第14話 かなくら
落合夢華から手切れ金として渡された大金は一円も使わずタンスの中に眠っている。いわゆるタンス貯金状態だ。家にいるとついつい封筒を取り出しては中身を確認してしまう。
返して欲しいとか言われるんじゃないかと思うどころかあの日以降連絡すらない。本当にこのまま素直に受け取ってしまって良いのだろうか。
いや、僕は何としてもこの大金を本人に返したいと思っている。
だが、今となっては返す術がない。連絡先も何も知らないのだから。
「んー。どうにか連絡を取る方法はないかな。ん? そうだ」
僕はある人物に連絡を取ってみた。
電話を掛けて三コール目で相手は応答した。
「はい。もしもし」
「あ、もしもし。僕、小瀬だけど。今、良かったかな?」
「小高じゃん。久しぶりだね。そっちから電話を掛けてくるなんて珍しいね。別に何もしていなかったから全然平気だけど、何かあった?」
「まぁ、色々と。実は……」
「待って!」と電話の向こうから僕の話を遮って言われた。
「当てていい?」
「え? どうぞ」
「ズバリ……恋人が出来た。そうでしょ?」
「全然違いますが」
電話の向こうでズッコケる音が聞こえた。
「じゃ、なんだっていうの」
「落合夢華についてだ」
それを言った瞬間、電話の向こうで緊張の糸が研ぎ澄まされた気がした。
「会って話そうか」
そう言って会う約束を取り付けて電話を切った。
丁度、近くにいたらしく僕は自宅に招き入れた。
「久しぶりだね。小高」
「久しぶり。かなくら」
現れたのは
あだ名はかなくら。元クラスメイトで同じ天文部だったことから良き友達になった。見た目はボブカットで小柄な感じだ。男兄弟が多いことが影響しているのか男っぽいノリが好きな様子。僕としても変に意識せず接することが出来る相手とも言える。
高校を卒業して何度か会っていたが、就職してからパッタリと会わなくなってしまったので実に一年ぶり。
久しぶりに会ったかなくらは髪が少し伸びており、派手なピンク髪になっていた。ちょっと女の子らしくなっていたので驚きだ。
「何か飲む?」
「じゃ、コーヒーを頼む。ミルクたっぷりで」
多少図々しいところはあるが、僕とかなくらの間では普通のことだった。
時間が経っていてもこういうノリが続けられることはありがたいことである。
「それで夢華がどうしたって?」
「あぁ、実は……」と僕は再会してからのことを話した。
「なるほど。つまり不意に受け取ってしまった大金を返したいと」
「あぁ、かなくらならあいつの連絡先を知っているんじゃないかと思って」
「うむ。まぁ知っているけど、私も長らく連絡を取っていないので連絡先を変えていなければの話だが……」
メールツールを見せてもらうと二ヶ月前までの履歴が残っている。
他愛もないやりとりだけで特に変わったことはない。
「長らくと言いつつ、最近まで交流があったんだな」
「そうでもないぞ。会ったのは半年くらい前だったかな。その時は二人で会った訳ではなく複数人で集まった時にたまたま夢華が居たって感じであって二人で会うことはしばらくない」
当時もかなくらと落合夢華は親しいというよりグループの中に居たって感じだった。可もなく不可もなしといった感じだった。
かなくらも落合の裏があったことなんて知りもしなかったという。
当時はかなくらも何度も誤ってきたが、紹介した責任が根付いていたらしい。
当然、かなくらは何も悪くない。
「かなくら。メッセージを送ってみてくれないか?」
「今から? 返事が返ってくるとは限らないぞ?」
「そこをなんとか頼めないかな?」
「仕方がないなぁ」
かなくらは落合に『おひさ! 元気?』とメッセージを送る。
だが、メッセージを送ってから十分くらい経っても既読すら付かない。
「まぁ、そういうことだ。見当違いだったみたいだな」
「んー。おかしいなぁ。肩身離さずスマホは持ち歩いているはずだが」
当時から返信だけは早かった印象がある。授業中もバイト中もすぐに返信するような奴だった。それは依存レベルで寝ていてもスマホを離さないほどだ。
そんな落合がメッセージに気付かないはずはない。
「なぁ。一層のこと開き直って有り難く使うというのはどうだろうか。私に何か奢ってくれよ。そうだな。寿司か焼肉が良いかな」
「バカ言うな。そんなことできる訳ないだろう。この金は絶対にあいつに返すって決めたんだ」
「小高も頑固だな」
「普通だ」
その時である。かなくらのスマホの通知が入った。
お互いがギョッと視線を向けた。
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