ、そうだな」

「それよりもあいつを見ろ、多分どうやって逃げるか考えてるんだと思うが逃すわけにはいかない!」

「そりゃそうだ!あいつには扱かれたからな!」

「よくここに入れるもんだよ」

 と矛先を騎士団長に向ける。

 


 王城に戻ると騎士団長が前を歩き、勇者達は帯剣したままで王のいる場所に向かう。

「な、何事か?」

「逃げた1人にあった!帰還の魔導書と言うのを持って行ったそうだがこの王城に残っているのか?」

「は?そ、そんなもん宝物庫に…い、今すぐ宝物庫に行ってこい!」

「は!」

「俺らも行く!」

「な、な、ならん!あそこは」

「何が大事かちゃんと分かれよ?今は本当のことを言うのが大事だぞ?」

「わ、分かった。連れて行け」

「よし、俺たちが言ってくるからみんなはここで逃がさない様待機していてくれ!」

「「「はい」」」

 これで王はもう逃げられない!帰還の魔導書と言った時点で王は、宰相は分かっていた。多分亡くなっているであろうことが。それをどう言い訳するかを考える時間が欲しいと…

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